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第5章 家族
第4話
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「カルディオ、お前なのだな」
「はい。長くおそばを離れていたこと、お許しください」
父さんは跪き、騎士としての礼をとった。
「顔を上げてくれ。よく生きていてくれた」
「陛下もご無事で何よりです。てっきり、あの時何もかもなくなってしまったかと……私の戻る場所はもうないのだと思い、意識の底に追いやっていたようです」
「皆、無事だ。お前の両親もな」
「そうでしたか……」
父さんは、泣いているみたいだ。母さんが優しく寄り添っている。
「ラトゥリオ様、昨夜の地震はもしや」
「ああ。情けないことに、俺の方に限界が来てな。あれからアントスとは距離を置き、アストゥラを北と南とで半分ずつ支え……十五年、何とかしのいできたのだが」
「それは……さぞ、お辛かったでしょう」
「再び世界を崩壊させるところだったのだ、不甲斐ないにも程がある。すんでのところで救ってくれたのがレオだ。時間の流れが違うようでな、こちらではこの子がやってきて三年になる」
「なるほど。アントス様の方は」
「アリシアが嫁いだ。子宝にも恵まれてな。俺は今、その子の力を借りてこうして話している」
「アリシア様ですか。それは何よりです」
父さんの微笑みは、アリシア様の無邪気さや優しさを思い出しているようだ。傍らの母さんに「もう大丈夫だ。礼生のことも心配いらないよ」と話している。それから、立ち上がって僕を呼んだ。
「礼生」
「はい、父さん」
「陛下を信じてついていきなさい。お前が一生を預けるに足るお方だ。アストゥラを、頼む」
「うん……ありがとう」
「カルディオ、感謝している。あの時、空間の崩壊が止まったのはお前のおかげだ。この世界から弾き飛ばされてまで、力のすべてを振り絞って中和させてくれたのだろう。その働きに報いるどころか、今度は息子を取り上げるような真似をしてすまない。許してくれなどとは言えまいが……レオは俺が必ず守る。俺も、レオに守られている」
優しい笑みを向けてくれて、胸がくすぐったくなる。
「ご安心ください、陛下。私はこちらの世界でよき伴侶を得て、幸せに暮らしております。礼生のことは、妻には申し訳なく思いますが、少々事情が変わっただけで元々の思惑の通りと言えましょう。その子は、あなた様に出会うべくして生まれてきた子。礼生自身、よくわかっているでしょう。なあ? あいつがあんなに幸せそうな顔をしているの、見たことがあるか?」
父さんに聞かれ、母さんは美しく微笑んだ。
「ないわねぇ。礼生、大切な人に出会えたのね。おめでとう、よかったわね」
「母さん……」
「あなたはいつも、遠い何かを探していたから。めぐりあったご縁を大事にしなさい。みんなには、遠い遠いところへ婿にやりました、って言っておくから」
「うん……ありがとう。ありがと……」
玉に僕の涙が落ちて、映像がぼやけた。
「あ。繋がってるの、もうちょっとみたい」
「もう時間がないようだ。三人ともありがとう。レオは幸せにする」
「息子をよろしくお願いします、王様」
「礼生くん、元気でね!」
「陛下、礼生、どうかいつまでも健やかに」
「ありがとう、みんな! 大好きだよ!」
僕の言葉が合図になったかのように、すぅっと映像は消え、玉も消失した。
「はい。長くおそばを離れていたこと、お許しください」
父さんは跪き、騎士としての礼をとった。
「顔を上げてくれ。よく生きていてくれた」
「陛下もご無事で何よりです。てっきり、あの時何もかもなくなってしまったかと……私の戻る場所はもうないのだと思い、意識の底に追いやっていたようです」
「皆、無事だ。お前の両親もな」
「そうでしたか……」
父さんは、泣いているみたいだ。母さんが優しく寄り添っている。
「ラトゥリオ様、昨夜の地震はもしや」
「ああ。情けないことに、俺の方に限界が来てな。あれからアントスとは距離を置き、アストゥラを北と南とで半分ずつ支え……十五年、何とかしのいできたのだが」
「それは……さぞ、お辛かったでしょう」
「再び世界を崩壊させるところだったのだ、不甲斐ないにも程がある。すんでのところで救ってくれたのがレオだ。時間の流れが違うようでな、こちらではこの子がやってきて三年になる」
「なるほど。アントス様の方は」
「アリシアが嫁いだ。子宝にも恵まれてな。俺は今、その子の力を借りてこうして話している」
「アリシア様ですか。それは何よりです」
父さんの微笑みは、アリシア様の無邪気さや優しさを思い出しているようだ。傍らの母さんに「もう大丈夫だ。礼生のことも心配いらないよ」と話している。それから、立ち上がって僕を呼んだ。
「礼生」
「はい、父さん」
「陛下を信じてついていきなさい。お前が一生を預けるに足るお方だ。アストゥラを、頼む」
「うん……ありがとう」
「カルディオ、感謝している。あの時、空間の崩壊が止まったのはお前のおかげだ。この世界から弾き飛ばされてまで、力のすべてを振り絞って中和させてくれたのだろう。その働きに報いるどころか、今度は息子を取り上げるような真似をしてすまない。許してくれなどとは言えまいが……レオは俺が必ず守る。俺も、レオに守られている」
優しい笑みを向けてくれて、胸がくすぐったくなる。
「ご安心ください、陛下。私はこちらの世界でよき伴侶を得て、幸せに暮らしております。礼生のことは、妻には申し訳なく思いますが、少々事情が変わっただけで元々の思惑の通りと言えましょう。その子は、あなた様に出会うべくして生まれてきた子。礼生自身、よくわかっているでしょう。なあ? あいつがあんなに幸せそうな顔をしているの、見たことがあるか?」
父さんに聞かれ、母さんは美しく微笑んだ。
「ないわねぇ。礼生、大切な人に出会えたのね。おめでとう、よかったわね」
「母さん……」
「あなたはいつも、遠い何かを探していたから。めぐりあったご縁を大事にしなさい。みんなには、遠い遠いところへ婿にやりました、って言っておくから」
「うん……ありがとう。ありがと……」
玉に僕の涙が落ちて、映像がぼやけた。
「あ。繋がってるの、もうちょっとみたい」
「もう時間がないようだ。三人ともありがとう。レオは幸せにする」
「息子をよろしくお願いします、王様」
「礼生くん、元気でね!」
「陛下、礼生、どうかいつまでも健やかに」
「ありがとう、みんな! 大好きだよ!」
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