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第4章 元カレとお世継ぎ問題
第9話
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アントス様の足は速い。僕が追いついた時は、もう南門へ向けて降りていくところだった。
「アントス様!」
彼は意外そうな顔で振り返った。
「どうしたんだい? そんなに息を切らせて。あいつがヤキモキしているだろうに」
「あの……お二人が、もっと頻繁に会うことはできないものでしょうか。昔のように」
そうなれば、僕は心穏やかではいられないかもしれない。だけどこの二人の選択は切なすぎる。
アントス様は、近くに伸びている蔓からクレマチスを摘み取って、花びらにそっと唇を当てた。
「僕たちは、やらなければならないことがあるからね。それを最優先するお互いのことが、好きで好きでたまらないんだ」
「そんな……」
「大丈夫。今は君がいるから、心配事はかなり減った。あいつだけじゃない、僕も安心して過ごせたよ。ありがとう……また来る」
頬に柔らかいものが触れる。
「ア、アントス様っ」
「ハハッ」
白と金が光に映える。世界の半分を支えている偉大な王。赤紫の花を掲げて、自分の務めを果たすため、去っていく。
「お気をつけて!」
精一杯の思いを込めて叫んだ。花を持った手を振って、彼は颯爽と階段を降りていった。
「はー……。かっこいいけど……心臓に悪い」
唇が触れた頬を手で押さえていると、すっと隣に立った人がいる。これはこれで心臓に悪い。
「油断のならないやつだ」
「ラトゥリオ様っ。あ、あのっ」
「何を慌てている。唇にされていないのは分かっている。見ていたからな」
「見てたんですか……」
急激に力が抜ける。そりゃそうだ、この城にいて、この人の目から逃れることなんかできない。
「すみません。確かに僕が油断しました」
「分かればいい。怒ってはいない。……ただし」
親指が口元にあてがわれた。
「ここは俺のものだ」
「……ん」
垂れてくる黒髪が僕を包み込む。深まる口づけ。ああ、僕はこの人のものだ。この先に、何が待っていても。……ん、んーっ! 長いんですけどっ。腕を叩いてもびくともしない。軽くお尻を撫でられて、耳たぶにまで舌が這う。解放された口には指が挿し込まれて……外っ。ここ、外ですから!
下半身が兆し始めて、本格的にまずいと体を硬直させると、指も舌もストップした。抱きしめられて、ぐったりする。
「やりすぎです……」
「油断したお仕置きだ」
思いもよらない言葉に顔を上げると、からかうような笑みを浮かべている。アントス様の手の早さも相当だけど、警戒心ゼロにさせておいて僕に新たな扉を開かせるラトゥリオ様も大概だ。
「僕を挟んでコミュニケーション取らないでください……」
身がもたない。もっと文句を言いたいのに、フッと甘い瞳を向けられれば、言うことをきいてあげたくなってしまう。
「僕が甘すぎるのか……?」
「お互い様だそうだ。アントスに言わせればな」
二人で何を話していたんだっ。
絡み合う、黄色と赤紫の花が香る。
海の匂いのするまばゆい王様、また来てくださいね。
「アントス様!」
彼は意外そうな顔で振り返った。
「どうしたんだい? そんなに息を切らせて。あいつがヤキモキしているだろうに」
「あの……お二人が、もっと頻繁に会うことはできないものでしょうか。昔のように」
そうなれば、僕は心穏やかではいられないかもしれない。だけどこの二人の選択は切なすぎる。
アントス様は、近くに伸びている蔓からクレマチスを摘み取って、花びらにそっと唇を当てた。
「僕たちは、やらなければならないことがあるからね。それを最優先するお互いのことが、好きで好きでたまらないんだ」
「そんな……」
「大丈夫。今は君がいるから、心配事はかなり減った。あいつだけじゃない、僕も安心して過ごせたよ。ありがとう……また来る」
頬に柔らかいものが触れる。
「ア、アントス様っ」
「ハハッ」
白と金が光に映える。世界の半分を支えている偉大な王。赤紫の花を掲げて、自分の務めを果たすため、去っていく。
「お気をつけて!」
精一杯の思いを込めて叫んだ。花を持った手を振って、彼は颯爽と階段を降りていった。
「はー……。かっこいいけど……心臓に悪い」
唇が触れた頬を手で押さえていると、すっと隣に立った人がいる。これはこれで心臓に悪い。
「油断のならないやつだ」
「ラトゥリオ様っ。あ、あのっ」
「何を慌てている。唇にされていないのは分かっている。見ていたからな」
「見てたんですか……」
急激に力が抜ける。そりゃそうだ、この城にいて、この人の目から逃れることなんかできない。
「すみません。確かに僕が油断しました」
「分かればいい。怒ってはいない。……ただし」
親指が口元にあてがわれた。
「ここは俺のものだ」
「……ん」
垂れてくる黒髪が僕を包み込む。深まる口づけ。ああ、僕はこの人のものだ。この先に、何が待っていても。……ん、んーっ! 長いんですけどっ。腕を叩いてもびくともしない。軽くお尻を撫でられて、耳たぶにまで舌が這う。解放された口には指が挿し込まれて……外っ。ここ、外ですから!
下半身が兆し始めて、本格的にまずいと体を硬直させると、指も舌もストップした。抱きしめられて、ぐったりする。
「やりすぎです……」
「油断したお仕置きだ」
思いもよらない言葉に顔を上げると、からかうような笑みを浮かべている。アントス様の手の早さも相当だけど、警戒心ゼロにさせておいて僕に新たな扉を開かせるラトゥリオ様も大概だ。
「僕を挟んでコミュニケーション取らないでください……」
身がもたない。もっと文句を言いたいのに、フッと甘い瞳を向けられれば、言うことをきいてあげたくなってしまう。
「僕が甘すぎるのか……?」
「お互い様だそうだ。アントスに言わせればな」
二人で何を話していたんだっ。
絡み合う、黄色と赤紫の花が香る。
海の匂いのするまばゆい王様、また来てくださいね。
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