運命の見つけ方

花町 シュガー

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赤薔薇の場合

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キーン コーン カーン コーン……


「あぁーやっと授業終わった!昼だー!!」

「飯だ飯!学食行くぞ!」

「吉井どうする? お前も行く?」

「いや、今日はパスっ!
購買のパンにしよっかな、明日は学食にするから」

「りょーかい、んじゃまた後でな!」

「うん!」

学校が始まって、クラスにも無事馴染めた。
僕は推薦だったけど他の人たちはみんなちゃんと受験して入ってきてるぶん、授業のレベルがすごく高い。
中学の時サボらず勉強しといて良かった……でも、気を抜いたら置いてかれるから毎日必死だ。

(よし、焼きそばパン残ってた!)

他にもいくつか買って、パタパタ走りながら向かうのは屋上。
古びて鍵が壊れてることに最近気付いて、此処でこっそり過ごしてる。
過ごしてるのは、僕だけじゃなくて……


「朱香ー!こっちこっち!」


「朱香」


「2人ともお待たせっ!」


ぶんぶん元気に手を振ってる生徒と、静かだけどちゃんと話をしてくれる生徒。
2人は、なんと他の薔薇の子たちだった。


『ねぇ。君、薔薇だよね?』


『……ぇ』


放課後帰ろうとしたら、声をかけられた。
2人は僕とは別のクラスなんだけど、なんとなく僕が薔薇だと気付いたらしい。

運命の人と薔薇には、それぞれ自分の色の指輪とチェーンが渡される。
運命の人は堂々と指輪をはめて生活しているが、薔薇は見つかってはいけないため首から下げたチェーンに指輪を通している。
自分がそうであると相手に証明するためのものらしい。
無事運命の人と薔薇が結ばれたら校長先生に返す、そしてまた次の薔薇へと受け継がれていく仕組み。
2人から問われたとき、首から下げてる薔薇の指輪を見せてくれ、僕もすぐ2人に指輪を見せた。

それから一気に仲良くなって、今。

「雪(ユキ)、今日はどれがいい?」

「……これ。いくら?」

「120円です」

「はい」

雪は放っておくと全然食べないから、いつもこうやって僕が好きそうなのを買ってきてる。

「さてさて、じゃあ本日の密会するか!」

「そうだね」「ん」

週に2回の屋上での作戦会議…というか進捗確認?
なんの接点もないのに仲が良すぎると探してる人たちにバレるんじゃないかってことで、こうして誰も来ない場所でやってる。

「雪のとこどう? 白薔薇さんは何か動きあった?」

「……ない、かな?」

「嘘つけ話しかけられてたじゃんか。俺ちゃんと見たんだからな!」

「えっ、いついつ!?」

「一昨日の放課後!一緒に帰ろうとしてたら雪が呼ばれてさ、しれっと後追ったらまさかの」

「でも、別に薔薇の話じゃなかった」

「あ……と、そうなの?」

「うん。たまたま僕だったってだけ。
普通に話して終わった」

「そっかぁ…なんかむず痒いね」

雪の運命の人は、一つ上の学年。
次の生徒会入りは間違いないって言われてる人なんだけど、やっぱりなかなか接点がないのかな……?

「僕の話よりも、珊瑚(サンゴ)のが大事」

「あ、そうだよ珊瑚!あの偽物の桃薔薇どうするの!?」

「いや、んんー……」

珊瑚はれっきとした桃薔薇。
それなのに、最近自分のことを「桃薔薇だ!」という生徒が現れた。
この学園の生徒たちは薔薇と運命の人との関係は知ってるけど、詳しい中身のルールまでは知らない。

「自分から言っちゃいけないのに言ってる時点で薔薇じゃないけどさ、あれは流石に酷いよ」

「うん、酷い。おかげで桃薔薇の運命の人は、全然珊瑚にたどり着けてない」

「んー…けどさ、いやそうなんだけど……
なんか、別にいいかなぁって思ってんだよね俺」

「えぇ!? なんで」

「だってさ、俺全然可愛くねぇもん。
雪はすっげぇ美人じゃん。心も綺麗で純粋で、白薔薇って言葉がよく似合う。
朱香も運命の相手にずっと一途で本当応援してやりたくなる感じで…そこが可愛くて、なんか流石赤薔薇だなって思うんだよな。
それに比べて俺はこんなそばかす顔で、平凡でなんにもなくて、なのに桃薔薇だぜ? 名前負けだよまじで。
ましてや朱香や雪みたいに運命なんてまだ受け入れられてない……本当、自信ないんだ。
いま桃薔薇名乗ってる奴はすげぇ可愛いじゃん? 同じ男だけど女子みたいな顔してるしさ? なんかもう……俺なんかよりよっぽどしっくりくるっていうか」

