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第1章 大罪人と救世主
第13話
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「国王陛下万歳!」
「ラトゥリオ陛下万歳!」
「救世主様万歳!」
王宮の門の前の広場に、人、人、人……! 髪の色は、黒と茶色と金色が同じくらい。赤い色も少し見える。広場に入りきれない人たちは、街道へ続く道を埋め尽くしている。森の入口にもひしめいて、木に登って手を振る人もいた。みんな、満面の笑みを浮かべている。
「すごい……」
「お前のおかげで、守れた」
彼は僕が起きる前にこの光景を見ているけど、あらためて目にして感慨無量という表情だ。手すりに手をかけ、目を輝かせている。生命力が漲っていて、三日前より若返ったんじゃないか?とさえ思う。外の光に照らされて、風を受けたマントと髪が揺れて……ああ、この人は本当に綺麗だ。
「お前にひと言、礼が言いたいと集まった者たちだ。手を振ってやってくれるか」
「はい」
テレビで見た王族の挨拶ってこういう感じだっけ、と思い出しながら手を振ると、歓声は一段と大きくなった。嬉しくて、ありがとうって言いたくて、両手を上げて大きく振った。勢い余って手すりから乗り出して、落ちそうになってみんながどよめいた。ラトゥリオ様が難なく引っ張り上げてくれて、「こら」「すみません」と言葉を交わすと、温かい拍手とリラックスした笑い声が広がった。それも徐々におさまり、しんと静まり返った。みんな、王の言葉を待っているんだ。彼は僕の左手を握り、話し始めた。
「皆、心配をかけてすまなかった。現在、北半球の全土に救護班と補給班を手配している。しばらく常駐させるから、困ったことがあれば申し出てほしい。南半球からも支援の申出があった」
南半球? そういえば図鑑に夢中になって、政治関係の情報はまだ集めていなかった。そっちは、ラトゥリオ様直轄ではないんだろうか。
「本当に長いこと……」
彼が言葉を詰まらせたのは、なぜなんだ?
握られた手にそっと力を込めた。南半球のことはまだ何も知らないけど、励ましたかった。彼は僕に頷き、言葉を継いだ。
「今日まで支えてくれた皆に、心から言いたい。ありがとう」
涙を振り切るような声音。群衆の中にも、すすり泣きをしている人たちがいる。
「そして今、私を支えてくれる者がもう一人現れた。レオだ。よろしく頼む」
迷いを捨てたように力強い声が、朗々と響き渡る。うんうん、と思いやり深く頷く人たちがいる。拍手、拍手、拍手……。ここにいるみんなが、ラトゥリオ様が新たな一歩を踏み出したことを心から喜んでいる。仰ぎ見る王としてだけでなく、一人の人間を温かく見守る眼差しが、見渡す限り溢れている。
「レオ、挨拶を」
「はい。レオです! よろしくお願いします!」
澄んだ空気が、こういう場所から話すのが慣れていない僕の声を、隅々まで行き渡らせてくれた。また大歓声。
「レオ様万歳!」
「アストゥラの希望の星、万歳!」
「お二人の未来に栄光あれ!」
何だかくすぐったい。また手すりから落ちないように気を付けながら手を振った。お父さんらしき人に肩車をしてもらっている、巻き毛のかわいい小さな女の子と目が合った。その子が叫んだ。
「いつけっこんしきするのー?」
「え?」
女の子とラトゥリオ様を交互に見た。彼は満足そうに微笑み、僕の反応を楽しんでいる。
「え? けっ……」
こん?
また広がる笑い。それはいくつかの種類に分かれていた。女の子の幼い質問を微笑ましく思う笑い。バルコニーの二人を好意を持って冷やかす笑い。口笛も飛んできた。「かわいーっ」っていう女性中心の笑い声は、戸惑う僕に向けられたものらしい。
「陛下! プロポーズの言葉ならいつでも相談に乗りますよ!」
威勢のいい声は、綺麗な奥さんと三人の女の子を連れた若い男性のものだ。まっすぐな気性が伝わってくる。どっと笑いが起きたのは、彼が周りの人たちに慕われていることを感じさせた。
「後でこっそりとな」
ラトゥリオ様は僕の肩を抱き、その男性に明るく答えた。またみんなが笑い、拍手が起こった。
「このぐらいでよい。入るぞ」
耳打ちされ、もう一度二人で手を振って、僕が先に部屋に入った。王様は、「ああ」と思い出したように立ち止まり、手すりの下を覗いた。あの女の子を見ているんだ。
「結婚式には花を持つ係を頼めるかな、お嬢さん?」
「うん!」
アンコールでの爆弾発言。そんな言葉が浮かんだ。
部屋へ入って窓を閉めた彼は、「奥へ行こうか」と僕の腰を抱いた。歓声と口笛の音が遠のく。
「はい。何か……頭が追いつきません」
「ふむ」
奥の居間へと歩きながら、彼は思案顔になった。
「心は追いついているということだな」
「は!?」
目指した部屋へなだれ込み――いつの間にか用意されたコーヒーの香りが漂っている――ソファーに押し倒され、唇を塞がれた。
「ん……」
「お前は俺の未来だ」
「あなた、も……僕の今と、未来です……」
「レオ……」
僕にはあなただけ。ここにいる以上、あなたが世界そのもの。
