運命の見つけ方

花町 シュガー

文字の大きさ
上 下
30 / 84
黄薔薇の場合

2

しおりを挟む





「やっぱこれも失敗かぁー……」

非常階段の下、2人で座ってこそこそ話す。

「前髪って結構印象変わるはずなんだけどな、分け目とかいい感じに盛れるってサイトに書いてたのに……」

「でも今日のゆっこちゃんのほうが普段よりずっと可愛いから、続けてみたら?」

「いや、実はこれ簡単に見えてめちゃくちゃ時間かかんのよ、今日いつもより2時間早く起きてセットしててさ~。慣れたら簡単なのかもしれないけど、慣れるまでに挫折しそう…眠い」

「うぁぁそうなんだ……大変なんだね」

「そう!なのにあのクソ啓介ときたら……!」

ゆっこちゃんは、実はけーすけのことが既に好き。
なんとか振り向いて欲しくて毎日懸命に頑張ってる子。
だから、そりゃキラキラして見えるのは当たり前なんだよ。
だってけーすけのために頑張ってるんだから。

彼女が怒るたび服の中で揺れてるだろう黄薔薇の指輪も、きっと呆れ返ってるはず。


『あ、のね、伊月……実は私、薔薇でさ……っ』


初めて相談されたのは、2年の3学期が終わる前。
聞かされたルールは俺がオリエンテーションで聞いたものをより詳しくした内容で、そんな環境下で運命の人と薔薇は動いてるんだということを知った。

『伊月は全然関係ないしもしかしたらルール違反なのかもしれないんだけど、でも私他の薔薇の人たちと仲良くできる気しなくて……
1人で頑張ろうと思ったんだけど、次3年で後1年しかないと思うと怖くて……後で校長先生に呼ばれたらごめんね!』

『全然っ!寧ろこんなに近くにいたのに悩んでるの気づけなくてごめん……えっと、因みに色は黄色で合ってる?』

『…………合ってます……』

『そっかぁ…なるほど……』

校長先生が手を貸すのは、自力で自分の運命の相手を見つけるのが難しい人たち。だから、もしかしたら薔薇側も一悶着ある人が多いのかもしれない。
ゆっこちゃんはごくごく普通の子。絵に描いたような女子高生。だから、逆に仲良くなるのが難しいのかな……?

まぁ薔薇側のことはよくわからないけど、ゆっこちゃんが黄薔薇なら運命の相手はいつも3人でいるうちの1人、〝五十実 啓介 (イガラミ ケイスケ)〟だ。
あいつは醤油とか調味料もので有名な五十実フーズの次男坊。
俺たちからしたら想像もつかないくらいの家に住んでるのに、性格はどこにでもいるような人で。
俺たち3人は、1年の時にクラスが被って気づいたらいつも一緒にいるようになってた。
そんなけーすけの運命の相手が、まさかのゆっこちゃん。

『そりゃ、初めは〝こいつが私の運命の人かー〟って思いながら近づいたのはある……けど、普通に3人でいるのが楽しくなっちゃって。
あいつも自分の薔薇探してる感じしなかったから、このまま友だちでいっかなーと思ってたんだけど……』

次は3年、私は本当にこのまま卒業していいのだろうか。
今は同じ学園だから会えてるけど、こんな家柄の人とこうやって隣にいれることなんて、もう無いんじゃないか。
ーー私は、このまま彼を離しても…いいの……?

そう思った時、ゆっこちゃんの気持ちが〝友情〟から〝愛情〟に変わったらしい。

『一緒にいてすごく落ち着くんだっ。もちろん伊月ともそうなんだけど、なんかこう…安心するというか、あぁ寄り掛かってもいいんだなって思わせてくれるというか。
あいつ本当肝心なときに使い物なんないし元気あるだけの馬鹿なんだけど、そう思わせてくれる雰囲気とか無邪気な顔とか、そういうのがすごい好きなんだな私…って気づいて……
それで、その、よければ伊月に協力してもらいたいというか…ただ私の愚痴聞いてくれるだけでも物凄く有難いんだけど、啓介がなに考えてるかとか、もし聞けたら教えてほしい…です』

『わかった!俺も校長先生に注意されない範囲?で動いてみる。なんか分かったらLINEするから。
あと愚痴とか、今まで吐けなかった分全部聞いたげるから、また教えてね』

『っ、伊月…ありがと……っ』

『えぇ!? ちょ、泣かないでゆっこちゃん~』


そんな感じで、現在。
俺は校長先生からのお咎めもなく、3年になっても変わらず2人とクラスが同じで一緒にいることが多い。
周りも見慣れたように接してくれるし、普通になってしまってる。
……が、それにいま風穴を開けようと一生懸命なのです。

「まぁ、とりあえず伊月が可愛いって言ってくれるし暫く続けてみようかな。なんか変化あるかも。
これ維持しつつ他のことも頑張ってみる」

「じゃあ毎日早起きするってこと? 大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫、それくらいに努力しないとあいつ絶対気づかないって」

「っ、うん……そうかも…だけど……」

ゆっこちゃんがこんなにも頑張る理由はもうひとつ。
自分の家が一般家庭だからだ。
もし薔薇だと気づいてもらえたとき、負い目を感じさせないように。
生まれた家はどうにもできないから、せめて少しでも綺麗になろう。
そうやって、彼女はとても努力している。

(ねぇけーすけ、ゆっこちゃんすんごい可愛いよ)

ちょっとずつ気づき始めてるみたいだけどさ、お願いだから早くしなよ。

「よしっ、そろそろ教室もどろっか。またあいつがうるさくなってるだろうし」

「そうだね、けーすけ怒ってそう」

「あいつ仲間外れにされるの嫌いだもんね~」

「あははっ!」

〝身分差恋愛〟って今の時代じゃ珍しい?
それともけーすけの世界じゃ普通?
そんな運命に立ち向かうべく、俺とゆっこちゃんの作戦会議は今日も続いている。

けーすけのヘタレな性格と、互いの家柄の違いと。
あと今〝友情〟で結ばれているこの関係を〝愛情〟に変えること。

それが多分、黄色の薔薇に課せられた壁だ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!

toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」 「すいません……」 ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪ 一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。 作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

みどりとあおとあお

うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。 ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。 モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。 そんな碧の物語です。 短編。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

華麗に素敵な俺様最高!

モカ
BL
俺は天才だ。 これは驕りでも、自惚れでもなく、紛れも無い事実だ。決してナルシストなどではない! そんな俺に、成し遂げられないことなど、ないと思っていた。 ……けれど、 「好きだよ、史彦」 何で、よりよってあんたがそんなこと言うんだ…!

処理中です...