ハルとアキ

花町 シュガー

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真実編

sideアキ: お久しぶりです、月森さん

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ハルと一緒に病室で過ごして、放課後にはみんながお見舞いに来てくれて。
ちゃんとご飯も食べて思いっきり眠って……そんな、びっくりするくらい平和な日々を過ごして。

だんだんみんなとの距離も近づいてきた気がする日の、午後。

いつも通り訪ねて来てくれたみんなと話していると、コン コン というノック音が聞こえた。

「わ、誰だろう?」

「お医者さんじゃない?」

「おれ開けるねー!」

イロハがパタパタ近づき、扉を開ける。


「こんにちは、丸雛様。

ご無沙汰しております」


「ぇ、」


(っ、この…声は)


ビクッとイロハの体が震えるのが見えて、それにいち早くカズマが動き、イロハを隠すよう前へ出た。

「……此処に、何か用でしょうか」

「はい。ハル様とアキ様に用がございます。通していただけませんでしょうか?」

「月森、さんだ」

「うん、月森さんの声…だね」

ぎゅっとハルの手を握ると、ハルもぎゅぅっと握り返してくれる。

「俺たちが行くか、櫻」

「そうですね」

「いえ、ここは我々が行きますので、先生方はどうぞそのままで」

「ぇ、月森くん、龍ヶ崎くん?」

椅子から立ち上がろうとする先生たちに待ったをかけ、2人が扉へ近づいて行った。

「矢野元、丸雛、此処はいいから下がれ」

「会長……わかりました」

「こんにちは叔父さん」

「やぁミナト。こんにちは龍ヶ崎様。お世話になっております」

「あぁ、入れ」

「はい、失礼いたします」

「ぇっ、先輩?」「龍ヶ崎!?」

断るのかと思ったら、思いっきり招き入れた事にびっくりする。

「大丈夫だ、もう小鳥遊はこちらに手を出してこない」

「……お前ら、あの後水面下で動いていたのか?」

「そうですね。小鳥遊からの提案により、他に漏れることの無いよう少しだけ」
 
「ど、いうこと………?」

みんなの理解が追いついてない顔が、一斉に小鳥遊の月森さんへ向いた。


「皆様、先日は大変お世話になりました。そして大変申し訳ありませんでした。社長に代わり謝罪申し上げます」


綺麗に一礼する月森さんの顔が、俺たちを捉えていつも通り笑った。


「ハル様、アキ様。
顔色がよろしいようで安心いたしました」

「「ぁ…ありがとう、ございます……」」

「クスッ、皆様のおかげですね。改めてお礼申し上げます、有難うございます。

ーー本日は、社長に変わり私小鳥遊家月森が、全てを話しにまいりました」


「「ーーーーっ、」」


カチャッと、先輩の手が静かに扉の内鍵を閉めた。


「……おい、小鳥遊の社長はなんで来ねぇんだ。自分の息子がどっちも倒れたんだぞ」

「仰る通りです梅谷様。しかし、社長は〝来ない〟のではありません。
ーー〝来れない〟のです」

「〝来れない〟……だと?」

「えぇ。それも全て含め、お話いたします。
少し長い話になりますので、どうぞ皆さま掛けたままで。 ハル様、アキ様、きつくなりましたらいつでも横になられてくださいね」

俺たちを挟むように、月森先輩とレイヤがそれぞれ隣へ座る。

「気分が悪くなりましたら直ぐにお知らせください」

「無理はすんな。直ぐ言え」

「ぁ、ありがとうございます」「ありがと、レイヤ」

「……ふふふ。どうやら、もう私の心配はご無用のようですね。

先ずは、お話をする前に私からお2人へ渡さねばいけないものがあるのです」


「「?」」


(渡さないと、いけないもの……?)


ガサガサと月森さんが持ってきた紙袋を漁る。

そこから、出てきたのはーー


「あっ!」「そ、れ……!」


「クスクスッ、覚えてらっしゃるようで安心しました」


月森さんが両手に抱えたのは、古いテディベア。
片方は薄い茶色のような桃色のような色をしていて、もう片方は赤茶色。

「これはおふたりの物ですので、持ってまいりました」

「「っ、」」

「どうぞ」と手渡されると、懐かしい匂いと懐かしい手触りがして胸がキュゥゥッと締め付けられる。

「こ、れ…てっきり、母さんに捨てられたと思って……」

「そうですね。確かに、あの時奥様が捨てられました。

ーーしかし、あの後奥様が自らそれを回収し、私が長年お預りしていたのです」


「っ、え………?」

(母さんが、もう一度……?)

一体、どうしてーー


「クスッ。
ハル様、アキ様。このテディベアは私があなた方へプレゼントしたとお思いでしょうが、それは違います」


「「え?」」


「月森は、主人無しに自ら動くことはしません」


「「!!」」


そうだ、確かに。

月森は主人に付き従い、主人から言われたことのみを忠実に実行する。
だから、月森が自らの意思で動くことは決して無いのだ。


(それじゃ、これは…一体、誰が…………?)


ハルと初めてお揃いで貰ったプレゼント。
嬉しくて嬉しくて、幼いころは何処へ行くにもいつも持っていっていた。

そんなテディベアをギュッと抱きしめながら、呆然と2人で見つめると

ニコリと月森さんが微笑む。


「それでは、お話いたしましょうーーーー」










***
P86の「初めまして、親衛隊長さん 2」にテディベアの話が出てきますので、よろしければ遡っていただけますと幸いです。
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