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第3章 ラトゥリオとアントス
第4話
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「二度と……このような事態を引き起こすことはしないと、誓います」
自らの心臓を切り裂く思いで、誓いを立てた。アントスとの決別を表明した息子の姿に、母は俯き、はらはらと涙を流した。ラトゥリオはその姿を胸に刻み、勇気を奮い起こして尋ねた。
「アントスは……どうなったのですか」
「アリシアが飛び込んで引き上げた。アントスを包む赤い光は、あの子が触れることで消えていった」
「そうですか……あいつが」
口ばかり達者な、かわいい妹。アントスによく懐いていたのは、魔力の相性を、無意識に感じ取ってでもいたのだろうか。
父はラトゥリオの手を優しく叩いた。
「安心しなさい、アントスは無事だ。アリシアが例のドラゴンで向こうの城とここを行き来してな、様子を知らせてくれた。あの親父からの手紙も届いている。お前を大層心配しているよ」
お転婆な妹は、仲良くなったピンク色のドラゴンの背に乗り、どこまでも飛んでいく。敵わない、と思った。白と金の愛しい男。彼を守り、守られ、支え合う存在は、自分ではなかったのだ。
「アントスの……両親は」
「……私たちと同様だ」
「俺の……」
せいだ、と続けることはできなかった。事態はあまりにも深刻すぎた。父は何度も、首を横に振った。
「いいか、ラトゥリオ。よく聞きなさい。今度の件は、お前たちの魔力が引き起こしたものであることは確かだ。だがな、お前たちのせいではない。この力は、誰にも、どうにもならぬ。持って生まれるかどうかも、それがどの程度のものなのかも、すべては……そうだな、気まぐれに与えられるにすぎないと言っていいだろう。意図して発動させたわけでもないのだ。お前たちを責める者は、誰一人としていない。そのことを、お前は決して忘れてはならない」
父の手の中で、王子は拳を握り締めた。糾弾されることはない、前を向いて生きろ、務めを果たせ……言われていることは分かる。王子として、やがては王として、やるべきことのために邁進する。それはこの先も変わらないのだ。
(だが、お前は隣にいない……)
共に生きると信じていた。三歳の時から。
ラトゥリオだけではない、アントスの力も、一種の力とはいえあまりにも強い。一度衝突した以上、近くにいてはいつまた誘発されるか――。
唇を噛みしめる。頭痛がしてきた。胸が苦しい。母が薬を飲ませてくれた。
「もう少し、話をしてもよいか?」
「はい」
「お前が起きられるようになり次第、王位を譲る」
「父上……」
それほどまでに差し迫っているのだと、思い知らされる。
「それでな、前例のないことだが……南半球はアントスの指揮下に置く」
「……え?」
「我が王家が全土を統べることには、何ら変わりがない。言ってみればこれは、お前たちが『自分たちに責任を取らせろ』と言い出した時に、私たちが言い逃れをするための方便だ。……二人で力を合わせて、この世界を治めなさい」
頭が、心が、ほぐれていく。
「アントスと……二人で」
「そうだ。私たちは長いことそれを願ってきた。どうだ、親孝行のつもりで私たちの夢を叶えてはくれぬか」
「ちち、うえ……」
堪えていた涙が目尻を伝う。母が優しく頷いている。
望んでいた形とは違う。アントスを抱くことは二度と許されず、この恋は断ち切らなければならない。それでも、お互いの存在を感じて、頼みに思い、生きていくことはできる。同じ世界で、同じ時の中を。
アントスの父の手紙は、思いやりに溢れていた。
『王と私とが、父親同士知恵を絞って捻り出した打開策、お受けいただけるでしょうな。アントスは、あなたの治世を支えるために生まれてきた子です。親父どものわがまま、ご容赦くださいますよう』
便箋に涙が落ち、染みとなった。
自らの心臓を切り裂く思いで、誓いを立てた。アントスとの決別を表明した息子の姿に、母は俯き、はらはらと涙を流した。ラトゥリオはその姿を胸に刻み、勇気を奮い起こして尋ねた。
「アントスは……どうなったのですか」
「アリシアが飛び込んで引き上げた。アントスを包む赤い光は、あの子が触れることで消えていった」
「そうですか……あいつが」
口ばかり達者な、かわいい妹。アントスによく懐いていたのは、魔力の相性を、無意識に感じ取ってでもいたのだろうか。
父はラトゥリオの手を優しく叩いた。
「安心しなさい、アントスは無事だ。アリシアが例のドラゴンで向こうの城とここを行き来してな、様子を知らせてくれた。あの親父からの手紙も届いている。お前を大層心配しているよ」
お転婆な妹は、仲良くなったピンク色のドラゴンの背に乗り、どこまでも飛んでいく。敵わない、と思った。白と金の愛しい男。彼を守り、守られ、支え合う存在は、自分ではなかったのだ。
「アントスの……両親は」
「……私たちと同様だ」
「俺の……」
せいだ、と続けることはできなかった。事態はあまりにも深刻すぎた。父は何度も、首を横に振った。
「いいか、ラトゥリオ。よく聞きなさい。今度の件は、お前たちの魔力が引き起こしたものであることは確かだ。だがな、お前たちのせいではない。この力は、誰にも、どうにもならぬ。持って生まれるかどうかも、それがどの程度のものなのかも、すべては……そうだな、気まぐれに与えられるにすぎないと言っていいだろう。意図して発動させたわけでもないのだ。お前たちを責める者は、誰一人としていない。そのことを、お前は決して忘れてはならない」
父の手の中で、王子は拳を握り締めた。糾弾されることはない、前を向いて生きろ、務めを果たせ……言われていることは分かる。王子として、やがては王として、やるべきことのために邁進する。それはこの先も変わらないのだ。
(だが、お前は隣にいない……)
共に生きると信じていた。三歳の時から。
ラトゥリオだけではない、アントスの力も、一種の力とはいえあまりにも強い。一度衝突した以上、近くにいてはいつまた誘発されるか――。
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「もう少し、話をしてもよいか?」
「はい」
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それほどまでに差し迫っているのだと、思い知らされる。
「それでな、前例のないことだが……南半球はアントスの指揮下に置く」
「……え?」
「我が王家が全土を統べることには、何ら変わりがない。言ってみればこれは、お前たちが『自分たちに責任を取らせろ』と言い出した時に、私たちが言い逃れをするための方便だ。……二人で力を合わせて、この世界を治めなさい」
頭が、心が、ほぐれていく。
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「そうだ。私たちは長いことそれを願ってきた。どうだ、親孝行のつもりで私たちの夢を叶えてはくれぬか」
「ちち、うえ……」
堪えていた涙が目尻を伝う。母が優しく頷いている。
望んでいた形とは違う。アントスを抱くことは二度と許されず、この恋は断ち切らなければならない。それでも、お互いの存在を感じて、頼みに思い、生きていくことはできる。同じ世界で、同じ時の中を。
アントスの父の手紙は、思いやりに溢れていた。
『王と私とが、父親同士知恵を絞って捻り出した打開策、お受けいただけるでしょうな。アントスは、あなたの治世を支えるために生まれてきた子です。親父どものわがまま、ご容赦くださいますよう』
便箋に涙が落ち、染みとなった。
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