ハルとアキ

花町 シュガー

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おかえり編

sideアキ: おはようございm……え、?

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チュン…ピピ、チュン……


「……ん、んぅ…」

(朝…?)

鳥の鳴き声とカーテンの隙間から明るい光が入り込んでいて、ふぁぁと欠伸をする。

…レイヤ……は、いない…?
もう学校行ったのかな? あれ、今何時?

「時計見よう」と起き上がろうとしてーー


ボフッ


「ぅわっ」

起き上がれなくて顔から枕に沈んだ。

「ぇ…なに?」

下半身がめちゃくちゃ重い。
なんかこう……筋肉痛のような………

(筋肉痛って)


『ぁ、あぁ、レイヤぁっ!』


……確実に昨日のアレじゃん!!

嘘だろ!? は、まじっ!?
え、起き上がれないんだけど何なのこれ!
こんなにダメージあんのか!?

「ぇ、どうしよ」

ってか、何でこんな時に限ってあいつはいないんだよ…!
絶賛ピンチだぞ俺……起き上がれないとかやばくない?


ガチャッ


「っ!おいレイヤ、これーー」

「おはようアキくんっ」

「……ぇ?」

レイヤかと思ったら、入ってきたのはトウコさん。

「ふふふ良かった、次はちゃんと起きてたわね。
今日はいい天気なのよ~。カーテン開けるわね!」

「ぁ、は、はい、有難うございますっ」

「んー敬語はいらないんだけど…まぁこれからねっ」

シャッ!と勢いよくカーテンが開かれて、パァッ…と日が一気に差し込んできてーー


「……え、今何時ですか?」


「お昼過ぎくらいよ」


でっすよね。
だってこんなに日が入ってるんだもん。しかも朝日じゃないし太陽真上くらいですよねこれ??

俺、人の家でそんなに寝てたの?
失礼すぎるだろ……

何とか上半身を起こして、背中に枕を入れてもたれかかる。

「すいませんっ、俺、いっぱい寝ちゃって……」

「あぁ全然いいのよ!寧ろレイヤが悪いんだからアキくんが謝らなくてもいいわっ」

「………ん?」

「ねぇ、それよりお腹空いてないかしら? 私ご飯作ってるのよね。持って来るから一緒に食べましょう?」

パタパタと、楽しそうにトウコさんがテーブルをベッドの方へ運んで来てくれた。









「さぁ!いっぱい食べてね」

「わぁ……っ!!」

テーブルいっぱいに広がる、美味しそうなご飯の数々。

「これ、全部作られたんですか…?」

「そうね、でも一気にではないの。半分はアキくんの朝ご飯だったものよ」

「ぁ…起きれなくて、すいませんでした」

「もうっ、だからいいって言ってるじゃない!レイヤが悪いのよ。大丈夫、あの子には私とハルくんでしっかり怒ったから」

「へ?」

「私たちが昨日あれだけ言ったのに…アキくんは朝起きれないし今もこうしてベッドで……
本当にこちらが申し訳ないくらいよ、ごめんなさいね」

「いやいやっ、全然平気です!」

ってか、今の話ぶりだとハルもトウコさんも昨日俺たちが何やってたか知ってる……?
嘘…すっごい恥ずかしいんだ、けど……

「あらあら顔が赤いわ。
初めてだったのよねアキくん?」

「ぁ、は、はぃ…」


「ちゃんと、幸せだったかしら?」


「ーーっ、はぃ、凄く幸せでした……」


真っ直ぐに問われて微笑みながら素直に返すと、ぎゅぅぅっと抱きしめられた。

「あぁもう、なんって可愛らしいのかしらっ!」

「わっ、トウコさ」

「いいことアキくん?
これから先、したくない日とか今日は気分が乗らない日とかが絶対に来るわ。そんな日は必ずちゃんと断るのよ? 幸せな気分になれないから。絶対我慢しちゃダメよ?」

「ぁ、ぇ」

「分かったかしら?」

「は、はぃ!」

「うんっ、いい返事ね。
それじゃあ食べましょうか」

体を離されて一緒に「「いただきます」」をして、美味しそうなご飯にゆっくり手をつけた。



「そう言えばアキくん。
〝アキくん〟と呼んでも良いのよね?」

「はい、勿論」

「私のことはトウコさんじゃなくて〝お母さん〟でも良いのよ?」

「ぇ、」

「なんなら〝ママ〟でもいいわ?」

「ぇえっ!」

「クスクスッ、嘘よ嘘。でも、それくらいにこれから仲良くなりたいわね」

(っ、そう言ってもらえて…嬉しいな……)

