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番外編 1
4
しおりを挟む待って、待って待って。
(ぅわ、待って)
約2時間半。
がっつりアクションの洋画。
予想以上に大きな音と暗がりの中パァっと明るく光るスクリーンと、大画面での迫力あるストーリーと。
凄く面白くて、つい我を忘れてのめり込んで観ていた。
けど……
(なんか…気持ち悪い、かも)
初めは全然だった。
なのに、終わりに近づくへつれ激しくなるアクションや人物を追うためコロコロ動くカメラのせいか、どうしようもなく気分が悪くなってきてしまって。
(やば……)
両横の壁から響く大きな音。
アクションさながらガンガン揺れる画面。
それに逆らって流れる字幕を時折追ってると、もう目が回ってき始める。
「……っ」
お昼に食べたお好み焼きが口から飛び出てきそうで、一生懸命唾を飲み込んだ。
正直、もう映画どころじゃない。
ここから出てトイレに駆け込みたい。
でも暗いし、途中で立ったら観てる人やレイヤに迷惑がかかる。
でも…でも……
チラリと画面を見るともう直ぐ終わりそうな雰囲気。
だが、エンドロールまで我慢してこの後の時間が台無しになるのは嫌だ。
「~~っ、……レイ、ヤ」
申し訳ない。
折角取ってくれたチケットも無駄にしてしまう。
でも、ラストまでいたら俺多分……やばそう。
小声で呼んで服の裾を掴むと、その手を大きな手が包んでくれスクリーンに向けられた目がこちらを向いた。
ポソッ
「ぁ…の、ちょっと、トイレ……行き、た」
「っ、立てるか?」
この暗がりの中一瞬で状況がわかったのか、直ぐに荷物を持って腕を引っ張ってくれる。
そのまま、片手で口元を抑えながら静かに映画館を出た。
「はぁー……」
せり上がってきたものを素直に吐いて、個室に座り少し体を休める。
落ち着いた…良かった。
やっぱ変な抵抗するより体に正直になった方が早く楽になるなぁ。
ハルにもよく言われるけど、やっぱ体の声はちゃんと聞いてあげるべきだ。
ぎゅっと目をつぶってパッと開ける。
(ん、もう大丈夫!)
さっきみたいな気持ち悪さは無くなった。
これなら、これからの時間も楽しめそう。
吐くのが分かってたから、トイレまで付いて来ようとするレイヤを全力で止めた。
せっかくのデートなのにこんな姿見せるのは、流石に嫌すぎる……
「早く戻ろっ」
多分入り口で待ってる。
時間も限られてるし、さっさと戻ってまたモール内を歩きたい。
軽く口を濯いでから手を洗って、タオルを取り出してーー
「あれ!? なんだきみ男だったの?」
「……え?」
隣を見ると、俺より年上の3人組。
「ほらーだから俺言ったじゃんか、あれぜってー男だって」
「まじかよこんな可愛い子いんの? やばくね?? ぱっと見女の子なんだけど」
「やっぱちょっとすれ違ったくらいじゃわかんねぇな」
(ぇ、え?)
ニヤニヤしながら見てくる目の前の人たち。
なんとなく、直感で後ろに下がる。
「いや入り口に男の方いたからワンチャンと思ったけど、まじでいたわ。ラッキー!」
「ねぇねぇきみ高校生? あれ彼氏なの??」
「美男美女…いや美男美男的な?
まぁいいや、ちょっと俺たちと遊ぼうぜ?」
「へ……」
「やばい」と思った時には、もう背中にトンッと壁の感触がしていた。
「そんな怖がんないでいいからさ、な?」
「いや、俺たちこんな可愛い子見るの初めてでさー、ちょっと本当に男か確かめさせてよ」
「大丈夫大丈夫直ぐ終わるから。俺ら優しいよ?」
「や、っ!」
両手が伸びてきて、両肩が壁へ乱暴に縫い付けられる。
衝撃で被ってたベレー帽が床に落ちて、クシャリと踏み潰された。
「ーーっ、やめて下さい!」
「うーわやべぇ声も可愛い。これなら俺イケるわ」
「普通に勃つっしょ。まじで興奮する」
「ちょっとだけ、ちょっとだけだからさ、俺らにもイイコトさせてよ」
気持ち悪い言葉と視線で、嫌でも奴らが何をしようとしてるのかがわかる。
(ど、しよ)
抵抗するため腕をばたつかせて、新たな手に手首ごと掴まれた。
「っ、ひ……」
レイヤでもハルでもない初めての体温が直に伝わってきて、ゾワリと体が震える。
やばい やばい、俺1人じゃ無理だ。
どうしよ、どうすればいい?
(嫌……)
また別の手が、今度は確実にベルトめがけてゆっくり伸びてくる。
「ぃ…いや……」
嫌だ、本当にやだ、怖い、お願い
「ぁ……っ、レ、レイyーー」
「お前ら、何やってる」
カチャリとベルトまで行き着いた手が、いきなり凄い方向へと曲がった。
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