6 / 84
赤薔薇の場合
2
しおりを挟むキーン コーン カーン コーン……
「あぁーやっと授業終わった!昼だー!!」
「飯だ飯!学食行くぞ!」
「吉井どうする? お前も行く?」
「いや、今日はパスっ!
購買のパンにしよっかな、明日は学食にするから」
「りょーかい、んじゃまた後でな!」
「うん!」
学校が始まって、クラスにも無事馴染めた。
僕は推薦だったけど他の人たちはみんなちゃんと受験して入ってきてるぶん、授業のレベルがすごく高い。
中学の時サボらず勉強しといて良かった……でも、気を抜いたら置いてかれるから毎日必死だ。
(よし、焼きそばパン残ってた!)
他にもいくつか買って、パタパタ走りながら向かうのは屋上。
古びて鍵が壊れてることに最近気付いて、此処でこっそり過ごしてる。
過ごしてるのは、僕だけじゃなくて……
「朱香ー!こっちこっち!」
「朱香」
「2人ともお待たせっ!」
ぶんぶん元気に手を振ってる生徒と、静かだけどちゃんと話をしてくれる生徒。
2人は、なんと他の薔薇の子たちだった。
『ねぇ。君、薔薇だよね?』
『……ぇ』
放課後帰ろうとしたら、声をかけられた。
2人は僕とは別のクラスなんだけど、なんとなく僕が薔薇だと気付いたらしい。
運命の人と薔薇には、それぞれ自分の色の指輪とチェーンが渡される。
運命の人は堂々と指輪をはめて生活しているが、薔薇は見つかってはいけないため首から下げたチェーンに指輪を通している。
自分がそうであると相手に証明するためのものらしい。
無事運命の人と薔薇が結ばれたら校長先生に返す、そしてまた次の薔薇へと受け継がれていく仕組み。
2人から問われたとき、首から下げてる薔薇の指輪を見せてくれ、僕もすぐ2人に指輪を見せた。
それから一気に仲良くなって、今。
「雪(ユキ)、今日はどれがいい?」
「……これ。いくら?」
「120円です」
「はい」
雪は放っておくと全然食べないから、いつもこうやって僕が好きそうなのを買ってきてる。
「さてさて、じゃあ本日の密会するか!」
「そうだね」「ん」
週に2回の屋上での作戦会議…というか進捗確認?
なんの接点もないのに仲が良すぎると探してる人たちにバレるんじゃないかってことで、こうして誰も来ない場所でやってる。
「雪のとこどう? 白薔薇さんは何か動きあった?」
「……ない、かな?」
「嘘つけ話しかけられてたじゃんか。俺ちゃんと見たんだからな!」
「えっ、いついつ!?」
「一昨日の放課後!一緒に帰ろうとしてたら雪が呼ばれてさ、しれっと後追ったらまさかの」
「でも、別に薔薇の話じゃなかった」
「あ……と、そうなの?」
「うん。たまたま僕だったってだけ。
普通に話して終わった」
「そっかぁ…なんかむず痒いね」
雪の運命の人は、一つ上の学年。
次の生徒会入りは間違いないって言われてる人なんだけど、やっぱりなかなか接点がないのかな……?
「僕の話よりも、珊瑚(サンゴ)のが大事」
「あ、そうだよ珊瑚!あの偽物の桃薔薇どうするの!?」
「いや、んんー……」
珊瑚はれっきとした桃薔薇。
それなのに、最近自分のことを「桃薔薇だ!」という生徒が現れた。
この学園の生徒たちは薔薇と運命の人との関係は知ってるけど、詳しい中身のルールまでは知らない。
「自分から言っちゃいけないのに言ってる時点で薔薇じゃないけどさ、あれは流石に酷いよ」
「うん、酷い。おかげで桃薔薇の運命の人は、全然珊瑚にたどり着けてない」
「んー…けどさ、いやそうなんだけど……
なんか、別にいいかなぁって思ってんだよね俺」
「えぇ!? なんで」
「だってさ、俺全然可愛くねぇもん。
雪はすっげぇ美人じゃん。心も綺麗で純粋で、白薔薇って言葉がよく似合う。
朱香も運命の相手にずっと一途で本当応援してやりたくなる感じで…そこが可愛くて、なんか流石赤薔薇だなって思うんだよな。
それに比べて俺はこんなそばかす顔で、平凡でなんにもなくて、なのに桃薔薇だぜ? 名前負けだよまじで。
ましてや朱香や雪みたいに運命なんてまだ受け入れられてない……本当、自信ないんだ。
いま桃薔薇名乗ってる奴はすげぇ可愛いじゃん? 同じ男だけど女子みたいな顔してるしさ? なんかもう……俺なんかよりよっぽどしっくりくるっていうか」
あははと自嘲気味に笑う珊瑚は、諦め半分悲しさ半分の顔をしていて。
「珊瑚、珊瑚、違う」
「そうだよ。珊瑚は誰よりも周りをみてて、優しいよ」
始めに僕に気付いたのは雪だったらしいけど、声をかけてみようと言ってくれたのは珊瑚だったらしい。
いつも僕や雪を見守ってくれる珊瑚は本当に頼りになって、元気な声とか笑顔は誰より1番眩しいと思う。
だから、こんなにいい人なのだから……どうか諦めないでほしい。
今、桃薔薇の運命の人は偽物に気を取られて全然珊瑚を探そうとしてない。
僕らでさえその状況に胸がぎゅっとなるのに、珊瑚はどんな気持ちなんだろう?
