ハルとアキ

花町 シュガー

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真実編

sideアキ: 真夜中の訪問者

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サワリと、髪を撫でられる感触がする。


「ん………」


目を擦るとクスリと笑われて、その手を握られた。

(あった…かい……)

ふわふわする意識の中、薄く目を開ける。


「アキ」


「………レ、ヤ……?」


「あぁ、遅くなったな」

暗がりでも優しく笑うのが見えて、もっとちゃんと見たくてベッドサイドのランプを灯す。
上半身だけ起き上がると、背中に枕とクッションを入れてくれた。

「今、何時……?」

「午前2時くらいだな」

「午前…2時……」

(そんなに遅くに、会いに来てくれたんだ……)

だんだんはっきりしてくる意識に、夢じゃなく現実なのかと実感して。


「こ、こんばんはっ、レイヤ」


「ククッ、あぁ。こんばんはアキ」


握ってくれてる手に、少しだけ力を入れ握り返した。

「今週いっぱい入院らしいな」

「う、うんっ、そうみたい……」

「色々あったしな、ゆっくりしとけ」

「そう、します」

(き、気まずい……っ)

ちゃんと会話したのっていつぶりだっけ?
あぁそう、あの学校の屋上ぶりだ。

あの時も、早くハルたちの元へ駆けつけないとだったからちょっとしか時間がなくて、簡単な自己紹介くらいしかしてない記憶がある。

(どうしよ……)

あんなに会いたかったのに、いざこうやって会うとびっくりするくらいに言葉が出てこなくて。

何を言えばいいのか、全然 わからなくてーー


「アキ」


ビクッ

「っ、」


「アキ、大丈夫だ。そのままでいいから」


俯いてしまっていた顔に、手を添えられた。
そのままゆっくり上を向かされて、コツンとおでこを合わせられる。

「俺のこと、怖いのか?」

「ぁ……その、ぇ、と…」

「あぁ、言いづれぇなら無理に言わなくてもいい。怖いなら怖いでいいから。これからまた距離詰めてきゃいいだけの話だ」

「え……?」

「学校の奴らはどうだった? 今日も来てただろ」

「っ、こわかった…けど、ハルがいてくれたから……」

「ん、そっか」

至近距離から安心したように微笑まれて、ぼわっと体温が上がるのを感じる。

ぇ、あれ、レイヤってこんな感じだったっけ!?
なんか俺がハルだった時より…甘くなってる気が……?


「ま、お前が何を怖がってんのかは大方わかってんだがな」

「へ? って、わ!!」

ガシッ!と頭を掴まれて、ぐしゃぐしゃぐしゃ!といつかの日のように掻き回されて。

「クククッ、鳥の巣みてぇになるな本当」

「っ!だ、誰の所為だと…!!」

「なぁ、アキ」

「……?」

 「俺は…俺たちは、お前の怖がるような事は何も思ってねぇ。だから安心してくれていいから。

お前のその恐怖は、きっと時間が解決してくれる筈だ」


「っ、」


「だから、早く元気になれ。皆んな待ってる」


(あぁ、本当に……)

なんでこの人はこんなに俺の心の中が見えてるんだろう?
俺が今1番かけて欲しい言葉を、知ってるんだろう?

目の前で強く微笑んでくれるレイヤが暖かくて、じんわり涙が浮かんでくる。

「~~っ、あ、りがと、ございm」


チュッ


「っ!?」

「なぁ覚えてっか? お前が〝会長〟って言ったらキスするってやつ。
それ、今度は〝敬語〟にしようぜ」

「えっ」

「敬語使ったらキスするから。して欲しいなら別にいいけど」

「な、ぇ、っ!?」

ニヤリと笑われて、言葉が出ない。

は……? そんなルール変更知らねぇし!
ほんっと俺様だなおい!!

「ハハッ、やっと元気になってきたか?」

「へ……?」

「その調子でとっとと退院しやがれ。

お前が目覚めなくて…本当に心配した……」

ポスッと首筋に顔を埋められた。
そのまま、ぎゅぅっと抱きしめられて。

「あんなとこ言われた後だったからな。もしかしたらこのまま目覚めないんじゃねぇかって、思って……

本当に、良かった………」


「っ、」


呟かれる声は、普段からは想像できないくらい……弱々しく震えていて。
どれだけ心配かけたのかが……よく、分かって。


「おかえり、アキ」


「~~~~っ、ただいま、レイヤっ」


あぁ、俺ちゃんと帰ってきたんだな。
帰ってこれたんだ、この場所に。

嬉しくて嬉しくて涙が溢れてどうしようもなくて、そのまま暫く抱きしめあっていた。










「家のことって、龍ヶ崎でなにかあったのか……?」

「ん? あぁ、まぁな。それは時期わかる」

「そ、そうなんだ……
あの…父さんたちはどうなった……?」

ハルやみんなには聞けなかった疑問。
おどおど見上げながら、思い切って聞いてみる。

「そうだな……それに関してももう時期話がある。だから、それまで待っとけ」

「ぇ?」

「取り敢えずは大丈夫だ。安心しろ」

「か、かあ、さんも…平気……?」

「あぁ、平気だ」

「っ、そ…かぁ………」

(良かった…の、かな……)

ツキッと心が痛んで、思わず服の上から心臓の部分を抑える。


「ったく……お前は………」


その手に、レイヤの大きな手が重なった。

「ちったぁ自分の心配しやがれ。またこんなに痩せやがって……」

「うぅ…ご、めんなさい……」

「早く太れ。ったく………

俺はもう保たねぇぞ」


「? 保たない……?」


(何が保たないんだ?)


「退院したら覚えてろよ、アキ」


「ぇ、え……?」


「ククッ。

ほら、まだ深夜だ。もうそろそろ寝ろ」


回されていた腕を解かれ、ベッドに寝かされる。


「レイヤは、帰る……?」

「あぁ? そうだな…お前が寝るまでここにいてやるよ。」

「っ、ん…ありがと……」

そろりと布団から手を出したら、すぐに気づいてぎゅっと握ってくれた。

本当はもっと話したかった、けど……
続きは、ちゃんと元気になってから…なのかな。


(でも、安心してもいいかもしれない)


レイヤの俺をみる目はすごく優しくて、多分俺が想像してる怖い未来は…来ないような気がして。

取り敢えず、早く元気になろう。

手から感じる温度を確かめながら、またゆっくりと夢の中に落ちていった。






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