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第1章 大罪人と救世主
第2話
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王宮の門には、洋画の歴史ものに出てくるような物々しい見張りがいる。装備は鎧と槍。人数は門の左右に三人ずつ。彼を見てみんな跪いた。
「お帰りなさいませ」
「皆、大事ないか」
「はっ。現在、負傷者の報告は上がってきておりますが、いずれも軽傷です」
「手の空いているものは手当に向かわせろ。……すまぬ」
「何をおっしゃいます陛下。我らは陛下を信じております!」
「そうですとも!」
陛下!? え、この人、王様!? 誰も僕のことを聞かないのは、王様が説明しないことは聞いちゃいけないとか、そういうのだろうか。
「皆の信頼に背かぬよう……努力する」
彼は門を抜け、広い前庭を突っ切っていく。痛ましい表情。何か言った方がいいのかな。でも、人前で王様に無遠慮に話しかけると、あとで不敬罪でお手打ちなんてこと……。
「何か言いたそうだな。遠慮はいらぬ」
「あの、お手伝いしましょうか? 人手も足りないみたいだし。僕、手先だけは器用なので」
「ありがとう。お前にはほかの誰にもできぬ役目がある。いやな思いをさせるかもしれぬが……力を貸してほしい」
「何でも言ってください!」
差し迫った命の危険はなさそうだし、あの森もそうだけど、ここも本当に綺麗だ。緑も、花の色も、キラキラしてる。空気もおいしい。
王宮のつくりは、歴史の勉強で出てきたヨーロッパのお城に近い。中へ入ると、地震の影響なのか修理に追われている人たちがいて、けが人の手当をしている人もあちこちに見られた。
「陛下、ご無事で!」
母さんと同じぐらいか少し上かなっていう女の人が、彼に声をかけた。裾の長い、スカートのたっぷりした服を着ているけど、きびきびした身のこなし。深い赤い色が、目鼻立ちのはっきりした顔によく似合ってる。
「ゾイ、状況はどうだ」
「短時間でしたから、大きな被害はございません。各地に馬を走らせました。薬や資材を運ばせております」
「よくやってくれた。俺は三日ばかり部屋へ籠もる。世話をかけるが食事はお前が運んでくれ。この子の分もな」
この子とは。僕か。
彼女、ゾイさんはハッとして僕を見た。ぺこっとお辞儀をするくらいしか思いつかない。きちんと挨拶したいけど、二人があまりにも緊迫しているから、口をきいていいのかどうか。
彼女は感極まった表情で、天井に向かって拝むような仕草をしてから、僕に会釈を返してくれた。
「ゾイよ。よろしくね。あなたのお名前は?」
豊かな、温かい声だ。
「礼生……希島礼生です」
「レオね。困ったことがあればいつでも言ってね」
「はい。ありがとうございます」
「こちらこそ」
「では、頼むぞ」
王様は、僕たちの挨拶が終わるが早いか、すたすたと歩きだした。よく分からないが、ご飯は出るらしい。ゾイさんは陛下よりはちゃんと説明してくれそうだし、あとでこの世界のことを教えてもらおう。それにしても、いつまで抱っこされてればいいんだろう。
「あの、えーと、陛下」
階段を上がって、廊下を歩いて、また階段を上がって……と、迷路のような城内にクラクラしてきた頃に話しかけてみた。
「もう森の中じゃありませんし、僕、逃げませんから」
「下ろせというのか」
「はい。あの、恥ずかしいので」
「こうしているのには理由がある。それに、ここまでくれば誰も見てはいない」
「はぁ」
そういうことじゃないんだけどな。僕の男子としての、何ていうか。理由があるというなら、それ以上は言えないけど。
階段も廊下も、十分な広さがあり、明るくて気持ちがいい。それでますます気になってきた。王様、なぜ悲しそうなんですか? 国は豊かみたいだし、働いている人たちも気持ちがいい。地震もあれからおさまってるしなあ。謎は深まるばかりだ。でも……この腕の中、慣れてくると心地いい。生まれる前から知っていたような気がする。
それきり無言で掴まっていると、ついにある部屋にたどり着いた。王様専用の居間かな。通ってた高校の校庭より広い。続き部屋で、書斎なんかもあるみたいだ。彼は歩き続け、居間の入口から一番遠い扉を開けた。
「わ……」
天蓋付きのベッドってほんとにあるんだ。大きい。キングサイズっていうやつかな。王様だけに。この部屋も大きいなあ。僕の家の部屋が全部入ってしまいそうだ。床まである大きな窓には、厚いカーテンがかかっている。上の方の細い窓はすりガラスで、そこから光が入ってくる。
彼は僕をそっとベッドに下ろした。逃げないようにさり気なく、足で押さえつけられているような。マントを外す様も、上着を脱いで放り投げるのも、いちいち決まっててかっこいい。額に一筋垂れた髪を、悩まし気に掻き上げた。色っぽくて、ごくっと唾を飲んだ。複雑な模様のついたブーツを脱ぎ捨てれば、元の世界のモデルさんか何かに見える。光沢のある黒いシャツのボタンを三番目まで外し、僕の靴も脱がせた。殺されはしなくても、食われる。どう見ても明らかなのに、されるがままになっている。彼の瞳に満ちる、縋るような色が気になって仕方ないんだ。僕にできることなら、って思うから。
「レオ」
優しい声。覆い被さる彼の背に腕をまわした。深くは考えなかった。ただ、そうしたかった。
