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第5章 家族
第5話
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「……ふーっ……新記録」
イレミオはぐったりと座り込んだ。
「大丈夫かい? 新記録って?」
「今までも、いろんな世界をちょっとずつ覗けてたんだけど、安定しなくて。あれだけ長くはっきり見えて、声まで聞こえたのは初めてなんだ。レオを探してるみたいだったから……」
「君はすごいな。ありがとう、本当に」
ラトゥリオ様は、顎に手を当てて考え込んでいる。
「イレミオ。あの玉は、また出せるのか?」
「はい。ひと月に一度くらいの割合ですけど」
「繋げる世界は、お前が選んでいるのか?」
「何となく。今回は、二人がそばにいたからああいうことになったんじゃないかなぁ」
「力が共鳴したってこと?」
「そう、それ!」
「ならば、カルディオの両親やゾイに、あいつの姿を見せてやることも可能か?」
「はい。できると思います」
ゾイさんは僕の、血の繋がった親戚だったんだ。ということは……あの話。
「ゾイさんが一緒に遠乗りに行った人って、もしかして」
「ああ、カルディオとよく行っていたな。聞いたのか」
「はい。思い出は、時々取り出して眺めてあげないといけない、って」
「……そうだな」
ラトゥリオ様は、僕にいくつかの思い出を分けてくれた。そのひとつが今日、僕の思い出とひとつになった。
夜、イレミオを寝かしつけてから、ふと気になってベッドの中で聞いた。
「そういえば、ずっと解けない謎があるんです」
「うん?」
「別の世界へ来れば、普通はまず言葉に苦労するはずなのに、僕にはそれがなかった。聞くのも話すのも、読み書きもです。便利だからまあいいかって深く考えずに来たんですけど、今日は父さんはともかくとして、母さんたちともラトゥリオ様は普通に話してました。なぜか分かりますか?」
「前例はないが、魔力の一種だろうな。俺は以前からそう思っていた」
「え、言ってくれなかった……」
またか!
「害のあるものではないのでな。お前の名前からも分かることだ」
「名前?」
「ある言語において、『レオ』とは『言う、話す、呼ぶ』などを意味する。言語の魔力を持って生まれたお前にカルディオがそう名付けたのは、偶然とは思えん」
「無意識の記憶みたいなものでしょうか」
「おそらくな。お前のその力も、無意識に発動し続けている。おかげで俺も不自由せずに済んだ。お前の家族とも話ができた。ありがとう」
「そっかぁ……」
父さんは、記憶をなくしたわけじゃなかった。箱の中にしまわれて、蓋が開かなくなっていただけなんだ。
家族、か。ふふっ。
「今は、僕はここにも家族がいます。あなたと、イレミオと」
ぴとっとくっついて、青みがかった黒い瞳を覗き込む。
「『愛する人』、ですよね」
ラトゥリオ様の、名前の意味。
「ああ。お前を愛している……」
交わしたキスは、数えきれない。今夜もまた。お互いの体は知り尽くしている。新たに判明した事実に対する興奮も手伝って、彼が三度果てるまで愛された。
イレミオはぐったりと座り込んだ。
「大丈夫かい? 新記録って?」
「今までも、いろんな世界をちょっとずつ覗けてたんだけど、安定しなくて。あれだけ長くはっきり見えて、声まで聞こえたのは初めてなんだ。レオを探してるみたいだったから……」
「君はすごいな。ありがとう、本当に」
ラトゥリオ様は、顎に手を当てて考え込んでいる。
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「はい。ひと月に一度くらいの割合ですけど」
「繋げる世界は、お前が選んでいるのか?」
「何となく。今回は、二人がそばにいたからああいうことになったんじゃないかなぁ」
「力が共鳴したってこと?」
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「ならば、カルディオの両親やゾイに、あいつの姿を見せてやることも可能か?」
「はい。できると思います」
ゾイさんは僕の、血の繋がった親戚だったんだ。ということは……あの話。
「ゾイさんが一緒に遠乗りに行った人って、もしかして」
「ああ、カルディオとよく行っていたな。聞いたのか」
「はい。思い出は、時々取り出して眺めてあげないといけない、って」
「……そうだな」
ラトゥリオ様は、僕にいくつかの思い出を分けてくれた。そのひとつが今日、僕の思い出とひとつになった。
夜、イレミオを寝かしつけてから、ふと気になってベッドの中で聞いた。
「そういえば、ずっと解けない謎があるんです」
「うん?」
「別の世界へ来れば、普通はまず言葉に苦労するはずなのに、僕にはそれがなかった。聞くのも話すのも、読み書きもです。便利だからまあいいかって深く考えずに来たんですけど、今日は父さんはともかくとして、母さんたちともラトゥリオ様は普通に話してました。なぜか分かりますか?」
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「え、言ってくれなかった……」
またか!
「害のあるものではないのでな。お前の名前からも分かることだ」
「名前?」
「ある言語において、『レオ』とは『言う、話す、呼ぶ』などを意味する。言語の魔力を持って生まれたお前にカルディオがそう名付けたのは、偶然とは思えん」
「無意識の記憶みたいなものでしょうか」
「おそらくな。お前のその力も、無意識に発動し続けている。おかげで俺も不自由せずに済んだ。お前の家族とも話ができた。ありがとう」
「そっかぁ……」
父さんは、記憶をなくしたわけじゃなかった。箱の中にしまわれて、蓋が開かなくなっていただけなんだ。
家族、か。ふふっ。
「今は、僕はここにも家族がいます。あなたと、イレミオと」
ぴとっとくっついて、青みがかった黒い瞳を覗き込む。
「『愛する人』、ですよね」
ラトゥリオ様の、名前の意味。
「ああ。お前を愛している……」
交わしたキスは、数えきれない。今夜もまた。お互いの体は知り尽くしている。新たに判明した事実に対する興奮も手伝って、彼が三度果てるまで愛された。
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