あははと自嘲気味に笑う珊瑚は、諦め半分悲しさ半分の顔をしていて。

「珊瑚、珊瑚、違う」

「そうだよ。珊瑚は誰よりも周りをみてて、優しいよ」

始めに僕に気付いたのは雪だったらしいけど、声をかけてみようと言ってくれたのは珊瑚だったらしい。
いつも僕や雪を見守ってくれる珊瑚は本当に頼りになって、元気な声とか笑顔は誰より1番眩しいと思う。
だから、こんなにいい人なのだから……どうか諦めないでほしい。

今、桃薔薇の運命の人は偽物に気を取られて全然珊瑚を探そうとしてない。
僕らでさえその状況に胸がぎゅっとなるのに、珊瑚はどんな気持ちなんだろう?
陰でこっそり…泣いてるんじゃないかな……?

「……っ」

「あ、あーごめん!別にしんみりさせたかったわけじゃないから!ほら、校長先生も何も言ってねぇしさ、とりあえずは様子見でいいよ。だから、なっ?」

「……はぁぁ、分かったよ」

「……とりあえずは、珊瑚の話にのってあげる。
じゃ、最後は朱香」

「朱香が今1番大事じゃね? もうリーチかかってんじゃん!どうなのその後?」

「あ、ええっと、一条くんとはまだ告白まではいってないんだけど、どうなのかな……
なんとなく〝もしかして〟と思ってるかも?って瞬間はちらほら…」

「おぉぉ!!」

僕の運命の人……一条陽太くんは、同じ1年生でなんと同じクラス。
サッカーがすごく上手で、将来はプロ入りを果たすんじゃないかと言われてる。
テレビにもよく「天才少年現る!」とかって映ってたから、知ってる人もすごく多い。
でも、それもあるんだけど…実は……

「けど、まだ幼馴染感が強くて全然真面目な話にはならないかなぁ」

僕と一条くんは幼馴染。
小学校低学年まで一緒だった。
その後はサッカーの関係で遠いところに引っ越してしまって、この学園で再会した。

(正直、校長先生から一条くんの名前言われたときは本当に心臓跳ねたんだよね)

だって、一条くんは僕の初恋の人だったから。
だからこうして再会できただけでも嬉しいのに、まさか赤薔薇を探してるなんて……本当、奇跡だと思う。

「朱香は、男だから一条くんを好きになったの?」

「違うよ雪、僕全然性別とかは考えてなくて。
ただ、たまたま好きになった人が一条くんだったんだよね」

「へぇ、すごいなぁ……なんか流石幼馴染というか、わかり合ってる感あるわ」

「あはは…まぁ、他の薔薇たちと比べたら僕らの場合はずるいかもね。僕は前々から好きだったから」

薔薇は基本的に、校長先生から運命を言われ、学園生活で相手をよく観察していくうちに惹かれていくもの。
同じく、運命の人も探していくうちにだんだんと自分の薔薇へ惹かれていき、想いを告げるもの。
それが本来の仕組みだ。

「いいじゃんリードしてても!今のところまだ他の薔薇も誰も結ばれてねぇんだし、朱香が一番とっとけよ!」

「うん、いいと思う、別に」

「ありがと、そうなるといいけどねっ。
……ねぇ、他の薔薇には声かけてみる?」

「んー今のとこ無しかな。俺は雪と朱香だけ知ってればいいや」

「僕も、ここまででいいかな。後は向こうから来たらで」

「なんか気難しそうだしな」

「うーん…そうだね……」

なんとなく他の薔薇を何人か知ってる。
そして、向こうも多分僕らに気付いている。
けど、話しかけてこないということは多分そういうこと。

(まだわからない薔薇もいるけどね、青とか紅とか)

あと、黒もいるのかな?
校長先生は「僕がここに来たことにより15人になった」って言ってたよね。
それなら黒薔薇もいるよね。

(んんーでも今のところなにもないし、僕もいいかな)

「ってかそろそろ掃除の時間じゃん!早いとこ食って解散しようぜ」

「本当だ、話の続きはまた次だねっ!」

「その時にいい話きけたらいいなぁ~朱香~~?」

「うぅ…頑張るよ……」

「はははっ!嘘だって、まぁ程々にな」

「うん、程々が1番。まだ時間はあるよ」

「ありがとう珊瑚、雪」


〝程々が1番〟


わかってる、けれど


(……どうせ一緒に卒業まで過ごすなら、早く結ばれて幸せに過ごしたいなぁ…なんて)


ちょっと、情熱的すぎますか……?





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