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第1章 大罪人と救世主
第6話
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人生で一番長いお風呂だった。
「お腹空いた……」
抱っこされて連れてこられたのは、あの大きな居間からすぐのところにある食堂だった。居間を通らなくても、別の入口からも入れるようになっている。王のプライベートを最大限尊重するために、お仕えする人たちの利用する扉を分けているらしい。
漫画で見たような、向こうに座っている人が見えないくらいの長いテーブルを予想していたら、いい意味で裏切られた。テーブルは、二人で囲むのに適度な広さ。一辺に沿ってソファー席があり、そっと下ろされた途端、お腹が鳴った。
「長風呂になってしまったからな」
「だから、誰のせいだって……んぐっ」
ガウン姿で笑う王様の指が、僕の口にカットフルーツを運んだ。
「ん、おいしいっ」
メロンなのかな? よく冷えていて甘い。唇から垂れた汁を、彼の舌が舐め取った。
「ああ、うまいな」
「恥ずかしいじゃないですか……」
「誰も見ていないぞ」
「そうじゃなくて」
ん?と問う瞳はメロンより甘い。言葉にできるはずもなく、僕もひとかけ取って彼の口元へ持っていった。待ってましたとばかりに、指まで食べられた。その流れでディープキスに持ち込もうとするのを、胸を押して思いとどまらせた。
「ご飯の時間です!」
お風呂に入っている間に食卓はすっかり整えられていた。色とりどりのフルーツ、卵にベーコンを添えたもの、青々とした野菜、軽いパンに、具だくさんのリゾットなど。食べ物の名前や調理法、調味料の種類などは、ほとんど向こうの世界と共通してる。どれもおいしくて、温かい野菜スープやコーヒーも飲みやすかった。量がちょうどいいのと、冷めてないことにも感動した。彼があらかじめ時間を伝えておいたのか、用意する側で時間を見計らったものか。
「ラトゥリオ様は、みんなに慕われているんですね」
「そう思うか」
「はい」
「ありがとう」
差し込む光の中、コーヒーを飲んで寛ぐ彼の姿は、息が止まりそうなほどに美しい。長い黒髪は、もうほとんど乾いている。空気がほどよく乾燥しているのと、髪質によるものなのか、特別なことをしなくてもちゃんと乾くそうだ。ちなみに僕の髪は、彼がタオルで丁寧に水気を取ってくれた。
食事の後も、彼は僕にべったりだった。そういえば三日間は籠もるって言ってたっけ。
寝室に直結した小さな(向こうと比べれば、ってこと。十分広い)居間があり、そこはちょっとした図書室ともいえる場所になっている。
「天井まで本棚がある……すごい」
「書斎にも本はあるんだが、増える一方でな。どれも愛着があって処分もできない。この部屋からもはみ出しそうになっている」
「ふふ、そういうの分かります」
「本は好きか?」
「はい、とっても! ……あ、よかった。僕にも読めそうです」
彼が一冊取って見せてくれたのは、地学の本。文字が、どう見ても日本語なんだよなあ。僕の隠れていた能力が開花して、勝手に変換されて日本語に見えるとか? この謎は後日解明するとしよう。
彼は僕の背に手を添え、ソファーへと誘った。この世界のことを知りたい、という気持ちがむくむく沸いてくる。熱心にページを繰る僕の横で、王様は時々分かりやすいコメントをくれた。穏やかな時間。
「お前の書斎も必要になりそうだ。ここを使うか?」
「いいんですか?」
「ああ。俺の書斎の本も自由に読むといい」
「ありがとうございます!」
僕はにっこり笑い、彼は僕の髪を撫でる。かわいくて仕方ない、って顔に書いてあるのは自惚れだろうか。
その本には、当面僕が知りたいことが大体書かれていた。一日は二十四時間、ふむふむ。太陽系があって、この星の衛星は二つ。違う世界、違う宇宙に来たんだと実感する。国はひとつで、国名は「稲妻」を意味するアストゥラ。星の名も同じだ。王宮は北半球にある。この辺りは気候は比較的温暖な気候だけど、少し北へ行くと雪が降ることもあるという。頭の中に地球儀を思い浮かべた。位置はちょうど日本の辺りかな。
一時間ほど、夢中で読んだ。そのうちに、おいしい朝食の効果なのか眠くなって、ソファーで船を漕ぎ始めた。
「横になるといい。ほら」
「んー……はぁい……」
何の疑問もなく、導かれるままに膝枕。この国で一番豪華な枕だ。食べて寝て、こんなことしてていいんだろうか。僕の役目っていうの、果たせてるのかなあ。
