ハルとアキ

花町 シュガー

文字の大きさ
上 下
354 / 536
未来へ編

[未来へ編]sideハル: 僕は……

しおりを挟む
[未来へ編]




『おーい、そっち準備いいか!?』

『オーケーいける!』

『こっちもだよー!!』

『よし、じゃあいくぞ!』


『『『せーのっ!!』』』



「っ、わぁ………!!」



12月
クリスマスパーティーの準備でバタバタしてる学園。

「年末の決算に向けて早めに動いておくぞ。6月みたいな失敗はしねぇ」というレイヤの一言で、今回生徒会は早めに決算締め切りへ向けて動いている。

(残すところは、もうクリスマスパーティーの資料だけだな)

受験が終わった先輩たちも仕事をしてくれるから、5人集まればどんどん業務が進んで行く。

6月は大変だったってアキが言ってたけど…まぁ2人でやったみたいだし、そりゃそうだね。
よく頑張ったね、アキ。

(それに、よくここまで関係を整えたよ)

バラバラだったのが信じられないくらいに、生徒会はみんな仲が良くて…

本当にいいメンバーだなぁって、思って……


今は、放課後。
クリスマスツリーの点灯確認の真っ最中だ。

体育館や学園の外に設置したモミの木に生徒がそれぞれ飾りつけして、一気に光を灯す。

パァァッと一瞬にして学園全体が明るくなって。
言葉が、出なくなって。

(凄い……)

こんな景色、見たことない。

煌びやかに光る様々な色のイルミネーションが、飾った飾り物に反射して、キラキラ輝いている。

(き、れい…)

まるでおとぎの国のよう。

生徒たちもみんな、笑い合いながらツリーを見上げていて。



ーー嗚呼、本当に



(どうして、ここいるのが僕なんだろう)



だってそうじゃん。

クラスも、生徒も、親衛隊も、先生方も、生徒会も、友人関係も、恋人だって全部全部アキが作り上げた…なのに。

どうして我が物顔のように、僕が居座ってるの……?


『〝気味が悪い〟って…言われたの?』

『そ、なんだよね……でも今は本当に大丈夫だから!』


〝気味が悪い〟


(どうして、アキばっかりが傷つくの?)

いつもいつも、傷つくのはアキの方。
僕は、平気でその上を歩いてる。

(本当に、最悪…)

母さんの件だってそうだ。
アキは「もういい」って言ってたけど、全然良くない。

もし僕の身体が弱くなかったら、きっと状況は変わってた。
僕が弱いばっかりに母さんは僕主体で物事を考えるようになって、結果アキをないがしろにしてしまった。
きっとアキと同じように元気だったら、母さんの見方は変わっていたはず。

それでも月森さんは「それぞれに個性があるからどの道悩まれていたでしょう」って言ってたけど、でも少なくともこんな未来にはならなかったはずだ。

それに、もし母さんがアキの個性を受け入れたなら?
傷つく方は、アキではなく僕になってたんじゃないのだろうか。
アキはきっと、もっと幸せに笑っていたんじゃないのだろうかーー


ポソッ

「あぁ、本当に」


これを言ったら、きっとアキは笑って否定してくる。
「こんな未来だったからこそ、俺は今こうしてレイヤと出会えてハルとも一緒に過ごせて幸せなんだよ」って。

レイヤには、本当に感謝しかない。
ハルとして生活してた中からアキを見つけだしてくれて、こうして大切にしてくれて…

(僕の所為で、たくさん悩んだね)

レイヤはハルの婚約者だからって、何度も何度も自分の気持ちに蓋をしてしまっていたね。

痛かったよねアキ。 本当にごめん。

帰ってきて僕の顔を見るたび、泣きそうな顔して笑って…儚すぎて消えてしまうのでないかと思うくらい、見ていて切なかった。

(ほんっと、僕って迷惑でしかない)

2人の邪魔をして、たくさん傷つけて…しまって……


(僕は、)


僕は、やっぱりーーーー





「おい、ハル」



ビクッ

「っ、レイヤ…」


視界にいきなりレイヤの顔が割り込んできた。


「お前……はぁぁ…」


ポンッ

「っ、なに…わっ!」

頭に手を置かれたかと思ったら、グシャグシャグシャッ!と一気に掻き回される。

「ハハッ、鳥の巣みてぇ」

「なっ、ちょ、やめてってば」

「ククククッ」

ひとしきり好きにされ、ゆっくり手が離れていった。

「もう……いきなり何なの?」

「辛気臭せぇ顔してたからな」

「だいぶマシになった」と頭を軽く叩かれ、ドキリと心臓が跳ねる。


「なぁ、笑っとけよ」


「っ、え…?」


「そんな顔されるために、アキはここまで頑張ったんじゃねぇぞ」


「ーーっ、」


顔を見て一瞬で何を考えてたのか、分かったのだろうか。

(ははっ、本当に…)

レイヤにも、怒られて当然だと思う。
「まんまと騙された」と。「お前の所為でアキと結ばれるのに時間がかかった、どうしてくれるんだ」と。

それなのに何も言わずに…変わらず僕のフォローをしてくれて。

(優しすぎるよ、2人とも)

アキもレイヤも…それ以外のみんなも。
優し過ぎて、本当に心が痛い。

「レイヤだってこの景色をアキに見せたいでしょ?」

「まぁそうだな…あいつの反応とか頭に浮かぶけど」


『わぁ……綺麗…!! レイヤ、凄いね!』

ほわぁぁ…っ!と目をキラキラさせてはしゃぐアキが、直ぐに想像できて。


「でもまぁ、来年もあるしな」

「ぇ?」

「お前も一緒の方が、アキが喜ぶ」

「っ、」

ニヤリと笑われて苦笑する。

(そっか、そうだね)

レイヤは、アキの事を1番に考えてるもんね。


「ねぇ、勿論クリスマスプレゼント考えてるんだよね?」

「当たり前だ」

「幸せに、してあげてよね」

今まで辛い思いをさせてしまった分。

心から…めいいっぱい笑って欲しいから。


「お前も、クリスマス楽しめよ」

「うんっ、当たり前」


ドス黒いドロドロとしたものは、心の何処かへまた隠れてしまって。

今はただ、綺麗に輝く夢みたいな景色を

2人で眺めていたーー





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

同室のイケメンに毎晩オカズにされる件

おみなしづき
BL
 オカズといえば、美味しいご飯のお供でしょ?  それなのに、なんで俺がオカズにされてんだ⁉︎  毎晩って……いやいや、問題はそこじゃない。  段々と調子に乗ってくるあいつをどうにかしたいんです! ※がっつりR18です。予告はありません。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

運命と運命の人【完結】

なこ
BL
ユアンには10歳のときに結ばれた婚約者がいる。政略でも婚約者とは互いに心を通わせ、3日後には婚姻の儀を控えていた。 しかし運命と出会ってしまった婚約者はそれに抗うこともできず、呆然とするユアンを前にその相手と番ってしまう。 傷ついたユアン、運命の番たち、その周りにいる人々の苦悩や再生の物語。 『孕み子』という設定のもとに書かれております。孕み子と呼ばれる男の子たちは、子どもを産むことができる、という、それぐらいの、ゆる~い設定です。 3章ぐらいまでは、文字数が少ないので、さくさく読めるかと思います。 R18シーンありますが、下手くそです。 長い話しになりそうなので、気長にお付き合いいただける方にお楽しみ頂ければと思います(◞‿◟) *R18の回にRつけました。気になる方はお避け下さい。そんなに激しいものではありませんが…

処理中です...