陰でこっそり…泣いてるんじゃないかな……?
「……っ」
「あ、あーごめん!別にしんみりさせたかったわけじゃないから!ほら、校長先生も何も言ってねぇしさ、とりあえずは様子見でいいよ。だから、なっ?」
「……はぁぁ、分かったよ」
「……とりあえずは、珊瑚の話にのってあげる。
じゃ、最後は朱香」
「朱香が今1番大事じゃね? もうリーチかかってんじゃん!どうなのその後?」
「あ、ええっと、一条くんとはまだ告白まではいってないんだけど、どうなのかな……
なんとなく〝もしかして〟と思ってるかも?って瞬間はちらほら…」
「おぉぉ!!」
僕の運命の人……一条陽太くんは、同じ1年生でなんと同じクラス。
サッカーがすごく上手で、将来はプロ入りを果たすんじゃないかと言われてる。
テレビにもよく「天才少年現る!」とかって映ってたから、知ってる人もすごく多い。
でも、それもあるんだけど…実は……
「けど、まだ幼馴染感が強くて全然真面目な話にはならないかなぁ」
僕と一条くんは幼馴染。
小学校低学年まで一緒だった。
その後はサッカーの関係で遠いところに引っ越してしまって、この学園で再会した。
(正直、校長先生から一条くんの名前言われたときは本当に心臓跳ねたんだよね)
だって、一条くんは僕の初恋の人だったから。
だからこうして再会できただけでも嬉しいのに、まさか赤薔薇を探してるなんて……本当、奇跡だと思う。
「朱香は、男だから一条くんを好きになったの?」
「違うよ雪、僕全然性別とかは考えてなくて。
ただ、たまたま好きになった人が一条くんだったんだよね」
「へぇ、すごいなぁ……なんか流石幼馴染というか、わかり合ってる感あるわ」
「あはは…まぁ、他の薔薇たちと比べたら僕らの場合はずるいかもね。僕は前々から好きだったから」
薔薇は基本的に、校長先生から運命を言われ、学園生活で相手をよく観察していくうちに惹かれていくもの。
同じく、運命の人も探していくうちにだんだんと自分の薔薇へ惹かれていき、想いを告げるもの。
それが本来の仕組みだ。
「いいじゃんリードしてても!今のところまだ他の薔薇も誰も結ばれてねぇんだし、朱香が一番とっとけよ!」
「うん、いいと思う、別に」
「ありがと、そうなるといいけどねっ。
……ねぇ、他の薔薇には声かけてみる?」
「んー今のとこ無しかな。俺は雪と朱香だけ知ってればいいや」
「僕も、ここまででいいかな。後は向こうから来たらで」
「なんか気難しそうだしな」
「うーん…そうだね……」
なんとなく他の薔薇を何人か知ってる。
そして、向こうも多分僕らに気付いている。
けど、話しかけてこないということは多分そういうこと。
(まだわからない薔薇もいるけどね、青とか紅とか)
あと、黒もいるのかな?
校長先生は「僕がここに来たことにより15人になった」って言ってたよね。
それなら黒薔薇もいるよね。
(んんーでも今のところなにもないし、僕もいいかな)
「ってかそろそろ掃除の時間じゃん!早いとこ食って解散しようぜ」
「本当だ、話の続きはまた次だねっ!」
「その時にいい話きけたらいいなぁ~朱香~~?」
「うぅ…頑張るよ……」
「はははっ!嘘だって、まぁ程々にな」
「うん、程々が1番。まだ時間はあるよ」
「ありがとう珊瑚、雪」
〝程々が1番〟
わかってる、けれど
(……どうせ一緒に卒業まで過ごすなら、早く結ばれて幸せに過ごしたいなぁ…なんて)
ちょっと、情熱的すぎますか……?
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪
副会長様は平凡を望む
慎
BL
全ての元凶は毬藻頭の彼の転入でした。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
『生徒会長を以前の姿に更生させてほしい』
…は?
「え、無理です」
丁重にお断りしたところ、理事長に泣きつかれました。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。

ボクに構わないで
睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。
あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。
でも、楽しかった。今までにないほどに…
あいつが来るまでは…
--------------------------------------------------------------------------------------
1個目と同じく非王道学園ものです。
初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
ここは弊社のゲームです~ただしBLゲーではないはずなのに!~
マツヲ。
BL
大人気乙女ゲーム『星華の刻』の世界が、腐女子に乗っ取られた?!
その世界を司る女神様におねがいされた原作のシナリオライター男子が、モブに転生して物語の改変に立ち向かう。
けれどいきなり隠し攻略キャラの腹黒殿下に気に入られ、気がつけば各攻略キャラともフラグが立つんですけども?!
……みたいな話が読みたくて、ちょっとだけ自分の趣味に正直に書いてみた。
*マークのついている話は、閲覧注意な肌色多め展開。
他サイトでも先行及び同時掲載しております。
11月開催の第9回BL小説大賞にエントリーしてみました。
病んでる僕は、
蒼紫
BL
『特に理由もなく、
この世界が嫌になった。
愛されたい
でも、縛られたくない
寂しいのも
めんどくさいのも
全部嫌なんだ。』
特に取り柄もなく、短気で、我儘で、それでいて臆病で繊細。
そんな少年が王道学園に転校してきた5月7日。
彼が転校してきて何もかもが、少しずつ変わっていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最初のみ三人称 その後は基本一人称です。
お知らせをお読みください。
エブリスタでも投稿してましたがこちらをメインで活動しようと思います。
(エブリスタには改訂前のものしか載せてません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる