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社会人編
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しおりを挟む「あぁーめちゃくちゃ良かった……!!」
ライブが終わって、ぞろぞろと流れる人の列に身を任せる。
約2時間半ずっと立ちっぱなしで足が痛い。
けれど、それ以上に凄く心が満たされてなんだか不思議な気分。
(前もって聴いてた曲、結構歌ってくれたな……)
入場する時配られたLEDリストバンドも歌に合わせてひとつひとつ綺麗な色に光りだして、それを何万人が付けてるから本当に幻想的で。
でも、なによりーー
「あのCDの4番と13番、歌ってくれたな!」
一ノ瀬に買ってもらってからずっと聴いてたあの2曲が、偶然にも歌われた。
曲が始まった瞬間互いに顔を見合わせたし、なんだかじぃんときてつい泣いてしまって。
何万人もの客が入りきり暗くなったドームの中、ライブの始まりから終わりまでずっと一ノ瀬と手を繋いでいた。
今も、こうして人混みではぐれないよう繋いでいて。
(ずっと、こうしていれたらいいのに)
本当に、夢のような時間だった。
会場から離れ大分人も減り、自然と手が解かれる。
「唯純、大丈夫か? なんか元気ないけど疲れた?」
「…………」
(どう、しよう)
多分この後は適当に飯食って解散。
互いにヘトヘトだし汗もかいたし、早く風呂入って寝たいはず。
だけど、このまま帰りたくない。
まだ今日を終わらせたくない……一緒に、いたい。
「っ、あの」
「うん?」
暗い路地の隅。
立ち止まった俺の顔を、優しく覗き込んでくれる一ノ瀬。
思えば俺は、学生時代からずっと一ノ瀬に貰ってばかりだった。
登下校の時間も、購買のパンも、何気ない会話も、全部全部。
買ってもらったCDだって誘われた遊園地だって、一ノ瀬がくれたもの。
再開してからも、一ノ瀬が俺を追ってくれたからこうして今を一緒に過ごせてて。
今日のこの経験も、一ノ瀬が連れてきてくれたから知ることができた。
(あんなに我儘だったのに、俺、何ひとつこいつに出来てなかったんだ……)
おかしいな。
好きになるタイミングは一緒だったのに、こんなにも違いが出るなんて。
嫌だな。
俺ばっかりがもらって、一ノ瀬に返せていないのが。
ーーちゃんと、同じでいたいのに。
不意に、覗き込んでくれてる頬へ手を伸ばし、
驚いてるその唇を、ゆっくりと塞いだ。
「…………ぇ?」
離した瞬間呆然とした一ノ瀬の声が漏れて、思わず笑ってしまう。
そういえば俺たち、まだキスすらしてなかったな。
「爽。俺、疲れた」
「っ」
「もう足が棒みたいに動かないし、腕も振りすぎて痛い」
「ぇ……は?」
「だから、」
スルリと腕を絡め、至近距離から告げる。
「自分ん家まで帰れる気しないから、どっか泊まろう?」
「ーーっ!」
『お前のこと名前で呼ぶ代わりに俺のことも爽って呼んでいいから』と言われてたのに、結局全然呼んでなかった。
(俺だってあわよくば一ノ瀬を下の名前で呼びたいって、学生の頃から思ってたし……)
恥ずかしくて今更になってしまったけど。
でも、これからはちゃんと〝爽〟って呼びたい。
「……なぁ、それどういう意味か分かってる?」
「あぁ」
「俺もすげぇ疲れてるけどさ、正直我慢できないよ?」
「俺も、もう我慢できない」
「ーーっ、はは……そうか」
目を見開いた爽の顔が、クシャリと歪み出す。
我慢とか、もうしないで。
俺ももうお前だけでいいから。
ーーお前しか、欲しくないから。
俺たちの恋愛は普通とは違う。
だから、この先もいろんな障害があるんだろう。
けど、俺たちは離れても何年も互いを想ってきた。
そしてこれから先もずっと、想い合える自信がある。
なら、きっと最強だ。
(そうだろう? 爽)
ふわりと笑うと、目の前の顔も笑ってくれる。
「ラブホ? それとも普通のホテル?」
「ラブホ行ったことないな」
「そっか。じゃあそっちにするか」
絡めてた腕をグイッと引かれ、ゆっくりと歩き出した。
「今日ライブ来れてよかった。また来たい」
「お、まじか。なら次もチケット当てなきゃな」
「後は、もっといろんなところに行ってみたい」
「いいね。何処から行こうか」
こんな自分、想像がつかなかった。
もうずっと下を向いて生きてきたのに、前を向いて未来の話をしている。
(あぁ、大丈夫だ)
俺はひとりじゃない。
隣にこいつがいるなら、俺は俺のまま進んでいける。
ライブの余韻か、歌ってくれた思い出の4番と13番を口ずさむ爽に合わせ、俺も小さくメロディーをのせる。
これからも、ずっと。
この、隣にいる愛しい人と支え合いながら
自分らしく笑って、生きていきたいと 思う。
~fin~
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