8 / 50
第1章 大罪人と救世主
第8話
しおりを挟む
三日目の朝は、空腹で目が覚めた。おいしそうな匂いがしたから余計だった。目を開けると、サンドイッチの皿を持った王様がベッドに腰かけて、楽しそうに僕を見下ろしていた。
「おはよう、レオ」
「おはようございます」
「嫌いな具はあるか?」
サンドイッチの具は、ハムと野菜、卵、クリームとフルーツ、それにチキンカツ。
「大好きなものばかりです!」
元気いっぱい、答えてしまった。
「それはよかった。ほら」
「んっ」
フルーツサンドを差し出され、素直に口を開けた。寝起きの頭に染みる甘さだ。
「ん、おいしいです」
「空腹で動けないだろうからな。まずはこれをしっかり食べなさい。コーヒーもある」
その言葉に甘えて、ベッドで朝食なんていう贅沢なことをさせてもらった。新鮮な野菜、黄身の色が濃い卵。鶏肉もぷりぷりでおいしかった。彼も同じものを食べ、よほど僕が好きだと思ったのだろう、自分のフルーツサンドも「あーん」してくれた。
「食堂へ行けばシチューもあるが、早めの昼食にまわすこともできる」
「じゃあ、お昼にいただきます。今はこれで大満足なので」
「わかった」
にこにこ笑う王様に笑顔を返しながら、頭の隅で、「電子レンジみたいなものってあったっけ? 温め直すのってどうするんだろう」と思った。
今日は昨日ほどの眠気には襲われず、本をたくさん読んだ。服は、昨日届いたものの中から、青いシャツとベージュのズボンを選んだ。向こうで着てたのより大人っぽい。
「よく似合う」
眩しそうに褒められて、照れ臭かった。
彼は、白くてゆったりとしたシャツに黒いズボン。シンプルを極めたスタイルが、美貌を際立たせている。向こうで街を歩いたら、この格好でも大騒ぎだろうな。モデルかミュージシャンに見えるかもしれない。長い髪は、気分によって、後ろでゆるくまとめることもある。
僕は今、自分の置かれた状況に対して、パニックを起こすことなく過ごしていられる。それはラトゥリオ様のおかげだ。絶対的な安心感。見知らぬ場所に放り出されたのに、独りぼっちじゃない。
もちろん、言葉が通じることや、生活様式が向こうと似ていることも助かっている。歯を磨いたりトイレに行ったり、顔や手を洗ったりという、毎日大して意識せずやっていたことが、ここでも同じようにできる。電気水道完備って素晴らしい。
王様専用のこのフロアは、一応、お城の最上階に位置している。塔を含めると、もっと高い階層もある。ここは地上だけで言えば四階だけど、地階もある。小山の斜面を利用して作られているんだ。
地上一階は城外の人たちとのやり取りを始めとして、様々な雑事を執り行うための場所。厨房は一階と二階にあって、この四階に運ばれてくるものは二階で作られている。働いている人たちは住み込みが多く、男性の宿舎は一階、女性は二階。三階から上は王族専用で、今はラトゥリオ様しか使っていない。僕が心配していた王妃様は存在しないんだ。
知識が増えると聞きたいことも増えるけど、僕は自分に対して二つのルールを作った。一つ目は、まず自分で調べること。本はそのためにあるんだ。二つ目は、それだけでは分からないことがあっても、この三日間が終わるまでは聞かない。本に書かれていないのは、ラトゥリオ様の個人的なことや、僕の好奇心から来るものだから。それには、聞きたいけど聞くのが怖いなっていうことも含まれている。
歴史の本は数が多くて、世界史や日本史が好きだった僕には嬉しい限りだ。ただ、古い時代から順番に読んでいるから、現代に追いつくのはいつになることやら。今はまだ、人類の始祖がやっと登場したところだ。異世界に送り込まれた身としては、とんでもない遠回りをしているんだろうけど、興味があるから致し方ない。衣食住の心配がいらないという恵まれた環境に置かれていることが大きい。
ラトゥリオ様は、今日も僕の隣に座って、本の内容を時々補足してくれる。好きな本ばかり集めた本棚だから、当然、全部読んでいるそうだ。それぞれの本に対する彼の愛着も、素敵だなと思った。
僕の偏った読書傾向は、最新の地図をいまだに見ていないことからも分かろうというものだ。古い時代について述べた本に掲載されている地図は、当時の状況を示すもの。僕が今明確に分かっているのは、北半球にいるってことぐらいだ。二百年前に書かれたある本によると、「世界は長く、十の地域と五十前後の国に分かれていた。現在のように統一されたのはおよそ八百年前のこと」。ということは、統一されてから千年経っている。
今では「この国」と「この世界」は同義だ。宇宙の話は置いておくとして。ラトゥリオ様が世界の命運を一手に握っているように見えたのは、勘違いじゃなかった。この人が……と端整な顔を見上げると、お腹がグゥと鳴った。
「あ」
気付いたら、一気に空腹を自覚した。続きは、お腹の虫を宥めてからにするかぁ。
「よし、昼食にしよう。教えておきたいこともあるのでな」
世界を統べる王様は、僕の頭を優しく撫でた。
「おはよう、レオ」
「おはようございます」
「嫌いな具はあるか?」
サンドイッチの具は、ハムと野菜、卵、クリームとフルーツ、それにチキンカツ。
「大好きなものばかりです!」
元気いっぱい、答えてしまった。
「それはよかった。ほら」
「んっ」
フルーツサンドを差し出され、素直に口を開けた。寝起きの頭に染みる甘さだ。
「ん、おいしいです」
「空腹で動けないだろうからな。まずはこれをしっかり食べなさい。コーヒーもある」
