450 / 536
番外編 1
龍ヶ崎レイヤの日常
しおりを挟む【side レイヤ】
「ーーさて、行くか」
放課後
授業を受けきってから、一人足早に生徒会室へ向かう。
もうすぐ、副会長たちが卒業する。
それに伴い新しいメンバーを選定しなければならず、引き継ぎ等の準備もあって、行事ほどではないが生徒会自体連日ばたついていた。
(この前放課後にハルたちと残ったから、ある程度はできてんだがな)
それぞれの役職の引き継ぎファイルをパラパラとめくり、最終確認。
生徒会長の俺はいいとして、その他の役職はハルも合わせ大きく人が変わる。
その人員も、ある程度はもう目星をつけてる。
後はそいつらが首を縦に振ればいいが……
ま、そこは大丈夫だろう。
ちゃんと伏線は言ってあるからな。
あいつらもそれなりに頑張ってんのを先生方からも聞いてる。
新しく入るメンバーを、今度はどう育てていってやろうか……あぁ、今から楽しみが止まらない。
「ーーん。完璧、だな」
あんなにあったミス・期限を守れない書類・大量の乱雑な処理。
そんな仕事をしてた副会長たちが、今はこんなにも綺麗なファイルを作り上げれている。
始めが懐かしい。
本っ当出会った当初はクソみたいな奴らだったんだがな…いやあの頃の俺も言えた身じゃねぇが。
だが、体育大会前のあの日があったからこそ、その後の生徒会の雰囲気は良くなった。
風紀や親衛隊も安心したような様子だったし、何よりチームワークの大切さを初めて理解した。
「こいつらなら、もう大丈夫だな」
業務をする上でのコツやノウハウは、嫌でも叩き込んだつもりだ。
これから先大学生になって社会へ出ても、きっと大丈夫だろう。
だって、この俺がマネジメントしたんだからよ。
Prrrrrrrrr……
「はい。 あぁ行く、待ってろ」
最終確認を終えた頃ちょうど鳴った電話に、バタンと生徒会室の扉を閉めた。
「レイヤ様、本日はこのまま本社へと向かいます」
「分かった。資料は?」
「こちらに」
迎えに来た黒塗りの龍ヶ崎の車へ乗って、使用人から本日出席する会議の資料を読み込む。
去年の夏休み終わりから少しずつ俺を会議へ参加させはじめた親父。
前は週に1度ほどだったが、最近は週に2・3度の頻度になった。
『こういうのは早めがいいと思ってね!お前ももう17、来年は18…もう立派な大人だ。大学には学生気分じゃなく大人としての息抜きで学びにいくような心持ちで行きなさい。その為にも、早めに社会へ出そうと思ってね』
親父の事は食えないタヌキだと思ってるし、今でも腹の底は見えない。
だが……正直言って、俺の1番尊敬する人だ。
この先なにがあるか分からない時代。
変化が激しく、今ある当たり前はいつ崩れるのかも不確定。
そんな中だからこそ、きっと親父は俺に他の奴らよりも早く社会を経験させとくんだろう。
俺は、このままいけば社長になる。
社長の下には大量の社員、本社以外にも支社や店舗一店一店…アルバイトも入れると数えきれない人材を抱えている。
その人たちを路頭に迷わせないように…数ある企業の中から龍ヶ崎を選び働いてくれている事を後悔させないように、俺は広い社会や沢山の人と繋がっておく必要がある筈だ。
必要最低限だけ言って後は茶化して終わる親父だが、恐らくきっとそういうことを考えている……はず。
(はっ、俺も大分読めるようになってきたな)
アキに出会って心を読むという事を学んだが、確かにこれは生きていく上で必要なスキルだった。
親父の出は分家、しかも次男坊。
それなのに月森を付けここまで上り詰めたのは純粋に凄い。
そんな親父に俺も一歩でも近づけるよう、これからも使えるもんは全て使って学べるものはめいいっぱい学んでいく。
(見てろよ親父……)
いつかその尻尾を掴んで、追い抜いてやるからな。
「それでは、会議を始めます。本日もご出席ありがとうございます、:絹川(キヌカワ)様・:的羽(マトバ)様」
