純情天邪鬼と、恋

花町 シュガー

文字の大きさ
上 下
5 / 20
高校生編

5

しおりを挟む





「あっ」

「……なに」

放課後。
山田先生と話して下校時刻ギリギリに教室へ戻ると、一ノ瀬がまだ残っていた。

(さいっあく)

曲聴いてるのがバレた日から徹底的に一ノ瀬を避けまくっていて、最近はもうゲームどころじゃなくなってる。

上手い言い訳が思いつかなくて、問い詰められるのが嫌で、朝の登校も休み時間も放課後も全部時間をずらしたりシカトしたり……
逃げるのは嫌いだけど、こればっかりはどうしようもない。

(なのに、なんでこんな時間までいるの?)

まさか待ってた? 嘘でしょやめてよ。

すぐに帰りたいのに、置いてた鞄を一ノ瀬が持ってて動けない。


「あの、さ」


「…………っ」


緊張漂う夕暮れ時の教室で、ポツリと声が響く。



「杠葉って遊園地とか興味ある?」



「……はぁ? 遊園地?」



出てきた言葉は、予想の遥か上。

「いつもの奴らがチケットくれてさ、一緒にどうかなって」

「そいつらと?」

「いや、俺とふたりでなんだけど……俺他に行く奴いないし、杠葉さえよければ」

見せられたのは、有名なテーマパークのもの。

「くれた」っていうのは、もしかしてこの前のお詫び?
あの曲の件で僕たちが気まずくなってしまったから、気を利かせて的な?

そう言えば、タイムリミットの3ヶ月までもう少し。

だからここで一気に距離縮めさせてやろうって魂胆?


「日にちは、もし空いてたら来週の日曜とか」


(ーー嗚呼、なるほど)


その日は、ゲームラストの日だ。

最後の最後にテーマパーク周って、いい感じになったところで告白。
一ノ瀬にエスコートされて楽しんだ後に告げられたら、そりゃ完璧すぎて普通はころっといっちゃうだろうね。
まぁでも、今回は僕だったってのが運の尽き?

(…けど、テーマパーク……)


一ノ瀬と、ふたりでーー




「……いいよ、行ってやる」




「っ、まじ!?」


「同じこと何度も言わないし。さっさとチケット頂戴」


驚いてる手から奪うように1枚取り、教室を出ていく。

「ぁ、待てよ鞄!」

「そのまま持ってくれるんでしょ? 何してんの? 帰るよ」

「ーーっ、おう!」


(腹立つ)

ねぇ、なんなの本当。
あんなに気まずいと思ってたのに、もう過ぎた事のようにそれには触れず話してきて、また一気に元の距離感に戻して。
まるで僕ばっかがぐるぐるしてたみたいじゃん、最悪。
どうやったらそんな能天気な頭になれるわけ? こんな僕にもいっつもいっつも楽しそうに話しかけてきてさ?

いっつも いっつもーー


「……っ」


後少しで、この日々も終わる。

(あぁ、やっと清々する)

しかもテーマパークで盛大に振れるとか最高でしょ。
僕をターゲットにした奴らにも仕返しできるし、百選連勝の一ノ瀬が最後にどんな顔するのかも見ものだし。
もはや一石何鳥ってレベル? 凄いよ相当ツイてる。

……だから


(胸が痛いなんて、絶対に嘘だっ)


ちょっと、しっかりしてよ僕。
なんでこんな泣きそうになってるの?

来週の日曜が楽しみなんて、嘘だ。
あいつらがお膳立てしたから仕方なくなんだろうけど、でも誘ってくれて嬉しいなんて嘘だ。
最後に思い出が欲しいなんて…この3ヶ月がもっともっと続けばいいのになんて……


ーーそんなものは、全部 嘘だ。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きの距離感

杏西モジコ
BL
片想いの相手で仲の良いサークルの先輩が、暑い季節になった途端余所余所しくなって拗ねる後輩の話。

記憶の代償

槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」 ーダウト。 彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。 そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。 だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。 昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。 いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。 こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です

雲のわすれもの

星羽なま
BL
※更新頻度ゆっくりです。 表紙イラストは【水華ろに】様に制作いただきました。 "爽やかファンタジーBL" 《あらすじ》  高校三年生の佐々木雫玖(ささきしずく)は、雲を眺めることが好きであった。学校が終われば毎日のように防潮堤に行って座っては、空を見上げて雲を眺める。  学校へ行き、雲を眺め、夕方になれば家へと帰る。  家にも学校にも、話せる人などはいなく、無機質のような生活を送っていた。  卒業すれば就職をする雫玖は、夏休み中に企業見学へ行く為新幹線に乗っていた。そこでもただひたすらに窓から雲を眺めると、ふたつの雲に釘付けになった。それは毎日見ているような雲よりも、遥かに魅力的なものであった。  その出来事を機に、雫玖の無機質だった日常は大きく変わることになる──

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

恋のびっくり箱は、オフィスで開かれる

雫川サラ
BL
俺の初恋。あれがそうだったんだなと思ったのは、結構後になってからだった。 まだ物心もつかないほど幼い頃、憧れていた、お兄さん。もう、顔も名前も、よく思い出せない。 それでもお兄さんと過ごした時間は確かに、淡くてキラキラと輝く、宝物のような思い出としてずっと俺の心の中に仕舞われたままのはずだった。 だが社会人になった俺に、予想もしない出来事が訪れて……? 淡い初恋をテーマにした、爽やかなきゅんラブショートショートです。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭

処理中です...