異世界転移は終わらない恋のはじまりでした―救世主レオのノロケ話―

花宮守

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第4章 元カレとお世継ぎ問題

第13話

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 東屋の屋根にはオレンジ色の花が伝い、脇に立つ濃いピンク色の花の木と相まって、華やかな演出をしている。日本で言うノウゼンカズラと百日紅というところだ。
 アリシア様は、僕を見てパッと顔を輝かせた。近付いて名乗り、深々と頭を下げた。
「レオ、さっきは驚かせてごめんなさい」
「いえ、こちらこそ失礼を」
「いいのよ。それだけ、お兄様を想ってるってことだものね」
「そ、それは……」
「ふふっ。ねぇ、座らない? あなたはおもしろい話をいろいろ聞かせてくれるって、リナが言っていたわ。物語にも出てこないような不思議なことをたくさん知ってるって。お願い、私にも聞かせてくれない?」
『れおくん、おねがい』
 子供の頃、沙良がもっとお話読んで、とせがんだ時の顔が重なった。アリシア様は、お茶の席に着いた僕に紅茶を淹れ、金色がかった茶色の瞳をキラキラさせた。かわいいなぁ。
 僕は、二度と帰らないと決めた元の世界のことを、思いつくまま話した。空想でも何でもなく、僕が以前住んでいた世界。まだ三か月も経っていないのに、十年も昔のことのようだ。ラトゥリオ様が僕を帰そうとした時のことも、包み隠さず語った。
 話し終えると、彼女は口を手で覆った。ぽろりと零れ落ちたのは、見たこともないほど愛らしい涙。
「え、あの、アリシア様っ」
 南半球の王妃様を泣かせたなんてまずいだろ!
「ごめん、なさい……止まらない……」
 ぽろぽろと、彼女は雫を落とし続けた。涙を拭くハンカチには、クレマチスの花の刺繍。
「ありがとう。お兄様のために、そこまでしてくれるなんて。あなたには大切な家族がいるのに」
「いえ……僕のためです。僕がラトゥリオ様と一緒にいたかったから」
「でもあなたは、この世界を守ってくれた。今も、守ってくれているわ」
「成り行きですけどね……」
 アリシア様はハンカチを上品に畳み、膝の上に置いた。中庭の景色を愛しそうに見渡し、遠い過去を見つめている。
「あのね、私もなの」
「え?」
「私ね、小さい頃からずっと、アントス様のことが好きだったの。でも彼はお兄様と……」
「うわ、それは辛いですね」
「分かってくれる!?」
 彼女は僕の両手をがしっと掴んだ。本当に素直でかわいい人だなあ。
「ええ、そりゃあもう」
 二人目の妹ができたような気分で、うんうんと頷いた。
「私は力の出現も遅かったし、アントス様にとっては恋人の妹。それ以上でもそれ以下でもない。悲しかった。あの時も、無我夢中で飛び込んだだけなの」
 アントス様が吹き飛ばされて、海へ落ちた時のことだ。
「彼は、よりによって水の力の持ち主。海は荒れていたわ。怖かったけど……彼を失うことの方が怖かった」
 十二歳の少女が、荒れ狂う海へ。どんなに恐ろしかったか。
「沈んでいく彼を見つけて……追いつけない、と焦ったけれど、少しだけ彼が浮かび上がってきたの。何が起きているのか分からなかったけど、抱えて水面に戻ったわ。しがみついて、の方が正しいわね」
 命より大事な男性を助けたアリシア様は、彼の力が静まったのを確認すると、兄のもとへ駆けつけた。地面が割れて落ちていこうとする王子を、父王が必死に引き上げようとしていた。ラトゥリオ様は力の暴走で消耗し、意識を失っていたという。王女はドラゴンを呼んで兄を掬い上げ、自分も乗った。兄と想い人に何があったのか、朧気に分かっていた。二人を遠ざけるのは自分の胸が引き裂かれるように辛かったが、彼らと世界を守るため、ほかに方法はなかった。中央地域のこの王宮へ兄を連れて戻り、側近の者にごく簡単に事情を話してから、南半球へ戻った――。
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