ハルとアキ

花町 シュガー

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反撃編

sideアキ: 崩壊 1

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「あなた?」

さっき、佐古が思いっきり開け放ったままだった扉。

その扉から、白い影がこちらを見ていた。


「っ、フユミ……」


焦ったような父さんの声が聞こえる。


「ふふふ、大きな声が聞こえると思って覗いてみたのよ。そうしたら、扉は開いているし学生さんのような制服が見えるしで……… あら?」

それぞれの顔を見ながらふらりと入ってくる母さんの目が、一点を捉える。

「レイヤくんじゃないかしら?」

「っ、こんにちは。お邪魔しています」

「まぁ、来ていたのね。来るなら来るで一言言ってくれたら良かったのに。この子たちはレイヤくんのご友人?」

「ま、まぁ……」

「あらあら、そうだったのね。こんにちは。
それにしてもどうしてみんな立ってるのかしら? せっかくソファがある部屋なのだから座ったらどう? お茶とお菓子が必要ね、人数分あったかしら……」

「お、奥様」

「まぁ月森、丁度いいところに。一緒に準備を手伝ってくれない? 私1人では人数分運べそうにないわ。

ねぇあなた、少し月森を借りてもーー」


すぐさま寄り添うように近くへ来た月森さんと並んで話をする母さんが、父さんの顔を見る為にこちら側を振り向いてーー



「ーーーーあら?

どうして同じ顔が2つもあるのかしら」



「「っ、」」



ビクリと同時に体が震え、互いに手を繋いでぎゅぅぅっとくっついた。


「ハルはともかく、どうして貴方まで帰ってきているの?

アキ」


「っ、ぁ、ぁの……」

「それに、ここにはレイヤくんたちも……い、て………」

ふわりと笑っていた顔からサァッと血の気が引いていき、どんどん青白い肌へと変わっていく。
目も、これ以上ないくらいに見開かれ始めて。


「ぁ、ぁあ……なんて、こと……、どうして…っ!」


「奥様」

突然暴れ始める母さんを、月森さんが抱きしめるようにして抑えつけた。

「はなっ、離して月森!早くあの子を隠さないと、全てが終わってしまう!!」

「落ち着いてくださいっ、どうか落ち着いて」

「あぁ、何立ってるのアキ!早くハルの手を離して部屋から出ていきなさい!!あなたも手伝って、早く!」

「かあ…さん……」

「レイヤくんに秘密がバレてしまう」と必死になって月森さんに抵抗する母さんに、胸がギュゥゥッと締め付けられて体が震える。


「ーーフユミ」


父さんが、俺を母さんから隠すようにして前に出た。

「もう、終わったんだ」

「っ、おわっ、た………?」

「あぁ。ハルとアキが入れ替わっていたこと、彼らには全てお見通しだったそうだよ」

「ーーっ、そん……な………」

カクンッと、母さんの体から力が抜けた。
そのまま月森さんに支えてもらいながら、ゆっくりと床に座り込む。

「どう、して…どうして? 一体…何がいけなかったの?」

「何だろうね。でも、人はどれだけ似ていてもその人自身にはなれないと言うことだよ、フユミ」

「その人自身には……なれ、ない………」

「あぁ、そうだ」

静かに、ゆっくりと言い聞かせる父の背を、ハルと一緒にただ眺めていた。


「ーーさぁ、フユミ。

私はこれから彼らに話をしなければならない。だから、君は自分の部屋へ戻るんだ。月森が着いて行ってくれる」

「奥様、お手を」

ピクリとも動かない母さんに優しく話をする父さんと、そっと手を差し伸べる月森さん。

母さんも、月森さんの手に自分の手を重ねようと少しずつ動き出した。


………だが、



ポツリ

「ーー違うわ」



「ぇ? っ! しまっ、奥様!!」


驚くほど力強く月森さんの手を叩き落とし、バッ!とこちら側へ一気に走って来る。


「ひっ」


「っ、フユミ!」


みんなが驚いて動けない中、父さんだけが母さんを前から抱きしめ、動けなくした。

「あなた!離して!!」

「っ、駄目だ、離すことはできない」

「どうして…!こんなのおかしいわ!?」

きつく抱きしめられた腕の中で、母さんが必死にもがく。

「っ、離して、離して、離して!離してよ!!」

「フユミ」

爪で引っ掻かれ拳で胸板を思いっきり叩かれても、父さんはただ……抱きしめていて。


「だって…こんなの、変よ。

ーーそう、変、変だわ、変、変、変……」


「……フユミ?」


ブツブツと小さい声で何かを呟く母さんの声が、シィ…ンとなった部屋に響く。

しかし、

それはスルリと出てきた母の声によって、止まった。


「そうよ、元はと言えば〝最初から〟だわ」


「ぇ?」


「双子だから…2人いるから、今こうなってるのよ。

だってそうでしょう?  ハル1人だけだったなら、こうはならなかったわ」


「フユミ、止めるんだ」



「私は、どうして2人産んだのかしら?」



「っ、フユミ!」



自分の体の中へ母さんを押し込めようと屈んだ父さんの肩越しに

母さんの目が、ただただ冷たく……俺の事を見ていて



その唇が、はっきりと ーー俺に言葉を紡いだ。






「ーーーー貴方なんて、産まなきゃ良かったのに」








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