上 下
9 / 11

9

しおりを挟む


【side 伊都】


(ばちが、当たってしまったのだ)

燃え盛る炎を一人ぼぉっと見つめる。

きっと私が欲深いが故に、仏様がお叱りになったのだろう。


『竹田様!?』

『梔子…お前は私の物だ!それなのに、お前はあの男と……!私ではあのお方には敵わん!だが、お前を渡したくはない…

だから梔子……此処で、共に…』

『っ、竹田様!』

それからあっという間に、竹田様の持っていた火が見世全体に燃え移った。
撫子たちは何とか逃げられ、入ってきた役人に取り押さえられた竹田様も外へと連れ出された。

だが、火元になった私の部屋は…もうどうにも助からないようで。


(楽しき、人生だった)


この先竹田様に買われ一生を全うするかと思っていた。
だが、最後の最後に和孝をこうしてまた巡り会えて…誠に幸せだった。

(私が死んだら、誰か和孝の腕にあるあの腕飾りの糸を…切ってはくれぬだろうか)

いつまでも私に縛られることなく、心から愛する女と…今生を共にしてほしい。


……嗚呼、でも。


(最後に、名前を…呼びたかった)


「和孝」と

偽名ではなく、その目を…その顔をしかと見て、お呼びしたかった。


そして、そうして願わくば……


(〝伊都〟と…呼んで、ほ、しかっ………)


立ち込める煙で視界がぼやけ、頭に霞がかかってくる。


そうして、「嗚呼最期なのだ」と目を閉じる耳に微かに響いたような…その物音は



何故か……和孝の声が〝伊都〟と呼んでいるように

聞こえたのですーー





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世の記憶がありまして。

花町 シュガー
BL
『ただ、真っ直ぐに貴方のことを愛してる。 それだけ……知っててほしいだけ。』 人魚姫だったことを覚えている子と、王子様だったことを覚えていない医者の話。 優しい大人 × 一途子ども 〈篠塚先生(シルウィズ) × 凛(リーシア)〉 ------------------------------------------- ※「それは、キラキラ光る宝箱」とは? 花町が書いた短編をまとめるタグです。 よろしければお手すきの際に覗いてみてください。

繋ぐ

花町 シュガー
BL
『どうか、君の未来を守らせて。』 俺はここ最近、不思議なおっさんにストーカーされている。 まったく意味がわからないけど、なにか理由がありそうで…… ---------------------------------------------------- ※「それは、キラキラ光る宝箱」とは? 花町が書いた短編をまとめるハッシュタグです。 お手すきの際に覗いていただけますと幸いです。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

ネモフィラの花冠

花町 シュガー
BL
『わたしは、あなたを許します』 一途 × 一途健気 〈明 × 唐草 瑠璃〉 ネモフィラの花言葉=可憐・あなたを許す 表紙に使わせていただいている【うむぎさん(@xxxxksm)】の綺麗なネモフィラのお写真から話を膨らませました。 ----------------------------------------------- ※「それは、キラキラ光る宝箱」とは? 花町が書いた短編をまとめるハッシュタグです。 お手すきの際に覗いていただけますと幸いです。

Merry Christmas.

花町 シュガー
BL
Christmas短編、第一弾 幼馴染同士の初心な恋の話。 イケメン不器用 × 平凡一途 〈リッキー(力也) × ショウ(翔太)〉 【Christmas短編集】 *2017年: Merry Christmas. *2018年: Christmas Present. *2019年: Mr. Santa Claus. *2020年: Christmas Carol. *2021年: Holy Night. *2022年: White Christmas. ※毎年クリスマスに短編をひとつ書いています。 いつも読んでくださる皆さんのプレゼントとなれば幸いです。 ※「それは、キラキラ光る宝箱」とは? 花町が書いた短編をまとめるタグです。 よろしければお手すきの際に覗いてみてください。

ロンドンの足長おじさん

花町 シュガー
BL
『これが僕らの〝出会い〟、僕らの運命。 ーーでも、こんな形があってもいいと思うんだ。』 シルクハットの似合う長身のおじさんが、僕の運命の番でした。 運命の番との出会いを断る大人の、長い長い言い訳の物語。 〈おじさん × 高校生〉オメガバース この作品は、Blove様主催【第一回短編小説コンテスト】にてグランプリをいただきました。 ------------------------------------------------- ※「それは、キラキラ光る宝箱」とは? 花町が書いた短編をまとめるハッシュタグです。 お手すきの際に覗いていただけますと幸いです。

ひとりぼっちの180日

あこ
BL
付き合いだしたのは高校の時。 何かと不便な場所にあった、全寮制男子高校時代だ。 篠原茜は、その学園の想像を遥かに超えた風習に驚いたものの、順調な滑り出しで学園生活を始めた。 二年目からは学園生活を楽しみ始め、その矢先、田村ツトムから猛アピールを受け始める。 いつの間にか絆されて、二年次夏休みを前に二人は付き合い始めた。 ▷ よくある?王道全寮制男子校を卒業したキャラクターばっかり。 ▷ 綺麗系な受けは学園時代保健室の天使なんて言われてた。 ▷ 攻めはスポーツマン。 ▶︎ タグがネタバレ状態かもしれません。 ▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

その、魔法の味は

花町 シュガー
BL
『僕の身体は、あなたが作る〝魔法〟で出来ている』 優しい大人 × 健気学生 〈堤 輝 × 栗山 柚紀〉 α一族の元に生まれたΩと、とあるケーキ屋さんの話。 --------------------------------------------- ※「それは、キラキラ光る宝箱」とは? 花町が書いた短編をまとめるハッシュタグです。 お手すきの際に覗いていただけますと幸いです。

処理中です...