「王様……」
「ラトゥリオだ」
「ラトゥリオ様……」
「そうだ」
口づけ。絡み合う舌。気持ちいい……。
「お帰りなさいませ」
「皆、大事ないか」
「はっ。現在、負傷者の報告は上がってきておりますが、いずれも軽傷です」
「手の空いているものは手当に向かわせろ。……すまぬ」
「何をおっしゃいます陛下。我らは陛下を信じております!」
「そうですとも!」
陛下!? え、この人、王様!? 誰も僕のことを聞かないのは、王様が説明しないことは聞いちゃいけないとか、そういうのだろうか。
「皆の信頼に背かぬよう……努力する」
彼は門を抜け、広い前庭を突っ切っていく。痛ましい表情。何か言った方がいいのかな。でも、人前で王様に無遠慮に話しかけると、あとで不敬罪でお手打ちなんてこと……。
「何か言いたそうだな。遠慮はいらぬ」
「あの、お手伝いしましょうか? 人手も足りないみたいだし。僕、手先だけは器用なので」
「ありがとう。お前にはほかの誰にもできぬ役目がある。いやな思いをさせるかもしれぬが……力を貸してほしい」
「何でも言ってください!」
差し迫った命の危険はなさそうだし、あの森もそうだけど、ここも本当に綺麗だ。緑も、花の色も、キラキラしてる。空気もおいしい。
王宮のつくりは、歴史の勉強で出てきたヨーロッパのお城に近い。中へ入ると、地震の影響なのか修理に追われている人たちがいて、けが人の手当をしている人もあちこちに見られた。
「陛下、ご無事で!」
母さんと同じぐらいか少し上かなっていう女の人が、彼に声をかけた。裾の長い、スカートのたっぷりした服を着ているけど、きびきびした身のこなし。深い赤い色が、目鼻立ちのはっきりした顔によく似合ってる。
「ゾイ、状況はどうだ」
「短時間でしたから、大きな被害はございません。各地に馬を走らせました。薬や資材を運ばせております」
「よくやってくれた。俺は三日ばかり部屋へ籠もる。世話をかけるが食事はお前が運んでくれ。この子の分もな」
この子とは。僕か。
彼女、ゾイさんはハッとして僕を見た。ぺこっとお辞儀をするくらいしか思いつかない。きちんと挨拶したいけど、二人があまりにも緊迫しているから、口をきいていいのかどうか。
彼女は感極まった表情で、天井に向かって拝むような仕草をしてから、僕に会釈を返してくれた。
「ゾイよ。よろしくね。あなたのお名前は?」
豊かな、温かい声だ。
「礼生……希島礼生です」
「レオね。困ったことがあればいつでも言ってね」
「はい。ありがとうございます」
「こちらこそ」
「では、頼むぞ」
王様は、僕たちの挨拶が終わるが早いか、すたすたと歩きだした。よく分からないが、ご飯は出るらしい。ゾイさんは陛下よりはちゃんと説明してくれそうだし、あとでこの世界のことを教えてもらおう。それにしても、いつまで抱っこされてればいいんだろう。
「あの、えーと、陛下」
階段を上がって、廊下を歩いて、また階段を上がって……と、迷路のような城内にクラクラしてきた頃に話しかけてみた。
「もう森の中じゃありませんし、僕、逃げませんから」
「下ろせというのか」
「はい。あの、恥ずかしいので」
「こうしているのには理由がある。それに、ここまでくれば誰も見てはいない」
「はぁ」
そういうことじゃないんだけどな。僕の男子としての、何ていうか。理由があるというなら、それ以上は言えないけど。
階段も廊下も、十分な広さがあり、明るくて気持ちがいい。それでますます気になってきた。王様、なぜ悲しそうなんですか? 国は豊かみたいだし、働いている人たちも気持ちがいい。地震もあれからおさまってるしなあ。謎は深まるばかりだ。でも……この腕の中、慣れてくると心地いい。生まれる前から知っていたような気がする。
それきり無言で掴まっていると、ついにある部屋にたどり着いた。王様専用の居間かな。通ってた高校の校庭より広い。続き部屋で、書斎なんかもあるみたいだ。彼は歩き続け、居間の入口から一番遠い扉を開けた。
「わ……」
天蓋付きのベッドってほんとにあるんだ。大きい。キングサイズっていうやつかな。王様だけに。この部屋も大きいなあ。僕の家の部屋が全部入ってしまいそうだ。床まである大きな窓には、厚いカーテンがかかっている。上の方の細い窓はすりガラスで、そこから光が入ってくる。
彼は僕をそっとベッドに下ろした。逃げないようにさり気なく、足で押さえつけられているような。マントを外す様も、上着を脱いで放り投げるのも、いちいち決まっててかっこいい。額に一筋垂れた髪を、悩まし気に掻き上げた。色っぽくて、ごくっと唾を飲んだ。複雑な模様のついたブーツを脱ぎ捨てれば、元の世界のモデルさんか何かに見える。光沢のある黒いシャツのボタンを三番目まで外し、僕の靴も脱がせた。殺されはしなくても、食われる。どう見ても明らかなのに、されるがままになっている。彼の瞳に満ちる、縋るような色が気になって仕方ないんだ。僕にできることなら、って思うから。
「レオ」
優しい声。覆い被さる彼の背に腕をまわした。深くは考えなかった。ただ、そうしたかった。
「王様……」
「ラトゥリオだ」
「ラトゥリオ様……」
「そうだ」
口づけ。絡み合う舌。気持ちいい……。
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