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しおりを挟むもぬけの殻。
僕が僕でいる理由も元気もなくなって、なんとなく日々をこなすのみ。
イベントにも全然手をつけてないから、学園がまた静かになってしまった。
攻略対象たちも、追ってはくるけどそれだけで。
(僕、なにしたいんだろう)
目標がなくなって、心にぽっかり穴が空いて。
これからどうすればいいんだろうか……
攻略とかせず普通に過ごしていっても大丈夫なのかな?
学園を卒業して、そのまま就職とかもいい?
もう、別に特別なことはしなくてもーー
「ライト」
「ぁ……アレック」
朝の通学路。
校門前で、アレックが待ち構えていた。
「あれから会えてなかったけど、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
「ーー本当に?」
覗き込まれるよう屈まれ、視界いっぱいに整った顔。
あれ? これイベント?
(……そうだ)
エンディング一歩手前のやつ。
主人公を心配し、顔色が悪いのを気にして「やっぱり帰ろう」と言うもの。
そして攻略対象の家にあがり込み、上書きという名のR18が始まるんだ。
その後告白されて、エンディング。
そっか、もうここまで進んでたんだ。
ボーナスって怖いな、まだ3分の1はあると思ったのに。
(どう、しよう……)
ここで素直に着いていけば、アレックルートまっしぐら。
R18は、確かゆっくり大切に抱かれるんだ。
怖い目に遭った主人公が、トラウマにならないように。
このゲームの攻略対象者は、一癖あるけど基本みんな優しい。
主人公を大事にしてくれ、幸せにしてくれる。
アレックだってそうだ。いつも主人公のことを想ってくれて、今だって心配してくれている。
……もう、いいんじゃないか?
(僕、アレックに抱かれても…いい、かな)
それはきっと怖くない。あたたかいものになる。
なら、「やっぱり帰ろう」と支えるよう回された腕に連れられていっても、いいかな。
僕のこの物語は、アレックと結ばれてもーー
(……あ、れ?)
視界の 隅。
アレックの後ろ。登校する生徒たちの中に、灰色の頭。
このシーンの背景に、先輩…いたっけ……?
(ちょっと待て)
思い出せ。
姉の隣で見てた画面を。
ボーナスが発生したときの、アレックルートの最終イベント。
ここのゲーム画面の背景には、確かーー
「ーーーーっ!」
先輩は、いなかった はず。
「アレック!」
腰にある手をガバリと解きながら、叫ぶ。
いや、絶対いなかった。
灰色髪のモブがいる背景は全部覚えている。僕の先輩レーダーを舐めないでほしい。
このシーンには確実にいない。
何かが、何かが変わっている。
こんなこと、今までなかったのに。
何かがーー
「うん、行ってきなよ」
「………ぇ」
(まだ、何も言ってないのに)
呆然と見上げた顔は、キラキラ眩しそうに僕を見つめていた。
「行ってこいライト。後で、ちゃんと教えろよ」
「ーーっ!うん、ありがとう!」
一体、この人物はいつから僕が他の誰かを追ってたことに気づいたんだろう。
いや、あそこまで露骨にイベントに巻き込めばそりゃ分かるか。
でも、まさかこんなことを言われるなんて……
(そっか。攻略対象者たちは、ちゃんと生きてるんだ)
確かにこれはゲームの世界なのかもしれない。けど、それでもみんなちゃんと息してる。
自分の意思や想いがあって、この現実を生き抜いていて。
ーーそこにはきっと、モブやメインキャラクターといった区別は 何もなくて。
みんな等しく、ただの人間であって。
(僕はいったい、今までこの世界の何を見ていたんだろうか)
この日初めて、僕は攻略対象としてではなく〝アレック〟という1人の人として
彼を、見つめ返すことができた。
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