繋ぐ

花町 シュガー

文字の大きさ
上 下
5 / 10

5

しおりを挟む






(今日は給料日だぜ!)

時々入ってるバイトの給料日。
ちょっとテンションが上がって、足取り軽く銀行へ向かう。

今日は予定があるからさっさとATM寄らなきゃ。
それで金下ろしたら、予約してたもの取りに行って……

(…最近、おっさん見なくなったなぁ)

あの日無理やり一緒に出かけてから、パタリと姿を見なくなった。
多分1週間くらいが経とうとしている。
ようやく平凡に戻って安心したけど、なんか不思議な感じで…いや寂しいとかではないけど……

(結局、訳も分からんまま消えてったしなぁ)

後味悪いけど、まぁいいや。
狐に摘まれたというか、多分まじで七不思議かなんかだったんだろう。
深く考えるだけ無駄無駄。

着いた銀行の自動ドアを抜けて、真っ直ぐ目的の場所に向かう。
ATMは少し混んでて、人が並んでtーー



「強盗だ!!全員動くな!!」




「…………は?」



思わず声のする方を見ると、武装した奴らが数人、拳銃片手に大声を上げていた。


「おい、言うこと聞けねぇのか!

動くなっつってんだろうが!!」


1人が天井に向かって発砲し、あたりは一気に静寂に包まれる。

(ぇ、嘘…だろ……?)

ドラマかなんかの撮影?
待って、こんなこと現実に起きんのか……?

「そのまま全員座れ。
まだ動くんじゃねぇぞ。指示するまでその場から離れるな」

(起きてんじゃん)

おいおいどうするこれ。
頭真っ白すぎて全然働かねぇんだけど。
ってか、この後予定あんのにそんな都合よく起きる? 嘘だろ??

どうする、どうする……?


「……ん、…ーねん、少年っ」


ポンッ

「っ!?」


肩に手を置かれ勢いよく振り向くと、片手を振ってるふわふわした笑顔。

「な、おっさnーー」

「そこ!うるせぇぞ!!」

「っ、」

もがっとおっさんの手が口を塞ぎ、すいませんと強盗へ頭を下げてる。
そのままじっとしていると奴らが集まって話をし始め、そっと口の手が離れていった。

ヒソヒソ……

「お前なんでここにいんだよっ」

「やぁ、久しぶりだね少年」

「いや今挨拶してる場合じゃねぇから」

「うーん、毎度のごとくつれないなぁ」

「なっ、てか大体、お前今まで何処にーー」

「静かに」

ピトリと、あいつの人差し指が俺の口を封じる。

「今はその話は無しだ。時間がない。
先ずは私の話を聞いてもらおう」

さっきまでのふわふわはどこへ行ったのか、一気に真剣になった目に射抜かれグッと押し黙る。
そんな俺に優しく笑い、鋭い視線を奴らへ向けた。

「ここから髪をやや赤く染めた男が見えるだろう?
これから、その男が欠伸をする」

「え?」

見ていると、直ぐにクワァッと開く口。

「次に、あのリーダー格の男が左端の小柄な男へ〝廊下を見張れ〟と指示する」

「おいお前!ちょっと廊下見張ってろ。
小せぇんだからそれくらいしかできることねぇだろうが」

飛んだ指示に、小柄な男はぶつくさ言いながら廊下へ向かっていく。

(え、は?)

なんで…なんでおっさんはあいつらのこと分かってんだ?
何か通信機とかある? いや、通信機で指示は読めても欠伸までは読めない。
じゃあなんで? まさかグルとか……

「あ、グルではないよ、私は君の味方さ」

「っ、」

苦笑気味に告げられ、ゴクリと唾を飲み込む。

「けど、私はこの事件を知っている。
理解するのは難しいだろうけど、とりあえずは分かったかい?」

呆然としながら小さく頷くと、「いい子だね」と笑う声が聞こえた。

「それじゃあ、次へ行こう。

ーー真崎 壮太くん」


「は、はぃ」



「君は、ここで死ぬ」



「…………ぇ?」






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

その、魔法の味は

花町 シュガー
BL
『僕の身体は、あなたが作る〝魔法〟で出来ている』 優しい大人 × 健気学生 〈堤 輝 × 栗山 柚紀〉 α一族の元に生まれたΩと、とあるケーキ屋さんの話。 --------------------------------------------- ※「それは、キラキラ光る宝箱」とは? 花町が書いた短編をまとめるハッシュタグです。 お手すきの際に覗いていただけますと幸いです。

Merry Christmas.

花町 シュガー
BL
Christmas短編、第一弾 幼馴染同士の初心な恋の話。 イケメン不器用 × 平凡一途 〈リッキー(力也) × ショウ(翔太)〉 【Christmas短編集】 *2017年: Merry Christmas. *2018年: Christmas Present. *2019年: Mr. Santa Claus. *2020年: Christmas Carol. *2021年: Holy Night. *2022年: White Christmas. ※毎年クリスマスに短編をひとつ書いています。 いつも読んでくださる皆さんのプレゼントとなれば幸いです。 ※「それは、キラキラ光る宝箱」とは? 花町が書いた短編をまとめるタグです。 よろしければお手すきの際に覗いてみてください。

ネモフィラの花冠

花町 シュガー
BL
『わたしは、あなたを許します』 一途 × 一途健気 〈明 × 唐草 瑠璃〉 ネモフィラの花言葉=可憐・あなたを許す 表紙に使わせていただいている【うむぎさん(@xxxxksm)】の綺麗なネモフィラのお写真から話を膨らませました。 ----------------------------------------------- ※「それは、キラキラ光る宝箱」とは? 花町が書いた短編をまとめるハッシュタグです。 お手すきの際に覗いていただけますと幸いです。

ロンドンの足長おじさん

花町 シュガー
BL
『これが僕らの〝出会い〟、僕らの運命。 ーーでも、こんな形があってもいいと思うんだ。』 シルクハットの似合う長身のおじさんが、僕の運命の番でした。 運命の番との出会いを断る大人の、長い長い言い訳の物語。 〈おじさん × 高校生〉オメガバース この作品は、Blove様主催【第一回短編小説コンテスト】にてグランプリをいただきました。 ------------------------------------------------- ※「それは、キラキラ光る宝箱」とは? 花町が書いた短編をまとめるハッシュタグです。 お手すきの際に覗いていただけますと幸いです。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

前世の記憶がありまして。

花町 シュガー
BL
『ただ、真っ直ぐに貴方のことを愛してる。 それだけ……知っててほしいだけ。』 人魚姫だったことを覚えている子と、王子様だったことを覚えていない医者の話。 優しい大人 × 一途子ども 〈篠塚先生(シルウィズ) × 凛(リーシア)〉 ------------------------------------------- ※「それは、キラキラ光る宝箱」とは? 花町が書いた短編をまとめるタグです。 よろしければお手すきの際に覗いてみてください。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

シロツメクサの指輪

川崎葵
BL
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしてくれる?」 男も女も意識したことないぐらいの幼い頃の約束。 大きくなるにつれその約束を忘れ、俺たちは疎遠になった。 しかし、大人になり、ある時偶然再会を果たす。 止まっていた俺たちの時間が動き出した。

処理中です...