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しおりを挟む〝足長おじさん〟
ロンドンで出会った、僕だけの足長おじさん。
『ーーっ、ふふふ、』
凄くしっくりくるネーミング。
長身で優しい雰囲気のその人には、ピッタリの呼び名。
『それじゃぁ、僕はあなたにたくさんの手紙を書かなきゃですね』
『クスッ、そうだね。ついでに写真なんかも送ってくれると嬉しい。君がこれから見るいろんなものを、この老いぼれにも見せてくれないだろうか』
『勿論っ』
「あ、見つけた! おーい!!」
人混みの中僕を呼ぶ声に振り向くと、ブンブン手を振ってる友人。
『お迎えも来たようだね。さぁて、私は行くとするか』
『ぁ、あのっ』
『ん?』
『また…会えるでしょうか……』
シルクハットを落とさないよう手で支えながら、長身の体を見上げる。
『あぁ、会える。
なんたって私たちは運命なんだ。きっと会う予定なんか無くても、またこうして偶然会える日が来るさ』
『そう、か…そうですね。でも、次会うときは奥さんを紹介してほしいな』
『君さえ良ければ。その時君にも大切な人ができていたら、是非教えてくれ』
『はいっ』
僕の大事な運命の番が愛した人。
次は僕もちゃんと挨拶して、ずっと不安と戦っているその人に心から安心してもらいたい。
(僕も、運命の番以上に愛せる人を…見つけれるのかな)
生まれてここまで18年間、ずっとあなたのことしか考えてこなかった。
これから先、僕はどうやって生きていこうかーー
『周りを、よく見てごらん』
『へ?』
『幸せなんてものはね、実は案外近くに転がっていたりするんだ。だから先ずは自分の近くへ目を向けて、それから遠くを見るといい。
大丈夫、君は強い子だ。きっと見つけられるよ』
最後にゆっくり頬を撫でられ、『それじゃあね』とその人は人混みの中へ静かに消えていったーー
「やっと見つけた!お前どこ行ってたんだよ、ったく……はぐれると危ねぇっつっただろうが。
ん、今まで一緒にいた奴は?なんか話してなかったか?」
「あぁうんっ、そうなんだけどもう行っちゃって……」
「へぇ。ってかαだったのか、匂いがやべぇ…何もされなかったか?」
「ないよ!本当に大丈夫だから、その、」
「はぁぁ……良かった。まじで気をつけろ馬鹿」
汗ばんだ体でぎゅっと抱きしめてくれる友人。
幼い頃からいつも一緒で、βなのにαの先輩にも噛み付いていく凄く勇敢な人。
「お前が運命の番と出会うまでは守ってやるよ」って、そんなことを言ってくれた…ぶっきらぼうだけど優しい幼馴染で……
ーー嗚呼、そうか。
「……ふふふ、」
「どうした?」
「んーん、なにも」
(もしかしたら、)
もしかしたら、案外早く僕の大切な人は見つかるのかもしれない。
あの人も、近づいてくる幼馴染の匂いや雰囲気で分かったのかな? だから『近くから』なんて言葉かけてくれた?
わからない……けれど。
ポケットに手を入れると、さっき貰った名刺の感触。
それをキュッと握りしめて前を向く。
「ここに来て、良かった」
これまでの18年間とは確実に違う、これからの日常。
不安なことの方が多いけど…でも絶対に大丈夫。
ーー僕は、僕だけの幸せを 必ず見つけられる。
「……なんかお前変わった? つうか、その帽子なんだよ」
「あぁこれ? これはね」
大切に手入れされている、年季の入ったシルクハット。
これは……
「ーー〝ロンドンの足長おじさん〟に、貰ったんだ」
fin.
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