「お前がいなければ、今頃は……」
彼の声が、途切れる意識の合間に聞こえた。
「お腹空いた……」
抱っこされて連れてこられたのは、あの大きな居間からすぐのところにある食堂だった。居間を通らなくても、別の入口からも入れるようになっている。王のプライベートを最大限尊重するために、お仕えする人たちの利用する扉を分けているらしい。
漫画で見たような、向こうに座っている人が見えないくらいの長いテーブルを予想していたら、いい意味で裏切られた。テーブルは、二人で囲むのに適度な広さ。一辺に沿ってソファー席があり、そっと下ろされた途端、お腹が鳴った。
「長風呂になってしまったからな」
「だから、誰のせいだって……んぐっ」
ガウン姿で笑う王様の指が、僕の口にカットフルーツを運んだ。
「ん、おいしいっ」
メロンなのかな? よく冷えていて甘い。唇から垂れた汁を、彼の舌が舐め取った。
「ああ、うまいな」
「恥ずかしいじゃないですか……」
「誰も見ていないぞ」
「そうじゃなくて」
ん?と問う瞳はメロンより甘い。言葉にできるはずもなく、僕もひとかけ取って彼の口元へ持っていった。待ってましたとばかりに、指まで食べられた。その流れでディープキスに持ち込もうとするのを、胸を押して思いとどまらせた。
「ご飯の時間です!」
お風呂に入っている間に食卓はすっかり整えられていた。色とりどりのフルーツ、卵にベーコンを添えたもの、青々とした野菜、軽いパンに、具だくさんのリゾットなど。食べ物の名前や調理法、調味料の種類などは、ほとんど向こうの世界と共通してる。どれもおいしくて、温かい野菜スープやコーヒーも飲みやすかった。量がちょうどいいのと、冷めてないことにも感動した。彼があらかじめ時間を伝えておいたのか、用意する側で時間を見計らったものか。
「ラトゥリオ様は、みんなに慕われているんですね」
「そう思うか」
「はい」
「ありがとう」
差し込む光の中、コーヒーを飲んで寛ぐ彼の姿は、息が止まりそうなほどに美しい。長い黒髪は、もうほとんど乾いている。空気がほどよく乾燥しているのと、髪質によるものなのか、特別なことをしなくてもちゃんと乾くそうだ。ちなみに僕の髪は、彼がタオルで丁寧に水気を取ってくれた。
食事の後も、彼は僕にべったりだった。そういえば三日間は籠もるって言ってたっけ。
寝室に直結した小さな(向こうと比べれば、ってこと。十分広い)居間があり、そこはちょっとした図書室ともいえる場所になっている。
「天井まで本棚がある……すごい」
「書斎にも本はあるんだが、増える一方でな。どれも愛着があって処分もできない。この部屋からもはみ出しそうになっている」
「ふふ、そういうの分かります」
「本は好きか?」
「はい、とっても! ……あ、よかった。僕にも読めそうです」
彼が一冊取って見せてくれたのは、地学の本。文字が、どう見ても日本語なんだよなあ。僕の隠れていた能力が開花して、勝手に変換されて日本語に見えるとか? この謎は後日解明するとしよう。
彼は僕の背に手を添え、ソファーへと誘った。この世界のことを知りたい、という気持ちがむくむく沸いてくる。熱心にページを繰る僕の横で、王様は時々分かりやすいコメントをくれた。穏やかな時間。
「お前の書斎も必要になりそうだ。ここを使うか?」
「いいんですか?」
「ああ。俺の書斎の本も自由に読むといい」
「ありがとうございます!」
僕はにっこり笑い、彼は僕の髪を撫でる。かわいくて仕方ない、って顔に書いてあるのは自惚れだろうか。
その本には、当面僕が知りたいことが大体書かれていた。一日は二十四時間、ふむふむ。太陽系があって、この星の衛星は二つ。違う世界、違う宇宙に来たんだと実感する。国はひとつで、国名は「稲妻」を意味するアストゥラ。星の名も同じだ。王宮は北半球にある。この辺りは気候は比較的温暖な気候だけど、少し北へ行くと雪が降ることもあるという。頭の中に地球儀を思い浮かべた。位置はちょうど日本の辺りかな。
一時間ほど、夢中で読んだ。そのうちに、おいしい朝食の効果なのか眠くなって、ソファーで船を漕ぎ始めた。
「横になるといい。ほら」
「んー……はぁい……」
何の疑問もなく、導かれるままに膝枕。この国で一番豪華な枕だ。食べて寝て、こんなことしてていいんだろうか。僕の役目っていうの、果たせてるのかなあ。
「お前がいなければ、今頃は……」
彼の声が、途切れる意識の合間に聞こえた。
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