ハルとアキ

花町 シュガー

文字の大きさ
上 下
530 / 536
番外編 2

4

しおりを挟む




たどり着いたのはトイレ。
1番奥の個室に入り、素早く鍵をかける。

月森先輩には歩きながらトイレに向かうことをメールした。
個室に籠ってるし安心してくれるはず。

「はぁ……」

便器の蓋に座り、もらったグラスを床に置く。
投げ捨てたいけど証拠になる。取っとかないと。

手の中のスマホを触り、頭をフル回転させながら電話を架ける。
この時間、あの男はーー


Prrrr……

『もしもしハルちゃん? どうしたの?』


「今すぐ来て」


ワンコールですぐ出た声。
仕事中だけどオペ中とかじゃない。
病院には申し訳ないけどあれは僕のだ。ヨーダイ先生も僕にそうしてほしいと思ってるし、だから悪いけど僕を優先してもらう。

「飲み物に何か盛られた。飲んでないけど口付けた」

『体は?』

「今は何もない、これからかも」

『何処にいるの?』

「会場と同じ階のトイレ、1番奥の個室」

『わかった』

「警察には」

『もう架けてる、このまま話してもいい?』

「うん」

プライベートの携帯は通話のまま、そうじゃないほうの携帯で話す声が聞こえる。


(……ぁ、なんか、)


少し体が熱い、かも。
幼い頃から薬漬けだったのもあって、人より素直に薬が効くのは分かってた。
にしても、たった少し口付けただけでこれは早すぎる。
媚薬の類いだったか、それも即効性の。それをアキに飲ませようなんて、何がやりたいか明確だ。
腹が立つ。キズものにしてレイヤから離そうってか。

(大体 分かりやすすぎるんだよ)

同じ色のハンカチとかさ、仲間の顔くらい覚えとけ。
大勢で来るのも頭悪そうな感じ。会場内と外との連携も取れてないしさ。

多分、僕らがパーティー慣れしてないので足元見られたんだ。
あと月森が高校生っていうのも。
いくらあの有名な月森だからって、まだ高校生じゃないかと。いけるだろうと。

(はっ、馬鹿じゃないのか)

本来1人にしか付くことを許されない月森が、2人に付けてる意味を考えろ。

ーー僕らの月森を 舐めるなよ。


『終わった、すぐ向かうって』


「…ん。今のうちに奴らの特徴伝える、」

『なんか症状出てきた?』

「少し熱い、多分熱ある」

『わかった、僕ももう着くから』

もう? 病院ちょっと離れてたはずなんだけどな。
警察より早いってどういこと。

(……嬉しいとか、馬鹿か)

早く 来てほしい。
椅子に座ってたはずの僕がいなくなったから、多分外の奴らが慌ててる。
此処を見つける前に、早く。

少し上がった体の温度に深呼吸して耐えながら、
スマホから聞こえる恋人の声に応えるよう口を動かした。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

同室のイケメンに毎晩オカズにされる件

おみなしづき
BL
 オカズといえば、美味しいご飯のお供でしょ?  それなのに、なんで俺がオカズにされてんだ⁉︎  毎晩って……いやいや、問題はそこじゃない。  段々と調子に乗ってくるあいつをどうにかしたいんです! ※がっつりR18です。予告はありません。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

運命と運命の人【完結】

なこ
BL
ユアンには10歳のときに結ばれた婚約者がいる。政略でも婚約者とは互いに心を通わせ、3日後には婚姻の儀を控えていた。 しかし運命と出会ってしまった婚約者はそれに抗うこともできず、呆然とするユアンを前にその相手と番ってしまう。 傷ついたユアン、運命の番たち、その周りにいる人々の苦悩や再生の物語。 『孕み子』という設定のもとに書かれております。孕み子と呼ばれる男の子たちは、子どもを産むことができる、という、それぐらいの、ゆる~い設定です。 3章ぐらいまでは、文字数が少ないので、さくさく読めるかと思います。 R18シーンありますが、下手くそです。 長い話しになりそうなので、気長にお付き合いいただける方にお楽しみ頂ければと思います(◞‿◟) *R18の回にRつけました。気になる方はお避け下さい。そんなに激しいものではありませんが…

処理中です...