「いいや月森、いつもの事じゃないか」
「レイヤくんもお疲れ様、学園からそのまま来たんだね」
「制服姿ですいませんが……」
「ははっ、その学園の制服なら問題ないだろう。名門じゃないか」
絹川氏と的羽氏は、龍ヶ崎と仲のいい企業の方々。
当たり前だが、社長の息子といえど学生の身分である俺を会議に入れるのを嫌がる企業もある。そんな中俺の同席を認めてくれる事は、非常に有難い。
(初めは親父が出れる会議を見つけてくれてたんだが、今じゃノータッチだな)
きっと、自分で自分を売り込んでどんどん出られる会議数を増やせという事。
スパルタだな…と思うが、これくらいが丁度いい。
人脈とは、こうやって広げていくものなんだと思う。
「それでは、本日の内容ですがーー」
既に本社で準備をしていた月森が、円滑に会議を進めていく。
その中で龍ヶ崎の社員と絹川氏・的羽氏が意見を交わし合っているのを、時々質問を挟ませてもらいながら懸命に頭へ入れた。
「お疲れ様でした、レイヤ様」
「あぁ、次はまた明後日だな」
「はい。また時間になりましたら迎えに上がります」
「わかった」
「では」
バタンと黒塗りの扉を閉め、送ってくれた月森の運転する車を見送る。
次の会議はまた明後日金曜日。
しかも、金曜の会議は2つ入っていたな。
(はぁぁ……この時間じゃ、もうアキも寝てるか)
あの後絹川氏と的羽氏に夕食へ誘われ、親父の許可を貰い一緒に行ってきた。
月森を付けてくれたからあまり心配せずに話をすることができた…が、
(まだまだ甘ちゃんだな、俺も)
当たり前だが、年齢の差を…経験の差を大きく感じる。
さっきも2人にとって息子のように話をされてしまった。まぁしょうがねぇが……
早く、多くの経験を積んでもっと大きくなりたい。
「はぁぁ……ま、一歩一歩ってところだな」
今はまだ、この学生の身分を大いに楽しませてもらおうと思う。
アキと出会ってから既に中身の濃い日常を生きている。
これからも、もっともっといろんなことが起こるんだろう。
そんな日常へ引き継ぎ精一杯食らいつきながら生きていこうと思いつつ、明日は朝から会いに行って一緒に登校するかなと考えながら
ぐぐぐっと伸びをして、寮への道を歩いたーー
fin.
0
お気に入りに追加
352
あなたにおすすめの小説
同室のイケメンに毎晩オカズにされる件
おみなしづき
BL
オカズといえば、美味しいご飯のお供でしょ?
それなのに、なんで俺がオカズにされてんだ⁉︎
毎晩って……いやいや、問題はそこじゃない。
段々と調子に乗ってくるあいつをどうにかしたいんです!
※がっつりR18です。予告はありません。
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
運命と運命の人【完結】
なこ
BL
ユアンには10歳のときに結ばれた婚約者がいる。政略でも婚約者とは互いに心を通わせ、3日後には婚姻の儀を控えていた。
しかし運命と出会ってしまった婚約者はそれに抗うこともできず、呆然とするユアンを前にその相手と番ってしまう。
傷ついたユアン、運命の番たち、その周りにいる人々の苦悩や再生の物語。
『孕み子』という設定のもとに書かれております。孕み子と呼ばれる男の子たちは、子どもを産むことができる、という、それぐらいの、ゆる~い設定です。
3章ぐらいまでは、文字数が少ないので、さくさく読めるかと思います。
R18シーンありますが、下手くそです。
長い話しになりそうなので、気長にお付き合いいただける方にお楽しみ頂ければと思います(◞‿◟)
*R18の回にRつけました。気になる方はお避け下さい。そんなに激しいものではありませんが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる