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しおりを挟む「いや、奇跡だ……」
呆然と言葉を漏らす主治医。
あのとき、どうしてあの花の種を飲み込んだのかはわからない。
けれど、もうやけくそで……悔しくて悔しくて思わずやってしまったんだと思う。
種を飲んで以降、喉から宝石が落ちることはなくなった。
それどころか、瓶いっぱいに詰まった宝石たちは知らぬ間に何処かへ消え、代わりに言葉が戻ってきたのだ。
「退院はしても大丈夫だな。でも定期的に通ってもらうから、そのつもりで」
「わかりました」
診察が終わって、待っててくれていた正文さんの元へ駆け寄る。
結局、離れてた月日があったのにも関わらず正文さんも僕のことを忘れられなかったらしい。
「ねぇ詩音。高校卒業じゃなくてさ、もう今から一緒に住もう?」
我慢ができないと抱きしめてきた体温に、クスクス笑って見上げる。
「それ、僕からもお願いしようかと思ってました」
あのとき
あの綺麗な花と目があって買ったとき、店主のお婆さんに言われた言葉。
『〝愛〟さえあれば、きっと棘は抜けるもんさ』
きっと僕に刺さった棘は、正文さんの途切れぬ愛が抜いてくれたんじゃないかって
そんなことを思いながら
「詩音、愛してるよ」
「僕も、正文さんを愛してます」
優しく微笑んで、口付けを交わしあったーー
彼は、優しくて、暖かくて、大好きで
ーー世界で一番大切な……僕の〝恋人〟。
(どんなに素晴らしい薬でも、)
(あなたとの思い出には、敵わない)
fin.
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