運命の見つけ方

花町 シュガー

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黄薔薇の場合

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「やっぱこれも失敗かぁー……」

非常階段の下、2人で座ってこそこそ話す。

「前髪って結構印象変わるはずなんだけどな、分け目とかいい感じに盛れるってサイトに書いてたのに……」

「でも今日のゆっこちゃんのほうが普段よりずっと可愛いから、続けてみたら?」

「いや、実はこれ簡単に見えてめちゃくちゃ時間かかんのよ、今日いつもより2時間早く起きてセットしててさ~。慣れたら簡単なのかもしれないけど、慣れるまでに挫折しそう…眠い」

「うぁぁそうなんだ……大変なんだね」

「そう!なのにあのクソ啓介ときたら……!」

ゆっこちゃんは、実はけーすけのことが既に好き。
なんとか振り向いて欲しくて毎日懸命に頑張ってる子。
だから、そりゃキラキラして見えるのは当たり前なんだよ。
だってけーすけのために頑張ってるんだから。

彼女が怒るたび服の中で揺れてるだろう黄薔薇の指輪も、きっと呆れ返ってるはず。


『あ、のね、伊月……実は私、薔薇でさ……っ』


初めて相談されたのは、2年の3学期が終わる前。
聞かされたルールは俺がオリエンテーションで聞いたものをより詳しくした内容で、そんな環境下で運命の人と薔薇は動いてるんだということを知った。

『伊月は全然関係ないしもしかしたらルール違反なのかもしれないんだけど、でも私他の薔薇の人たちと仲良くできる気しなくて……
1人で頑張ろうと思ったんだけど、次3年で後1年しかないと思うと怖くて……後で校長先生に呼ばれたらごめんね!』

『全然っ!寧ろこんなに近くにいたのに悩んでるの気づけなくてごめん……えっと、因みに色は黄色で合ってる?』

『…………合ってます……』

『そっかぁ…なるほど……』

校長先生が手を貸すのは、自力で自分の運命の相手を見つけるのが難しい人たち。だから、もしかしたら薔薇側も一悶着ある人が多いのかもしれない。
ゆっこちゃんはごくごく普通の子。絵に描いたような女子高生。だから、逆に仲良くなるのが難しいのかな……?

まぁ薔薇側のことはよくわからないけど、ゆっこちゃんが黄薔薇なら運命の相手はいつも3人でいるうちの1人、〝五十実 啓介 (イガラミ ケイスケ)〟だ。
あいつは醤油とか調味料もので有名な五十実フーズの次男坊。
俺たちからしたら想像もつかないくらいの家に住んでるのに、性格はどこにでもいるような人で。
俺たち3人は、1年の時にクラスが被って気づいたらいつも一緒にいるようになってた。
そんなけーすけの運命の相手が、まさかのゆっこちゃん。

『そりゃ、初めは〝こいつが私の運命の人かー〟って思いながら近づいたのはある……けど、普通に3人でいるのが楽しくなっちゃって。
あいつも自分の薔薇探してる感じしなかったから、このまま友だちでいっかなーと思ってたんだけど……』

次は3年、私は本当にこのまま卒業していいのだろうか。
今は同じ学園だから会えてるけど、こんな家柄の人とこうやって隣にいれることなんて、もう無いんじゃないか。
ーー私は、このまま彼を離しても…いいの……?

そう思った時、ゆっこちゃんの気持ちが〝友情〟から〝愛情〟に変わったらしい。

『一緒にいてすごく落ち着くんだっ。もちろん伊月ともそうなんだけど、なんかこう…安心するというか、あぁ寄り掛かってもいいんだなって思わせてくれるというか。
あいつ本当肝心なときに使い物なんないし元気あるだけの馬鹿なんだけど、そう思わせてくれる雰囲気とか無邪気な顔とか、そういうのがすごい好きなんだな私…って気づいて……
それで、その、よければ伊月に協力してもらいたいというか…ただ私の愚痴聞いてくれるだけでも物凄く有難いんだけど、啓介がなに考えてるかとか、もし聞けたら教えてほしい…です』

『わかった!俺も校長先生に注意されない範囲?で動いてみる。なんか分かったらLINEするから。
あと愚痴とか、今まで吐けなかった分全部聞いたげるから、また教えてね』

『っ、伊月…ありがと……っ』

『えぇ!? ちょ、泣かないでゆっこちゃん~』


そんな感じで、現在。
俺は校長先生からのお咎めもなく、3年になっても変わらず2人とクラスが同じで一緒にいることが多い。
周りも見慣れたように接してくれるし、普通になってしまってる。
……が、それにいま風穴を開けようと一生懸命なのです。

「まぁ、とりあえず伊月が可愛いって言ってくれるし暫く続けてみようかな。なんか変化あるかも。
これ維持しつつ他のことも頑張ってみる」

「じゃあ毎日早起きするってこと? 大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫、それくらいに努力しないとあいつ絶対気づかないって」

「っ、うん……そうかも…だけど……」

ゆっこちゃんがこんなにも頑張る理由はもうひとつ。
自分の家が一般家庭だからだ。
もし薔薇だと気づいてもらえたとき、負い目を感じさせないように。
生まれた家はどうにもできないから、せめて少しでも綺麗になろう。
そうやって、彼女はとても努力している。

(ねぇけーすけ、ゆっこちゃんすんごい可愛いよ)

ちょっとずつ気づき始めてるみたいだけどさ、お願いだから早くしなよ。

「よしっ、そろそろ教室もどろっか。またあいつがうるさくなってるだろうし」

「そうだね、けーすけ怒ってそう」

「あいつ仲間外れにされるの嫌いだもんね~」

「あははっ!」

〝身分差恋愛〟って今の時代じゃ珍しい?
それともけーすけの世界じゃ普通?
そんな運命に立ち向かうべく、俺とゆっこちゃんの作戦会議は今日も続いている。

けーすけのヘタレな性格と、互いの家柄の違いと。
あと今〝友情〟で結ばれているこの関係を〝愛情〟に変えること。

それが多分、黄色の薔薇に課せられた壁だ。




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