じんわり胸が暖かくなって膝の上でキュゥッと手を握る。
その手に、トウコさんの手が重ねられた。

「ねぇ、アキくん。
貴方やハルくん…小鳥遊の事は、全て聞いたわ」

「はい」

「同じ母親として言わせてもらうと、貴方のお母様がした事は絶対に許されないと思う」

「っ、」

「でもね?
小鳥遊夫人は、きっと乗り越えられると思うわ」

「ぇ……?」

びっくりして俯いてた顔を上げると、そこには優しく微笑む顔があった。


「だって、こんなにも可愛らしい子たちが自分の息子なんですもの!」


「ーーっ、」


「きっとね、そのうち離れてるのが寂しくなって抱きしめにきちゃう時が来るわ。
だから、それまで待ってるといいわっ」


「…っ、そんな日、本当に来るでしょうか……」


「えぇ、勿論よ!!」


直ぐに肯定が返ってきて、涙が出そうになる。

「私も、夫人に寄り添ってあげたかったわ」

「ぇ……?」

「多分だけど、夫人はお1人だったのよね?
ご自身が母親に育てられた経験もなくて、同じ年頃の子どもを抱えた…謂わゆる〝ママ友〟と呼ばれるご友人もいらっしゃらなかったのでしょう。
母親としての話や子育ての話は、どうしても男性には分からない部分が沢山あるわ。もしも夫人にそんな存在の女性がいたならば、未来は変わっていたかもしれないわね。
まぁ隠していたのだからしょうがなかったけれど」

(ぁ……)

「貴方たちを育てている頃の夫人に…フユミさんに、少しでも寄り添ってあげたかったわ。年もそれほど変わらないし、寧ろ同じ年頃の子どもがいたのだし。

ーーねぇ、アキくん」


「は、はい」


「私も、貴方のお母様とお友だちになれるかしら?」


ハッと目を見開くと、トウコさんが笑った。


「友だちなんてね?
どんなに年を取っても、つくろうと思えば何歳でだってつくれるものなのよ」


「っ、」


「ふふふ、大丈夫かしら?
私一応元保育士だし性格は明るい方だと思うし、龍ヶ崎の夫人ではあるけれど一般の出だし…多分この世界にいる方々よりかは馬は合うとは思うのよねぇ……」

それに、もう私たち〝家族〟ですし。

「家族……」

「えぇ、そうよ。貴方とレイヤが私たち龍ヶ崎と小鳥遊を繋いでくれたじゃない」

「俺と、レイヤが…?」

「本当はハルくんとレイヤだったのだけど、それは互いの了承で変更されたわ。だから、もう大丈夫。
書類上でも、レイヤの婚約者は貴方よ」

「ーーっ、有難う、ご、ざいます…っ」

「ふふふ。それに〝あの時〟も言ったじゃない。

〝レイヤを変えたのは、貴方でしょう?〟って」


(ぇ、〝あの時〟って……)


まさか、ハルと喧嘩した日一緒に夜ご飯を食べた…あの時の事?
あの時の〝ハル〟は俺だって、見抜いてたのか…? 一体どうやって…まさか、前に俺とハルに何処かで会ったことある……?

呆然と見つめても、トウコさんはただ笑っているだけで。

(なんか、流石レイヤのお母さんって感じかも…)

強くて、優しい。
言わなくていい事は言わないし、ちゃんと言うべき事はスパッと言ってくれる。

俺も笑って、トウコさんの手を握った。

「……母と、友だちになっていただけますか?」

「勿論よっ!いいわねぇ仲良くなったら2人でショッピングとかお茶しに行きたいわ~!その時はお母様私に貸してちょうだいね?」

龍ヶ崎の社長も俺たちの父さんもとても忙しい人だろうから、置かれている立場はほぼほぼ一緒の筈。

「んーきっと話は合うと思うよねぇ本当に…クスクスッ、そんな日が来るといいわ。
でも、まずは貴方たち。しっかり貴方たちのわだかまりが無くなったら…その時は小鳥遊の屋敷を訪ねさせてもらうわねっ」

「はいっ、是非」




それからもう少し話をして、「さっ、食器を片付けて来るわ。貴方は休んでなさいな」と元気よくトウコさんが立ち上がった。

「あぁそう。今日学校が終わったらお友だちが訪ねて来るそうよ」

「そうなんですね、分かりましたっ」

「…ん、んん~そうねぇ~~……」

「………? あの、何か?」

じぃーっとトウコさんに見られて、首を傾げる。

「そのままでもいいけれど…いやでもアキくんの事を考えるとやっぱり可哀想だわ。
よしっ、私の部屋用ポンチョを貸してあげるから待ってなさいな!」

「へ、ポンチョ……?」

確かに今の時期は冬だし、部屋でポンチョ着てても全然違和感は無いけど…

(何でポンチョなんだ?)

「クスクスッ、鏡持ってきてあげるわね。まったく…レイヤにもっとちゃんと言っておけば良かった……

はいっ、どうぞ。首元見てみて?」


「……?

 ーーっ、は!? 何だこれ!!」


「あはは…アキくん本当にごめんなさいね。
首まで隠れるもの持ってるから、ちょっと待っててね」


「は、はい…すいませんお借りまします……」


あっのバカレイヤ…!!

帰ってきたら覚えてろ!!!!



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