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第4章 元カレとお世継ぎ問題
第11話
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「レオッ」
扉を乱暴に開けて駆け込んできたのは、今一番会いたくなくて……恋しくてたまらなかった人。しゃがみ込んで泣きじゃくる僕を後ろから抱きしめた。撫でて、さすって、泣き止ませようとしてくる。
「レオ……レオ、泣くな。何も心配はいらない……」
「知り、ませんっ……」
振りほどきたいのに力が入らない。「いやだ」と「来てくれた」が頭の中で喧嘩してる。
「大丈夫だ、大丈夫……」
呼吸を合わせるように囁かれ、僕の体は学習した通りの反応をする。ラトゥリオ様のそばが、確かに僕の居場所なんだ、って。この状況にあっても信じたくて、涙が引っ込んでいく。絞り出そうとしても、脳が僕の言うことをきかない。駄目だなぁ……。
「顔を見せてくれないか」
「みっともないから、いや、です」
「では仕方がない」
抱き上げられて、ベッドへ。落ちるのはいやだから、ちょっとだけ掴まった。そっと寝かされ、彼が覆い被さってくれば、顔を見せないわけにはいかない。横を向くのがせめてもの抵抗だ。長い指が髪を直し、目元や頬を拭ってくれる。その指先をとらえて聞いた。
「いいんですか、こんな……。彼女が見たら誤解しますよ」
自分で言って、胸が抉られる。
「あいつは誤解などしない。事態を正しくとらえる女だ」
「……そうですか」
はぁ、とため息が出た。開き直られたら、呆れるしかない。やっぱり家出しよう。ちょんちょん、と鼻を突っついてくる彼は、僕の悲壮な決意に気付きもしない。
「何を勘繰っている。あいつは俺の妹だ」
は?
「い……もうと?」
「この前話しただろう」
海に落ちたアントス様を救った妹姫。名はアリシア様。十五年前の出来事……いやいやいや、待て。騙されるもんか。
「計算が合いません。アリシア様は、十五年前に十二歳だったんでしょう。さっきの彼女、どう見たって僕と同じか年下ですよ」
「ところがな、あれで二十七なんだ。女というのは分からん」
「……同感です」
早とちりだった。うわ、恥ずかしいっ。僕は毛布をまくり上げて自分に被せた。靴は、ぽいぽいっと脱ぎ捨てた。ごそごそ動いて、頭から足まで全部毛布に隠れるようにと試みる。
「レオ……」
ぽんぽん、と毛布を叩く手。優しい声。ああ、ラトゥリオ様だ。
「暑くはないか」
「少し」
「では、出てきてはどうかな。ん?」
「僕の情緒のために五分ください」
「ふむ……分かった」
五分間、彼は巨大な団子になった僕の横に座り、よしよしと撫で続けた。恥ずかしさが倍増して、五分は長かったと後悔した。
律儀に時間を計っていた彼は、「五分だ。いいな?」と告げ、毛布の包みを丁寧に開けた。丸まっていた僕は観念して起き上がり、ボサボサの頭で笑顔を見せた。キスして抱きついて、髪を直してもらった。
「いい子だ」
「大騒ぎしてごめんなさい……好きです」
「ああ。俺も愛している」
「ラトゥリオ様……」
これでまたお世継ぎ問題は先送りだ。でも、もし……本当に王妃様が登場することになっても、彼はきっと僕を必要としてくれる。必要とされる存在でありたい。長い髪を指に巻き付け、確かな温もりを分け合った。
扉を乱暴に開けて駆け込んできたのは、今一番会いたくなくて……恋しくてたまらなかった人。しゃがみ込んで泣きじゃくる僕を後ろから抱きしめた。撫でて、さすって、泣き止ませようとしてくる。
「レオ……レオ、泣くな。何も心配はいらない……」
「知り、ませんっ……」
振りほどきたいのに力が入らない。「いやだ」と「来てくれた」が頭の中で喧嘩してる。
「大丈夫だ、大丈夫……」
呼吸を合わせるように囁かれ、僕の体は学習した通りの反応をする。ラトゥリオ様のそばが、確かに僕の居場所なんだ、って。この状況にあっても信じたくて、涙が引っ込んでいく。絞り出そうとしても、脳が僕の言うことをきかない。駄目だなぁ……。
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「みっともないから、いや、です」
「では仕方がない」
抱き上げられて、ベッドへ。落ちるのはいやだから、ちょっとだけ掴まった。そっと寝かされ、彼が覆い被さってくれば、顔を見せないわけにはいかない。横を向くのがせめてもの抵抗だ。長い指が髪を直し、目元や頬を拭ってくれる。その指先をとらえて聞いた。
「いいんですか、こんな……。彼女が見たら誤解しますよ」
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「……そうですか」
はぁ、とため息が出た。開き直られたら、呆れるしかない。やっぱり家出しよう。ちょんちょん、と鼻を突っついてくる彼は、僕の悲壮な決意に気付きもしない。
「何を勘繰っている。あいつは俺の妹だ」
は?
「い……もうと?」
「この前話しただろう」
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「計算が合いません。アリシア様は、十五年前に十二歳だったんでしょう。さっきの彼女、どう見たって僕と同じか年下ですよ」
「ところがな、あれで二十七なんだ。女というのは分からん」
「……同感です」
早とちりだった。うわ、恥ずかしいっ。僕は毛布をまくり上げて自分に被せた。靴は、ぽいぽいっと脱ぎ捨てた。ごそごそ動いて、頭から足まで全部毛布に隠れるようにと試みる。
「レオ……」
ぽんぽん、と毛布を叩く手。優しい声。ああ、ラトゥリオ様だ。
「暑くはないか」
「少し」
「では、出てきてはどうかな。ん?」
「僕の情緒のために五分ください」
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五分間、彼は巨大な団子になった僕の横に座り、よしよしと撫で続けた。恥ずかしさが倍増して、五分は長かったと後悔した。
律儀に時間を計っていた彼は、「五分だ。いいな?」と告げ、毛布の包みを丁寧に開けた。丸まっていた僕は観念して起き上がり、ボサボサの頭で笑顔を見せた。キスして抱きついて、髪を直してもらった。
「いい子だ」
「大騒ぎしてごめんなさい……好きです」
「ああ。俺も愛している」
「ラトゥリオ様……」
これでまたお世継ぎ問題は先送りだ。でも、もし……本当に王妃様が登場することになっても、彼はきっと僕を必要としてくれる。必要とされる存在でありたい。長い髪を指に巻き付け、確かな温もりを分け合った。
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