過去に何があったのか。魔力を暴走させたもう一人とは誰のことなのか。結婚式って一体どういうことなのか。分からないことばかり増えるけど、今はあなたを感じさせて。
「ラトゥリオ陛下万歳!」
「救世主様万歳!」
王宮の門の前の広場に、人、人、人……! 髪の色は、黒と茶色と金色が同じくらい。赤い色も少し見える。広場に入りきれない人たちは、街道へ続く道を埋め尽くしている。森の入口にもひしめいて、木に登って手を振る人もいた。みんな、満面の笑みを浮かべている。
「すごい……」
「お前のおかげで、守れた」
彼は僕が起きる前にこの光景を見ているけど、あらためて目にして感慨無量という表情だ。手すりに手をかけ、目を輝かせている。生命力が漲っていて、三日前より若返ったんじゃないか?とさえ思う。外の光に照らされて、風を受けたマントと髪が揺れて……ああ、この人は本当に綺麗だ。
「お前にひと言、礼が言いたいと集まった者たちだ。手を振ってやってくれるか」
「はい」
テレビで見た王族の挨拶ってこういう感じだっけ、と思い出しながら手を振ると、歓声は一段と大きくなった。嬉しくて、ありがとうって言いたくて、両手を上げて大きく振った。勢い余って手すりから乗り出して、落ちそうになってみんながどよめいた。ラトゥリオ様が難なく引っ張り上げてくれて、「こら」「すみません」と言葉を交わすと、温かい拍手とリラックスした笑い声が広がった。それも徐々におさまり、しんと静まり返った。みんな、王の言葉を待っているんだ。彼は僕の左手を握り、話し始めた。
「皆、心配をかけてすまなかった。現在、北半球の全土に救護班と補給班を手配している。しばらく常駐させるから、困ったことがあれば申し出てほしい。南半球からも支援の申出があった」
南半球? そういえば図鑑に夢中になって、政治関係の情報はまだ集めていなかった。そっちは、ラトゥリオ様直轄ではないんだろうか。
「本当に長いこと……」
彼が言葉を詰まらせたのは、なぜなんだ?
握られた手にそっと力を込めた。南半球のことはまだ何も知らないけど、励ましたかった。彼は僕に頷き、言葉を継いだ。
「今日まで支えてくれた皆に、心から言いたい。ありがとう」
涙を振り切るような声音。群衆の中にも、すすり泣きをしている人たちがいる。
「そして今、私を支えてくれる者がもう一人現れた。レオだ。よろしく頼む」
迷いを捨てたように力強い声が、朗々と響き渡る。うんうん、と思いやり深く頷く人たちがいる。拍手、拍手、拍手……。ここにいるみんなが、ラトゥリオ様が新たな一歩を踏み出したことを心から喜んでいる。仰ぎ見る王としてだけでなく、一人の人間を温かく見守る眼差しが、見渡す限り溢れている。
「レオ、挨拶を」
「はい。レオです! よろしくお願いします!」
澄んだ空気が、こういう場所から話すのが慣れていない僕の声を、隅々まで行き渡らせてくれた。また大歓声。
「レオ様万歳!」
「アストゥラの希望の星、万歳!」
「お二人の未来に栄光あれ!」
何だかくすぐったい。また手すりから落ちないように気を付けながら手を振った。お父さんらしき人に肩車をしてもらっている、巻き毛のかわいい小さな女の子と目が合った。その子が叫んだ。
「いつけっこんしきするのー?」
「え?」
女の子とラトゥリオ様を交互に見た。彼は満足そうに微笑み、僕の反応を楽しんでいる。
「え? けっ……」
こん?
また広がる笑い。それはいくつかの種類に分かれていた。女の子の幼い質問を微笑ましく思う笑い。バルコニーの二人を好意を持って冷やかす笑い。口笛も飛んできた。「かわいーっ」っていう女性中心の笑い声は、戸惑う僕に向けられたものらしい。
「陛下! プロポーズの言葉ならいつでも相談に乗りますよ!」
威勢のいい声は、綺麗な奥さんと三人の女の子を連れた若い男性のものだ。まっすぐな気性が伝わってくる。どっと笑いが起きたのは、彼が周りの人たちに慕われていることを感じさせた。
「後でこっそりとな」
ラトゥリオ様は僕の肩を抱き、その男性に明るく答えた。またみんなが笑い、拍手が起こった。
「このぐらいでよい。入るぞ」
耳打ちされ、もう一度二人で手を振って、僕が先に部屋に入った。王様は、「ああ」と思い出したように立ち止まり、手すりの下を覗いた。あの女の子を見ているんだ。
「結婚式には花を持つ係を頼めるかな、お嬢さん?」
「うん!」
アンコールでの爆弾発言。そんな言葉が浮かんだ。
部屋へ入って窓を閉めた彼は、「奥へ行こうか」と僕の腰を抱いた。歓声と口笛の音が遠のく。
「はい。何か……頭が追いつきません」
「ふむ」
奥の居間へと歩きながら、彼は思案顔になった。
「心は追いついているということだな」
「は!?」
目指した部屋へなだれ込み――いつの間にか用意されたコーヒーの香りが漂っている――ソファーに押し倒され、唇を塞がれた。
「ん……」
「お前は俺の未来だ」
「あなた、も……僕の今と、未来です……」
「レオ……」
僕にはあなただけ。ここにいる以上、あなたが世界そのもの。
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