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(…………ぇ?)

ふわふわする体を、力強い何かに抱きしめられる感覚がする。

「リーシア!っ、凛!消えるな!! 

今生では、必ず消えさせはせん!」


(………な、に? だ、れ… ーーんんっ)


唇を、何かに塞がれるような感覚。
どんどん どんどん深くなっていくそれに、どうしようもなく苦しくなってくる。

力の入らない手をなんとか動かしトントン何かを叩くと、少し緩む唇。
でも、今度はヌルリと熱いものが口の中に入ってきた。

なに、これ……?
忙しなく口内を掻き回され、思考がトロリとなってしまう。

やがて、満足したのか最後に強く唇に吸い付いて離れていった。

「ぁ、は……っ、はぁ…はぁ……ぁ………」

「リーシア」



「………シル…ウィズ……さま…?」



「っ、あぁ、リーシア!」



ガバリと強く抱きしめられる。

「良かった…間に合った……っ」

「…な、んで………」

ふわふわした頭でも、抱きしめられてる感触でこれが現実なんだと知る。


「リーシア。

お前は、前の世界で自分が泡になった後何があったかを知っているか?」


「……ぇ?」


そんなもの、知らない。
ただ視界が真っ白になってそのままだった。
人魚姫の絵本でも、泡になったところで終わる。

「あの後、お前の泡はお前と関わりがある者たちひとりひとりの元へ飛んで行ったんだ」

「もと、へ…とん、で……?」

シルウィズ様も、朝目覚めたら目の前に大きな大きな泡が浮いていたらしい。
それは驚く前にパチンと弾け、そこから僕の記憶がどんどん溢れ出てきたという。

「お前の想いや記憶を知った。あの日俺を海から救ってくれたのはお前だったということも、全て」


そして、その儚く消えていったその魂に……触れて



ーー俺は、初めて〝愛おしい〟という言葉の意味を知った。

 

「っ、そ、な…でも、おうひさま、は……」

「彼女はいい人だったが、残念ながら俺にはもうお前以外は無理だった。結局結婚はしていない。

俺はお前一筋の独身で、一生涯を終えたぞ」

(う、そ……)

「婚儀を中止してから俺は魔法使いの所へ行き、次の時代では必ずリーシアと共に在れることを願った。
それなのに、こんなに気づくのが遅れてしまったな……本当にすまない」

「っ、そう、きおくは…どうして、思い出して……」

「目が、覚めたんだ」


深い眠りの中、唇に小さくキスをされたのを感じた。
それは下手すれば気付かないほどの、まるで羽が触れるかのように繊細なもので。
同時にポタリと雫が落ちた感覚で、あぁ誰かが泣いているのだと思った。
眠りに抗い目を開けると、既にその人物はいなくて。

(………なんだ?)

不思議な感覚。
起き上がると、ベッドのカーテンが開いていた。
外を覗くと、床に鈍色の短剣が落ちていて。

『ーーっ!?』

考えるより先に体が動き、その剣に触れた……

その、瞬間だった。


「これまでの記憶が、全て戻ってきたんだ。
それからは、もう全力でお前を探した。病室へ行ってもベッドはもぬけの殻だし、本当に…全力で……」

ぎゅぅっと僕を抱きしめる大きな体は、微かに震えていて。


「間に合って、本当に良かっ……!」


「っ、~~~~っ、せん、せ!」


ガバッとその首に、自分の腕を回した。

(消えなくて、良かったっ)

ちゃんと感覚がある。
現実に、ちゃんと僕はいる。

こうして今、貴方を…抱きしめていられてる。

「幼い頃から、どうしても海が好きだった。気がついたら海へ行って、ひたすら写真を撮っていた。今なら分かる。あれは、お前を見つける為だったんだ。

俺の魂には、どんなに忘れていてもお前が刻まれている。俺には、お前だけなんだ、凛」

「ーーっ、ぅ、うぇぇ…っ、せんせ!」

「っ、そうだ凛。お前、声が……」

「へ? っあ、ほんとだ、僕…ちゃんと出て……」

「~~っ、凛!」

「わぁっ!!」

ガバッともう一回強く抱きしめられる。


ただただ……こんな奇跡が嬉しくて 嬉しくて。


綺麗な朝日が昇る中

ずっとずっと、2人で抱きしめて合っていた。




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