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第1章 大罪人と救世主
第12話
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食事が終わりに近付いた頃、ラトゥリオ様がゾイさんに、「下はどうなっている」と尋ねた。
「陛下のお顔を拝見して皆安堵しておりましたが、できることなら彼にも一目会いたいと」
「そうであろうな。あれはできているか」
「はい。先ほど仕上がって参りました」
ゾイさんは僕に薄い紙包みを手渡すと、ラトゥリオ様と、僕にもまるで王族に対するような丁寧なお辞儀をして、ほかの三人と一緒に下へ戻った。
僕たちは小さい方の居間へ行き、包みを開けた。
「わ……かっこいい!」
マントだ。青みがかった銀色で、光の加減によっては虹色にも見える。
「しばらくは、城の中でも身につけているといい。魔力を発動させる性質を持つ者は、慣れぬうちはほかの者の力を引き寄せやすい。外へ出るようになれば、鋭い爪を持つ生き物に遭遇する場合もあるが、これがあればお前に手出しはできん」
ラトゥリオ様は、話しながら僕にマントを纏わせてくれた。
「よく似合う」
「ありがとうございます。これ自体に魔力がある……ってことですか?」
「俺の念を込めた糸を使わせた」
「えっ」
頬に熱が集まる。だってそれはつまり、あなたに包まれているのも同じじゃないか。
彼はお見通しで、赤くなった僕の頬に軽くキスをして、「それともうひとつ」と肩の飾りに触れた。彼の肩にあるのと同じ紋章だ。ドラゴンとペガサスが向かい合って、複雑な植物の模様を囲んでいる。
「これ、もしかして」
王族の!? 何で僕が!?
見上げると、ニヤッと笑っている。
「俺のものだという印だな。別の形で体中につけてあるが、それは皆に見せるわけにはいかない」
「当たり前じゃないですかっ」
キスマークを人に見られてたまるもんかっ。
……今、「俺のもの」って言った。その意味、聞いてもいいのかな。聞くの、怖いな。
躊躇っていると、くしゃっと前髪を掻き上げられた。
「手伝いたいと、言ってくれただろう?」
「はい」
手当や修理を手伝いたいと、確かに言った。
「今日からはどこを出歩くのも自由だ。俺がついていてやれない時もある。この紋章があれば、俺の保護下にある者だと知れて何をするにも話が早くなる。尤も、守ってもらっているのは俺の方だがな」
「そんな……」
おでこに押し当てられた唇が、口元へ降りてくる。目を閉じて迎えた時、外の騒めきが耳に届いた。
「んっ……あれ、は?」
彼は、まだ足りないと言わんばかりに僕の舌を味わい、外で拍手が起こり始めるまで解放してくれなかった。あれはコンサートなんかで、アンコールする時の叩き方だ。「陛下」と呼ぶ声がする。「救世主様、お姿を」っていうのも聞こえるような。
「これ以上待たせるわけにはいかんな」
残念そうに言い、僕の髪を整えてくれた。
「俺も見てくれ。おかしなところはないか?」
「おかしくはないですけど、ここ」
熱烈なキスのせいで、髪が少し乱れてる。直すと、「ありがとう」と言って大きな居間へと僕を誘った。
『表の居間』と呼ばれるこの部屋は、直接バルコニーに出られるようになっている。出る……んだよね? 僕も一緒に。部屋の真ん中で、ぴたっと足が止まった。深呼吸、深呼吸。
「大丈夫だ」
「……はい」
この世界のことを少しばかり本で読んだとはいえ、お城の外の人たちに会うのは初めてだ。緊張しないわけがない。でも、この人が隣にいるから大丈夫。
床まで届く窓を彼が開けると、大歓声が沸き起こった。
「陛下のお顔を拝見して皆安堵しておりましたが、できることなら彼にも一目会いたいと」
「そうであろうな。あれはできているか」
「はい。先ほど仕上がって参りました」
ゾイさんは僕に薄い紙包みを手渡すと、ラトゥリオ様と、僕にもまるで王族に対するような丁寧なお辞儀をして、ほかの三人と一緒に下へ戻った。
僕たちは小さい方の居間へ行き、包みを開けた。
「わ……かっこいい!」
マントだ。青みがかった銀色で、光の加減によっては虹色にも見える。
「しばらくは、城の中でも身につけているといい。魔力を発動させる性質を持つ者は、慣れぬうちはほかの者の力を引き寄せやすい。外へ出るようになれば、鋭い爪を持つ生き物に遭遇する場合もあるが、これがあればお前に手出しはできん」
ラトゥリオ様は、話しながら僕にマントを纏わせてくれた。
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「ありがとうございます。これ自体に魔力がある……ってことですか?」
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「えっ」
頬に熱が集まる。だってそれはつまり、あなたに包まれているのも同じじゃないか。
彼はお見通しで、赤くなった僕の頬に軽くキスをして、「それともうひとつ」と肩の飾りに触れた。彼の肩にあるのと同じ紋章だ。ドラゴンとペガサスが向かい合って、複雑な植物の模様を囲んでいる。
「これ、もしかして」
王族の!? 何で僕が!?
見上げると、ニヤッと笑っている。
「俺のものだという印だな。別の形で体中につけてあるが、それは皆に見せるわけにはいかない」
「当たり前じゃないですかっ」
キスマークを人に見られてたまるもんかっ。
……今、「俺のもの」って言った。その意味、聞いてもいいのかな。聞くの、怖いな。
躊躇っていると、くしゃっと前髪を掻き上げられた。
「手伝いたいと、言ってくれただろう?」
「はい」
手当や修理を手伝いたいと、確かに言った。
「今日からはどこを出歩くのも自由だ。俺がついていてやれない時もある。この紋章があれば、俺の保護下にある者だと知れて何をするにも話が早くなる。尤も、守ってもらっているのは俺の方だがな」
「そんな……」
おでこに押し当てられた唇が、口元へ降りてくる。目を閉じて迎えた時、外の騒めきが耳に届いた。
「んっ……あれ、は?」
彼は、まだ足りないと言わんばかりに僕の舌を味わい、外で拍手が起こり始めるまで解放してくれなかった。あれはコンサートなんかで、アンコールする時の叩き方だ。「陛下」と呼ぶ声がする。「救世主様、お姿を」っていうのも聞こえるような。
「これ以上待たせるわけにはいかんな」
残念そうに言い、僕の髪を整えてくれた。
「俺も見てくれ。おかしなところはないか?」
「おかしくはないですけど、ここ」
熱烈なキスのせいで、髪が少し乱れてる。直すと、「ありがとう」と言って大きな居間へと僕を誘った。
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「大丈夫だ」
「……はい」
この世界のことを少しばかり本で読んだとはいえ、お城の外の人たちに会うのは初めてだ。緊張しないわけがない。でも、この人が隣にいるから大丈夫。
床まで届く窓を彼が開けると、大歓声が沸き起こった。
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