ハルとアキ

花町 シュガー

文字の大きさ
上 下
314 / 536
反撃編

sideアキ: さよならの、時……? 1

しおりを挟む


〝龍ヶ崎との婚約は、破棄〟

〝もう赤の他人。
だから、これ以上迷惑をかけてはいけない〟

頭ではちゃんと分かってる。
なのに、心と体が思うように動いてくれなくて。

(迎えに来てくれた事、本当に嬉しかった)

震えが止まるまで、抱きしめて背中を撫でてくれた事も。
面と向かって本当の名前をちゃんと呼んでくれた事も。
あんなにたどたどしい自己紹介を、ひとつひとつ頷きながら聞いてくれた事も。
ネックレスを「これはお前にあげたんだ」と付け直してくれた事も。

全部 全部

(短い時間だったけど、凄く幸せだった……)

そんなレイヤを、もうこれ以上巻き込みたくない。
あんなにいいご両親に、被害を与えたくない。

だから、


「っ、レイヤ…はなして」

どうか、この手を離してほしい。

(早く父さんのところに行かないと、龍ヶ崎が)

父さんの元へ行ったら、俺は次どうなるのか…正直わからない。
でも、それでも龍ヶ崎は守りたい。

俺の大切な人たち。
この人たちを守れるのならば、ハルとまた離ればなれになってもまた遠くに飛ばされても……どうだっていい。
レイヤを…あのご両親を、傷つけなくは、ない。

(俺はもう、大丈夫だからっ)

ちゃんとレイヤと話せたのはほんの少しの時間だったけど。
それでも、もう充分すぎるくらいに幸せだから。


だから、もうーー





バタンッ!!



「よぉ、楽しそうな事してんじゃねぇか」





「っ、」


(この、声は……)


突然開け放たれた扉と、メイドたちの焦っているような声。

いつも通りの乱暴そうなその口調には、少しだけ笑みが含まれていて。


「さ、佐古くnーー



…………ぇ?」





振り返った先に、いつもの赤髪はいなかった。


「く、ろ……?」


燃えるような赤髪は元の黒色に戻り、あんなに付いてたピアスも全部外されていて。

コツ コツ とローファーではないビジネスシューズの音を静かに響かせながら、真新しいスーツに身を包んで歩いてくるのは ーー紛れもなく、佐古で。


「久しぶりだな、なんて顔してんだよお前」


「その髪、なんで……わっ」


一瞬で状況を把握したのか、トンっと体を押されレイヤの方へと戻された。
直ぐさま後ろからがっしりレイヤに抱きしめられる。

「お前はそっち側が良いんだろうが、ったく……」

「はぁぁぁ…」と溜息を吐きながら父さんと俺の間に入りこみ、呆れるように見てくる。

(佐古…だ……)

黒髪に、スーツ姿だけど。
その雰囲気や表情ひとつひとつは間違いなく、佐古のもので。


「さ、佐古く」


(どうして、ここに……)



「あぁ〝佐古〟? 誰だそれは」




「ーーぇ?」




ニヤリと、目の前の顔が面白そうに笑った。





「俺の名字は〝佐古〟じゃねぇ。


ーーーー〝Taylor(テイラー)〟だ」




「て、テイラー……?」



「あぁ。

正式には、〝T・Richardson(リチャードソン)〟だな」





「…………は?」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

同室のイケメンに毎晩オカズにされる件

おみなしづき
BL
 オカズといえば、美味しいご飯のお供でしょ?  それなのに、なんで俺がオカズにされてんだ⁉︎  毎晩って……いやいや、問題はそこじゃない。  段々と調子に乗ってくるあいつをどうにかしたいんです! ※がっつりR18です。予告はありません。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

運命と運命の人【完結】

なこ
BL
ユアンには10歳のときに結ばれた婚約者がいる。政略でも婚約者とは互いに心を通わせ、3日後には婚姻の儀を控えていた。 しかし運命と出会ってしまった婚約者はそれに抗うこともできず、呆然とするユアンを前にその相手と番ってしまう。 傷ついたユアン、運命の番たち、その周りにいる人々の苦悩や再生の物語。 『孕み子』という設定のもとに書かれております。孕み子と呼ばれる男の子たちは、子どもを産むことができる、という、それぐらいの、ゆる~い設定です。 3章ぐらいまでは、文字数が少ないので、さくさく読めるかと思います。 R18シーンありますが、下手くそです。 長い話しになりそうなので、気長にお付き合いいただける方にお楽しみ頂ければと思います(◞‿◟) *R18の回にRつけました。気になる方はお避け下さい。そんなに激しいものではありませんが…

処理中です...