異世界転移は終わらない恋のはじまりでした―救世主レオのノロケ話―

花宮守

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第1章 大罪人と救世主

第8話

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 三日目の朝は、空腹で目が覚めた。おいしそうな匂いがしたから余計だった。目を開けると、サンドイッチの皿を持った王様がベッドに腰かけて、楽しそうに僕を見下ろしていた。
「おはよう、レオ」
「おはようございます」
「嫌いな具はあるか?」
 サンドイッチの具は、ハムと野菜、卵、クリームとフルーツ、それにチキンカツ。
「大好きなものばかりです!」
 元気いっぱい、答えてしまった。
「それはよかった。ほら」
「んっ」
 フルーツサンドを差し出され、素直に口を開けた。寝起きの頭に染みる甘さだ。
「ん、おいしいです」
「空腹で動けないだろうからな。まずはこれをしっかり食べなさい。コーヒーもある」
 その言葉に甘えて、ベッドで朝食なんていう贅沢なことをさせてもらった。新鮮な野菜、黄身の色が濃い卵。鶏肉もぷりぷりでおいしかった。彼も同じものを食べ、よほど僕が好きだと思ったのだろう、自分のフルーツサンドも「あーん」してくれた。
「食堂へ行けばシチューもあるが、早めの昼食にまわすこともできる」
「じゃあ、お昼にいただきます。今はこれで大満足なので」
「わかった」
 にこにこ笑う王様に笑顔を返しながら、頭の隅で、「電子レンジみたいなものってあったっけ? 温め直すのってどうするんだろう」と思った。

 今日は昨日ほどの眠気には襲われず、本をたくさん読んだ。服は、昨日届いたものの中から、青いシャツとベージュのズボンを選んだ。向こうで着てたのより大人っぽい。
「よく似合う」
 眩しそうに褒められて、照れ臭かった。
 彼は、白くてゆったりとしたシャツに黒いズボン。シンプルを極めたスタイルが、美貌を際立たせている。向こうで街を歩いたら、この格好でも大騒ぎだろうな。モデルかミュージシャンに見えるかもしれない。長い髪は、気分によって、後ろでゆるくまとめることもある。
 僕は今、自分の置かれた状況に対して、パニックを起こすことなく過ごしていられる。それはラトゥリオ様のおかげだ。絶対的な安心感。見知らぬ場所に放り出されたのに、独りぼっちじゃない。
 もちろん、言葉が通じることや、生活様式が向こうと似ていることも助かっている。歯を磨いたりトイレに行ったり、顔や手を洗ったりという、毎日大して意識せずやっていたことが、ここでも同じようにできる。電気水道完備って素晴らしい。

 王様専用のこのフロアは、一応、お城の最上階に位置している。塔を含めると、もっと高い階層もある。ここは地上だけで言えば四階だけど、地階もある。小山の斜面を利用して作られているんだ。
 地上一階は城外の人たちとのやり取りを始めとして、様々な雑事を執り行うための場所。厨房は一階と二階にあって、この四階に運ばれてくるものは二階で作られている。働いている人たちは住み込みが多く、男性の宿舎は一階、女性は二階。三階から上は王族専用で、今はラトゥリオ様しか使っていない。僕が心配していた王妃様は存在しないんだ。

 知識が増えると聞きたいことも増えるけど、僕は自分に対して二つのルールを作った。一つ目は、まず自分で調べること。本はそのためにあるんだ。二つ目は、それだけでは分からないことがあっても、この三日間が終わるまでは聞かない。本に書かれていないのは、ラトゥリオ様の個人的なことや、僕の好奇心から来るものだから。それには、聞きたいけど聞くのが怖いなっていうことも含まれている。
 歴史の本は数が多くて、世界史や日本史が好きだった僕には嬉しい限りだ。ただ、古い時代から順番に読んでいるから、現代に追いつくのはいつになることやら。今はまだ、人類の始祖がやっと登場したところだ。異世界に送り込まれた身としては、とんでもない遠回りをしているんだろうけど、興味があるから致し方ない。衣食住の心配がいらないという恵まれた環境に置かれていることが大きい。

 ラトゥリオ様は、今日も僕の隣に座って、本の内容を時々補足してくれる。好きな本ばかり集めた本棚だから、当然、全部読んでいるそうだ。それぞれの本に対する彼の愛着も、素敵だなと思った。
 僕の偏った読書傾向は、最新の地図をいまだに見ていないことからも分かろうというものだ。古い時代について述べた本に掲載されている地図は、当時の状況を示すもの。僕が今明確に分かっているのは、北半球にいるってことぐらいだ。二百年前に書かれたある本によると、「世界は長く、十の地域と五十前後の国に分かれていた。現在のように統一されたのはおよそ八百年前のこと」。ということは、統一されてから千年経っている。
今では「この国」と「この世界」は同義だ。宇宙の話は置いておくとして。ラトゥリオ様が世界の命運を一手に握っているように見えたのは、勘違いじゃなかった。この人が……と端整な顔を見上げると、お腹がグゥと鳴った。
「あ」
 気付いたら、一気に空腹を自覚した。続きは、お腹の虫を宥めてからにするかぁ。
「よし、昼食にしよう。教えておきたいこともあるのでな」
 世界を統べる王様は、僕の頭を優しく撫でた。

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