その言葉に甘えて、ベッドで朝食なんていう贅沢なことをさせてもらった。新鮮な野菜、黄身の色が濃い卵。鶏肉もぷりぷりでおいしかった。彼も同じものを食べ、よほど僕が好きだと思ったのだろう、自分のフルーツサンドも「あーん」してくれた。
「食堂へ行けばシチューもあるが、早めの昼食にまわすこともできる」
「じゃあ、お昼にいただきます。今はこれで大満足なので」
「わかった」
にこにこ笑う王様に笑顔を返しながら、頭の隅で、「電子レンジみたいなものってあったっけ? 温め直すのってどうするんだろう」と思った。
今日は昨日ほどの眠気には襲われず、本をたくさん読んだ。服は、昨日届いたものの中から、青いシャツとベージュのズボンを選んだ。向こうで着てたのより大人っぽい。
「よく似合う」
眩しそうに褒められて、照れ臭かった。
彼は、白くてゆったりとしたシャツに黒いズボン。シンプルを極めたスタイルが、美貌を際立たせている。向こうで街を歩いたら、この格好でも大騒ぎだろうな。モデルかミュージシャンに見えるかもしれない。長い髪は、気分によって、後ろでゆるくまとめることもある。
僕は今、自分の置かれた状況に対して、パニックを起こすことなく過ごしていられる。それはラトゥリオ様のおかげだ。絶対的な安心感。見知らぬ場所に放り出されたのに、独りぼっちじゃない。
もちろん、言葉が通じることや、生活様式が向こうと似ていることも助かっている。歯を磨いたりトイレに行ったり、顔や手を洗ったりという、毎日大して意識せずやっていたことが、ここでも同じようにできる。電気水道完備って素晴らしい。
王様専用のこのフロアは、一応、お城の最上階に位置している。塔を含めると、もっと高い階層もある。ここは地上だけで言えば四階だけど、地階もある。小山の斜面を利用して作られているんだ。
地上一階は城外の人たちとのやり取りを始めとして、様々な雑事を執り行うための場所。厨房は一階と二階にあって、この四階に運ばれてくるものは二階で作られている。働いている人たちは住み込みが多く、男性の宿舎は一階、女性は二階。三階から上は王族専用で、今はラトゥリオ様しか使っていない。僕が心配していた王妃様は存在しないんだ。
知識が増えると聞きたいことも増えるけど、僕は自分に対して二つのルールを作った。一つ目は、まず自分で調べること。本はそのためにあるんだ。二つ目は、それだけでは分からないことがあっても、この三日間が終わるまでは聞かない。本に書かれていないのは、ラトゥリオ様の個人的なことや、僕の好奇心から来るものだから。それには、聞きたいけど聞くのが怖いなっていうことも含まれている。
歴史の本は数が多くて、世界史や日本史が好きだった僕には嬉しい限りだ。ただ、古い時代から順番に読んでいるから、現代に追いつくのはいつになることやら。今はまだ、人類の始祖がやっと登場したところだ。異世界に送り込まれた身としては、とんでもない遠回りをしているんだろうけど、興味があるから致し方ない。衣食住の心配がいらないという恵まれた環境に置かれていることが大きい。
ラトゥリオ様は、今日も僕の隣に座って、本の内容を時々補足してくれる。好きな本ばかり集めた本棚だから、当然、全部読んでいるそうだ。それぞれの本に対する彼の愛着も、素敵だなと思った。
僕の偏った読書傾向は、最新の地図をいまだに見ていないことからも分かろうというものだ。古い時代について述べた本に掲載されている地図は、当時の状況を示すもの。僕が今明確に分かっているのは、北半球にいるってことぐらいだ。二百年前に書かれたある本によると、「世界は長く、十の地域と五十前後の国に分かれていた。現在のように統一されたのはおよそ八百年前のこと」。ということは、統一されてから千年経っている。
今では「この国」と「この世界」は同義だ。宇宙の話は置いておくとして。ラトゥリオ様が世界の命運を一手に握っているように見えたのは、勘違いじゃなかった。この人が……と端整な顔を見上げると、お腹がグゥと鳴った。
「あ」
気付いたら、一気に空腹を自覚した。続きは、お腹の虫を宥めてからにするかぁ。
「よし、昼食にしよう。教えておきたいこともあるのでな」
世界を統べる王様は、僕の頭を優しく撫でた。
59
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である


花屋の息子
きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。
森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___?
瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け
の、お話です。
不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。
攻めが出てくるまでちょっとかかります。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

大魔法使いに生まれ変わったので森に引きこもります
かとらり。
BL
前世でやっていたRPGの中ボスの大魔法使いに生まれ変わった僕。
勇者に倒されるのは嫌なので、大人しくアイテムを渡して帰ってもらい、塔に引きこもってセカンドライフを楽しむことにした。
風の噂で勇者が魔王を倒したことを聞いて安心していたら、森の中に小さな男の子が転がり込んでくる。
どうやらその子どもは勇者の子供らしく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる