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(………結局)


あんなに探し回ったのに、収穫は何ひとつなかった。


「有力な情報…だったんだがな……」

これまでの何よりも1番有力。
湖だって何周も歩いた。
村人にだって煙たがれるほど聞いた。
それなのに、どうして……?

(どこか行ってねぇとこ…あったっけ)

……いや、ない。
街の先は湖と小さな村だけだった。
それ以外に行く場所なんてどこにもない。
それなのに、あいつは…いなくて……

「っ、くそ」

意味がわからねぇ。
なぁおい、なんでなんだ? 教えてくれよ。

もう…近くには、いないのか……?


「お花いりませんかー? 綺麗なお花がありますよ!

あれ? 昨日のお兄さんだっ!」


「……よう」


朝早くに村を出て、また街へと戻ってきていた。
パタパタ元気に出迎えてくれた少女の頭を撫でる。

「なによ暗い顔して……
そうだ!今日は昨日の分もちゃんとお花買ってもらうんだからねっ!?」

「は? あれはお前がいいって」

「あなたが急いでたからでしょ!? 今は違うじゃない。ほら、買ってくれるわよね?」

「っ、分かった分かった買うから。
……なぁ。なんで昨日俺が急いでたか、覚えてるか?」

「? 行きたい場所があったのよね?」

「そう…だな、そう、行きたい場所があったんだ。
でも何でそこに行きたかったか覚えてるか?」

「えっ? それは……」

「お前が教えてくれただろ? ほら、俺と似た顔の奴がいたって。『弟でしょう?』って」



「弟……? そんな話したかしら?」




ーーあぁ…そう、か。




言ってることが違う。多分、新しい太陽が昇ったから。
ということは、やはり昨日この子が会った奴は神子で間違いない。
そして、そいつは俺と似た顔をした……きっと、俺が探し求めてる奴だったはず。


(ーーっ、くそ!)


もう少しだった。なのに………


「…ねぇちょっと大丈夫? まだ眠いの? まったく……
それにしても、昨日は売れなくて大変だったわ。どうしてあなたから買わなかったか後悔したくらい。
だから、今日はいっぱい買ってよねっ?」

「……昨日?」

「そうよ。せっかく綺麗に咲いてるのに……」


(ーー待て)


昨日会った時、この子は何と言っていた?


『あっちに向かって歩いて行ってたから、早く追いかけた方がいいわ?
どんな奴っていうのは、そうね…なんだか凄く不思議な雰囲気で……

ーーあ、〝綺麗だね〟ってお花を買ってくれたのよ!ほら、この花っ!』



「………っ、それ、だ」



「へ?」


この子が教えてくれた、そいつが買っていった花。

「こ、れ…この白い花、昨日売れただろ?」

「えぇそうね、買っていった人がいるわ」

「そいつ、顔覚えてないよな……?」

「顔は……あれっ? どんな人だったかしら…あんまり記憶が……
でも、一輪だけ買って胸のポッケに刺してくれたの!それは覚えてるっ!」


白い花を、一輪 胸にーー


「っ、ありがとう!その花全部売ってくれ!!」

ここで逃すなんて、絶対ごめんだ。
こっちはもう5年も追ってんだぞ? 舐めんじゃねぇ。

(絶対ぇ見つけ出してやる)

「釣りはいらない」と財布ごと渡して、包んでくれた白い花束をひったくるように抱え走り出した。





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