異世界転移は終わらない恋のはじまりでした―救世主レオのノロケ話―

花宮守

文字の大きさ
上 下
2 / 50
第1章 大罪人と救世主

第2話

しおりを挟む
 王宮の門には、洋画の歴史ものに出てくるような物々しい見張りがいる。装備は鎧と槍。人数は門の左右に三人ずつ。彼を見てみんな跪いた。
「お帰りなさいませ」
「皆、大事ないか」
「はっ。現在、負傷者の報告は上がってきておりますが、いずれも軽傷です」
「手の空いているものは手当に向かわせろ。……すまぬ」
「何をおっしゃいます陛下。我らは陛下を信じております!」
「そうですとも!」
 陛下!? え、この人、王様!? 誰も僕のことを聞かないのは、王様が説明しないことは聞いちゃいけないとか、そういうのだろうか。
「皆の信頼に背かぬよう……努力する」
 彼は門を抜け、広い前庭を突っ切っていく。痛ましい表情。何か言った方がいいのかな。でも、人前で王様に無遠慮に話しかけると、あとで不敬罪でお手打ちなんてこと……。
「何か言いたそうだな。遠慮はいらぬ」
「あの、お手伝いしましょうか? 人手も足りないみたいだし。僕、手先だけは器用なので」
「ありがとう。お前にはほかの誰にもできぬ役目がある。いやな思いをさせるかもしれぬが……力を貸してほしい」
「何でも言ってください!」
 差し迫った命の危険はなさそうだし、あの森もそうだけど、ここも本当に綺麗だ。緑も、花の色も、キラキラしてる。空気もおいしい。
 王宮のつくりは、歴史の勉強で出てきたヨーロッパのお城に近い。中へ入ると、地震の影響なのか修理に追われている人たちがいて、けが人の手当をしている人もあちこちに見られた。
「陛下、ご無事で!」
 母さんと同じぐらいか少し上かなっていう女の人が、彼に声をかけた。裾の長い、スカートのたっぷりした服を着ているけど、きびきびした身のこなし。深い赤い色が、目鼻立ちのはっきりした顔によく似合ってる。
「ゾイ、状況はどうだ」
「短時間でしたから、大きな被害はございません。各地に馬を走らせました。薬や資材を運ばせております」
「よくやってくれた。俺は三日ばかり部屋へ籠もる。世話をかけるが食事はお前が運んでくれ。この子の分もな」
 この子とは。僕か。
 彼女、ゾイさんはハッとして僕を見た。ぺこっとお辞儀をするくらいしか思いつかない。きちんと挨拶したいけど、二人があまりにも緊迫しているから、口をきいていいのかどうか。
 彼女は感極まった表情で、天井に向かって拝むような仕草をしてから、僕に会釈を返してくれた。
「ゾイよ。よろしくね。あなたのお名前は?」
 豊かな、温かい声だ。
「礼生……希島礼生です」
「レオね。困ったことがあればいつでも言ってね」
「はい。ありがとうございます」
「こちらこそ」
「では、頼むぞ」
 王様は、僕たちの挨拶が終わるが早いか、すたすたと歩きだした。よく分からないが、ご飯は出るらしい。ゾイさんは陛下よりはちゃんと説明してくれそうだし、あとでこの世界のことを教えてもらおう。それにしても、いつまで抱っこされてればいいんだろう。
「あの、えーと、陛下」
 階段を上がって、廊下を歩いて、また階段を上がって……と、迷路のような城内にクラクラしてきた頃に話しかけてみた。
「もう森の中じゃありませんし、僕、逃げませんから」
「下ろせというのか」
「はい。あの、恥ずかしいので」
「こうしているのには理由がある。それに、ここまでくれば誰も見てはいない」
「はぁ」
 そういうことじゃないんだけどな。僕の男子としての、何ていうか。理由があるというなら、それ以上は言えないけど。
 階段も廊下も、十分な広さがあり、明るくて気持ちがいい。それでますます気になってきた。王様、なぜ悲しそうなんですか? 国は豊かみたいだし、働いている人たちも気持ちがいい。地震もあれからおさまってるしなあ。謎は深まるばかりだ。でも……この腕の中、慣れてくると心地いい。生まれる前から知っていたような気がする。
 それきり無言で掴まっていると、ついにある部屋にたどり着いた。王様専用の居間かな。通ってた高校の校庭より広い。続き部屋で、書斎なんかもあるみたいだ。彼は歩き続け、居間の入口から一番遠い扉を開けた。
「わ……」
 天蓋付きのベッドってほんとにあるんだ。大きい。キングサイズっていうやつかな。王様だけに。この部屋も大きいなあ。僕の家の部屋が全部入ってしまいそうだ。床まである大きな窓には、厚いカーテンがかかっている。上の方の細い窓はすりガラスで、そこから光が入ってくる。
 彼は僕をそっとベッドに下ろした。逃げないようにさり気なく、足で押さえつけられているような。マントを外す様も、上着を脱いで放り投げるのも、いちいち決まっててかっこいい。額に一筋垂れた髪を、悩まし気に掻き上げた。色っぽくて、ごくっと唾を飲んだ。複雑な模様のついたブーツを脱ぎ捨てれば、元の世界のモデルさんか何かに見える。光沢のある黒いシャツのボタンを三番目まで外し、僕の靴も脱がせた。殺されはしなくても、食われる。どう見ても明らかなのに、されるがままになっている。彼の瞳に満ちる、縋るような色が気になって仕方ないんだ。僕にできることなら、って思うから。
「レオ」
 優しい声。覆い被さる彼の背に腕をまわした。深くは考えなかった。ただ、そうしたかった。
「王様……」
「ラトゥリオだ」
「ラトゥリオ様……」
「そうだ」
 口づけ。絡み合う舌。気持ちいい……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...