ハルとアキ

花町 シュガー

文字の大きさ
上 下
342 / 536
おかえり編

4

しおりを挟む




「………ほ、んと……に…?」

「あぁ、本当だ。
まぁ婚約者な時点でもう結婚前提なんだがな」

楽しそうにクツクツ笑うのを、呆然と見つめる。

「で、お前は?」

「ぇ…?」

「俺の告白の、返事」

「ぁ、ぇっと、ぁの……!」

言いたいことがいっぱいありすぎて、何から言えばいいのか…わからなくて。

でも、それらを全部通り越して、ポロリとひと言、言葉が漏れた。


「ーーっれも…

俺も、レイヤのことが、好き……ですっ」



「あぁ、知ってる」



「っ! ……っ、レイヤぁ」


ボロッと涙が溢れてきて目の前の体に抱きつくと、すぐにぎゅぅっと抱きしめ返してくれた。

「はぁぁぁ…ったくお前は。なに不安になってんだよ」

「だ、だって…」

「そんなに俺のことが信じれねぇのか?」

「違う!」

「大体な、好きでもねぇ奴の為にわざわざあんな場所まで迎えに行くかよ。ネックレスも渡して、深夜に病室尋ねたりして…この俺が一体誰にそんなことすんだ」

「……俺、だけ………?」


「あぁ、お前だけだ。アキ」


「っ、」


(俺、だけ……)


嬉しくて嬉しくて、更にぎゅうぎゅう抱きついてしまう。

「ハルじゃなくて、俺で…いい……?」

「お前〝で〟じゃない、お前〝が〟いいんだ。
お前のことをハルと思ってたからな……
俺は、ずっとお前に『好き』だと言い続けてたんだぜ」

「ーーっ、俺のこと〝嘘つき〟って、怒らないのか?」

「嘘か……ハルと名乗っていた事はしょうがなかっただろ。お前にとっても不可抗力だ。別にそれを悪いと思っちゃいねぇ」

「俺のこと、〝気味悪い〟って…言わない?」


「…………はぁ?」


ガバッ!と抱きついてた体を引き剥がされる。

「おい、なんだそれは。お前のどこが気味悪りぃんだ。んなこと誰に言われた」

「ぁ、ぇ……と」

「あの学校の奴らか?」

「ちがっ!」

「なら、一緒に住んでた奴らか?」

「……っ、ぁの」


「…………へぇ」


「やっぱこっち帰ってくる前に一回寄ってくべきだったなぁ。別にこれからでも遅くはねぇか」と言い始めるレイヤにギョッとする。

「い、いい!もういいからっ!」

「あぁ? 何でだよ、お前その言葉覚えてんじゃねぇか。ここで出てきたって事は、まだ心に刺さってんだろうが」

「っ、」

確かに、あの言葉は痛かった。
夢を見るくらい……本当に。

でも、


「それでも、もう…いいから。

だから、もう離さないで………」


「っ、たくお前は……」


両手を広げると、再びぎゅぅっと抱きしめてくれた。

「いいか、よく聞け。俺は絶対お前にそんなこと思わねぇ、絶対にだ。学園に帰ったあいつらもきっとそうだ」

「っ、うん」

「お前の過去は、もう全部聞いた。だからと言って別に離れてはいかねぇし離す気もない。
お前はお前だ、アキ」

「おれは、おれ…」

「だからもう辛いことを溜め込むな。これからは全部吐き出せ、俺が受け止める。雷も少しずつ慣れていけばいい。まぁ無理なら無理でも別にいいけどな。

そして吐き出した分だけ、そこに〝幸せ〟を溜めていけばいい」


「しあ、わせ……を?」


「あぁ、そうだ。
これから、俺たちはいろんなところに行く。海や山や、満天の星空や満開や花々や、映画館に水族館に…勿論夏祭りもだ。そして、そこで見たものや感じたものを全部、お前の中に溜め込んでいけ」

(見たものや感じたものを、全部……)


「そんなことしたら、一杯になって直ぐ溢れるよ…っ」


「それでいい。
溢れたら、その時はまた溢れた分を話せ。俺が受け取るから」


(ーーっ、あぁ)


こんな時、何て言えばいいんだろう?

胸が…感情がいっぱいいっぱいで、もうどうしようもない。


「なぁ、アキ」


コツンと、レイヤのおでこが俺のおでこに当たる。

「お前が、まだお前であることに慣れないのは分かる」

「っ、」

「俺に対しても、まだ現実に追いつけなくて戸惑ってるのは分かってる。でも、それでいい。
ゆっくりでいいから、ハルだった時お前が心の中で俺に話しかけてたみたいに、話してくれ」

「ぇ、」

「だから敬語も勿論いらねぇ。ってかお前には似合わねぇしな。実は案外口悪ぃだろお前」

「っ、な!」

「クククッ、分かりやすいんだよ。もうお前が何考えてるか、俺には手に取るように分かるぞ」

ニヤリと直ぐそこで笑われて、ぶわっと一気に体温が上がる。


「アキ」


「な、なに」


「俺は、お前の過去も全てひっくるめてお前を愛しいと思う。俺の心や感情は、全部お前がくれたんだ。

ーーだから」


「わっ」


再びボスッとベッドに倒された。


「不安があるのは分かる。
お前は初めての事だし、後夜祭の時は最後までしなかったしな。

でも、もう俺も遠慮すんのは辞めたんだよ」


「ぇ……?」


「あの時はお前の体を気遣って抱くのを辞めた。俺が〝秋〟って呼んだ時も、俺はお前に涙の意味を聞くのを辞めた。
そしたら、お前は何処かへ行ってしまった。

本当に……死ぬ程後悔したんだ」


「っ、レイ……」


「だから、もう悪りぃが強引にいかせてもらう」


再び、体をゆっくり押し倒される。


「っ、レイヤ、まだ俺…お風呂とか……」


「あーそういうのも全部却下。別に風呂とかどうでもいい。


ーーーーお前はもう黙って、俺に愛されろ。アキ」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

同室のイケメンに毎晩オカズにされる件

おみなしづき
BL
 オカズといえば、美味しいご飯のお供でしょ?  それなのに、なんで俺がオカズにされてんだ⁉︎  毎晩って……いやいや、問題はそこじゃない。  段々と調子に乗ってくるあいつをどうにかしたいんです! ※がっつりR18です。予告はありません。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

運命と運命の人【完結】

なこ
BL
ユアンには10歳のときに結ばれた婚約者がいる。政略でも婚約者とは互いに心を通わせ、3日後には婚姻の儀を控えていた。 しかし運命と出会ってしまった婚約者はそれに抗うこともできず、呆然とするユアンを前にその相手と番ってしまう。 傷ついたユアン、運命の番たち、その周りにいる人々の苦悩や再生の物語。 『孕み子』という設定のもとに書かれております。孕み子と呼ばれる男の子たちは、子どもを産むことができる、という、それぐらいの、ゆる~い設定です。 3章ぐらいまでは、文字数が少ないので、さくさく読めるかと思います。 R18シーンありますが、下手くそです。 長い話しになりそうなので、気長にお付き合いいただける方にお楽しみ頂ければと思います(◞‿◟) *R18の回にRつけました。気になる方はお避け下さい。そんなに激しいものではありませんが…

処理中です...