吉良先輩は笑わない

花町 シュガー

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「さっちゃん遅いよ、早くー」

「ま、待ってください先輩っ!」

夏休みが始まって、先輩から気まぐれなチャンスをもらった僕はとりあえず先輩を連れありったけ色んな所に行ってみた。
遊園地・映画館・水族館・バッティングセンター……
でも、そのどの場面でも先輩はニコリとも笑ってはくれなくて。

ジェットコースター真顔とかやばすぎ。バッティングセンターも真顔でホームラン出すし……
どうなってんの本当この人の神経、謎だってば……

「お笑い劇場、初めて来たけど楽しかったね」

「そうですね、旬な芸人さんも出てたし面白かったです!」

「うんうん面白かった。やっぱ話題になる人っていいネタ考えてるよね」

(感情が無いわけでは、ないんだよなぁ)

「楽しい」「面白い」そう言った感情はちゃんと持ってる。
でも、隣で話している吉良先輩はやっぱり無表情で。

ここも失敗、か。
うーん…行くとこ行き尽くしちゃったし、後は一体どうすれば……

「…ー? ……ーーん、さっちゃん?」

「っ、はい!」

「疲れちゃった? どっか座ろっか」

「いいえ全然!」

「そっか。
…なんかごめんね。さっちゃん色々考えてるのに、俺全然変わんなくて」

「いいえそんなっ!こっちが勝手に連れ回してるだけなんで、本当お構いなく……」

「本当に? 俺もさっちゃんと色んな所行くの凄い楽しいからさ、全然お構いなくね?」

「は、はい……」

「よし、じゃあどっかでご飯食べて帰ろー」と先輩が伸びをした。

(いい人、だなぁ)

なに考えてるかわからない無表情の先輩は、実際みんなと変わらないごくごく普通のただの男子高校生だった。
テレビとか絵本とかから出てきた不思議な雰囲気なんて、本当はこれっぽっちも無くて。

僕たちの方から、壁作っちゃってたのかな。

「今日も奢ってくれるんですか?」

「当たり前でしょ。いつも何処行くか考えてくれてるんだし、そのお礼」

「うぅぅ…もう」

僕が自分の罰ゲームの為に先輩を笑わせようと連れ回してるのに、それを〝お礼〟だなんて。

「先輩、いい人すぎてもしかして人間じゃなかったりとかします?」

「…さっちゃんってさ、やっぱりちょっと天然入ってるよね」

「え?」

「いやちょっとどころじゃなく大分。うんもう物凄く」

「ん、ん?」

「まぁいいや。 

それよりさ、夏休みの宿題進んでる?」


「ぅぐっ………」


「あぁやっぱり」

夏休み、初っ端からガンガン先輩と出かけてた宿題なんか全く手を付けてないわけで。

「うん、よし。明日から学校集合ね? 勉強会しようさっちゃん。
俺笑わせることも大事だろうけど、宿題終わらせとかないと先生も怖いよ? もう色んな所行ったんだしさ、後の場所は宿題終わってから。
分かった?」

「………はい」

正論すぎて、僕は素直に頷くしかなかった。




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