吉良先輩は笑わない

花町 シュガー

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「……ねぇ、さっちゃん。
俺たち何処に向かってるの?」

夏休み最終日の朝早く。
調べた先輩の家のベルをけたたましく鳴らし「先輩借りるんで!」と、出てきた義姉さんにベー!っと舌出しながら叫んで、先輩を掻っ攫ってきた。

「俺眠いんだけど。ってかなんで始発の電車に飛び乗ったの? これどこで降りるの? おーいさっちゃーん」

「着いたら分かりますからっ」

僕が喋る気が無いことに気づいたのか、はぁぁ…とため息を吐いて先輩は隣で目を閉じた。








「着きましたよ」

「っ、ここ……って………」

ザザ……ン、ザザ……と響く心地よい波音。
気持ちのいい潮風と、サラサラと舞う砂。
朝日を浴びた水面は、驚くほどキラリと光っていて綺麗で。

「ーー海……?」

「そう、海です」

あの日、先輩の両親を吸い込んで行った海。
その場所では無いけれど、でも海は繋がってるからきっとここも同じだろうと浜辺に連れてきた。

グイグイ腕を引っ張って波打ち際まで近寄る。

「ちょ、さっちゃんどうして」

「はい、先輩どーんっ!」

「ぇ、ぁ、ちょっ!」

後ろから勢いよく押して、先輩を海の中に倒した。
そのままバシャン!と自分も入っていく。

「ひぇっ、夏だけどやっぱり冷たいですね」

「……さっちゃん、何やってんの?」

「ふふ、驚きました?」

「いや驚いたけど、でもそうじゃなくて。どうしてここに俺を連れてきたの?」

「先輩を、笑わせる為です」

「…………は?
ちょっと無理。寧ろこの場所じゃ余計笑えないんだけど」

「そうですね。

だから、今日は先輩を泣かせにきました」


「ーーぇ?」




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