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しおりを挟む「……先輩…?」
口から手を外されて、そろりと先輩を見上げる。
「あーぁ、なんでさっちゃんの前でこんな事が起きるかなぁ。まぁ…いいや。そんな人生なのかな。
ーーあのね、さっちゃん。俺〝死神〟なんだ」
「死神?」
「そ。家族をね、殺しちゃってんの。幼い頃」
「ーーーーぇ?」
その日は、先輩の誕生日のため両親がプレゼントを買って来てくれる約束だった。
「2人とも忙しくて中々休みが取れないのに、その日は仕事を早く切り上げてくれて。で、俺が欲しがってたおもちゃを買って帰ってきてくれるはずだった」
売り切れてて遠くのデパートまでわざわざ買いに行ってくれて。
「近道して帰ろう!」って山をひとつ越える道を車で急いでた、そんな時。
「対向車が凄い勢いで突っ込んできたみたいでさ。何とか避けようとしたらしいんだけど、ガードレール突き破っちゃって。結局そのまま真下の海に」
今か今かと帰りを待っていた先輩の元へ来たのは、警察の方で。
お母さんが必死に抱きしめて守っていたプレゼントを、その濡れた手から受け取ったのだという。
「それから親戚のとこたらい回しにされて今のところに居るんだけど、叔父さんとか義姉さんがうるさくて……」
(義姉さんって、さっきの人……?)
「あの事故が起きてからかな、全く笑えなくなっちゃったんだよね俺。
なんで俺だけ生きてるんだろうって。俺の所為で両親は死んだのにって」
「っ、そんなこと!」
「さっちゃんにこうやって付き合ったのはね、俺のこと〝ひまわりみたい〟って言ってくれたからなんだ」
「ぇ……」
「母さんが海外の人でね、この髪は母さん譲りの地毛。
ひまわりが大好きな人だったんだ。それで、生まれた時この髪の俺をみて〝まるでひまわりみたいにキラキラしてる〟からって、向日葵から一文字取って〝葵〟なの」
だから、ちょっとだけ母さんたちのこと思い出しちゃっただけなんだよね。
気まぐれでごめんね。
「さて、もういいかな。
さっちゃん、ここでお別れね。夏休み最後まで付き合おうと思ってたけど、終わりかな。宿題ももう少しで終わりそうだしね。 いろんなとこ行けて楽しかったよ、本当」
何も言わない僕の頭を、初めて会った時のようにポンポン優しく叩いてくれて。
「じゃぁ、さよなら。さっちゃん」
ふわりと、その手は消えて行った。
「ただいま………」
「あら、幸生おかえり!今日は元気無いわねー」
パタパタといつもみたいに母さんが出迎えてくれた。
「夏休み中ずっと楽しそうにしてたのに、どうしたの?」
「…母さん、僕……」
去っていく先輩の事、追えなかった。
何て声をかけていいのか、分からなくて………
「ーー幸生。
あんた、後悔してるわね」
「ぇ?」
「顔に書いてあるわ。後悔してるって」
「っ、」
「はぁぁまったく……何に後悔してるのかは分からないけれど、そんな顔してるって事はそれはきっと、そのままにしてちゃ駄目な後悔ね」
「そのままに、してちゃ駄目……?」
「えぇ、そうよ。
そしてあんたは、自分がどうすべきなのかもう心の中で答えが出てる」
トンっと、心臓の上を軽く叩かれる。
(っ、そうだ……)
初めは、先輩を笑わせようと近づいただけだった。
でも先輩と過ごす日々は本当に楽しくて、居心地が良くて。
これまでの人生に比べたらほんの少しの時間だったけど、僕にとってはかけがえのない時間で。
(先輩は〝笑わない〟んじゃない。
ーー〝笑えない〟んだ)
そう、先輩は笑えない。
あんな過去を幼い体でひとりで抱え込んで、周りの嫌味にも必死に耐えてきて。
きっと、笑う事を忘れてしまってるんだ……
そんな先輩に、僕がしてあげられることはーー
「……ねぇ、母さん。お願いがあるんだけど」
「ん?いいよ、聞いてあげる」
「あのね、実はーー」
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