305 / 536
反撃編
sideレイヤ: さぁ、行こう。
しおりを挟む抱きしめてる体の震えが止まるまで、背中をポンポン叩く。
ようやく落ち着いてから、アキが居なくなってからの話と今現在の話を全てした。
「そん…な……じゃぁ、今ハルたちは屋敷に…?」
「あぁ、そうだ」
「早く行かなきゃ………っ、くしゅっ」
「はぁぁぁ、ほら」
上着を脱いで掛けてやる。
「この寒空の下何処に屋上で寝る奴がいんだよ…」
「ご、ごめんなさぃ……」
しゅん…となってるこいつを見るのは、本当に久しぶりで。
(あぁ、これだ)
俺が半年間ずっと一緒に過ごして、たくさんぶつかって笑い合って、好きだと告げたのはこの人間だと
俺の全細胞が告げている。
「なぁ、アキ」
「っ、な、なに……?」
「少しだけ、自己紹介しようぜ?」
〝アキ〟としてのお前に会うのは今日が初めてだから。
だから、ほんの少しだけ。
「お前はもう俺のことなんか知り尽くしてんだろ。だからほら、お前の番だぞ」
「ぇ、えっ!」
「アーキ。自己紹介、してくんねぇの?」
テンパる顔に苦笑して、その頭を撫でる。
「ぁ……っ、えっと…その」
「ん?」
「お、俺…ちゃんと自己紹介とかしたことないから…わかんない……」
「っ、クク、そうか。
ーーじゃあ、俺が一番最初にそれを聞けるんだな」
初めてならば、仕方ない。
ヒントをくれてやるか。
「お前の名前は?」
「俺の名前は……小鳥遊 アキ…です……っ」
ぎこちない、こいつの初めての自己紹介。
「年は?」
「じゅ、16」
「好きな料理は?」
「シチュー」
「嫌いな料理は?」
「嫌いな…料理……わ、わかんない…」
「そうか、じゃあこれからいろんなもの食って見つけていかなきゃな。 苦手なものは?」
「苦手、は……雷…です」
「あぁ、知っている」
ポケットから取り出したものを、目の前の細い首にチャリっと付けてやった。
「っ! これ……」
「あれだけ〝外すな〟つったのにどっかの誰かが外しやがるから、この俺がわざわざもう一回付けてやったんだ。感謝しろよ。ったく…」
「で、でもっ、これってハルのなんじゃ……」
「あの時はお前の本当の名前を知らなかったからな。
俺は、お前にあげたつもりだったんだ」
「ーーっ、」
「ぅ、そ…」と呟きながら恐る恐る翡翠の玉を握る両手を、俺の両手で包み込む。
「いいか。もう絶対ぇ外すんじゃねぇぞ」
「~~~~っ、ぅん」
「誰かにこんなプレゼント貰ったのも、初めてか?」
「んっ。俺だけに…何かを買ってきてもらえたのは、はじめて……」
「そうか」
折角治ったのにまたグスッと涙を流し始める体を、抱きしめてやる。
(これから、いろんなことをしよう)
水族館や動物園や遊園地や…夏祭りにも行って
海や山へ遊びに行って
美味いものたくさん食べて、プレゼントなんかもいっぱい買って
そうして、溢れるほどの思い出を…つくってやりたい。
ーーその為にも、
ガチャッ
「レイヤ様、そろそろお時間です」
「あぁ、分かった。
アキ、行けるか?」
「っ、はい。行きます……!」
グイッと大きく涙を拭った手を取って、立ち上がらせる。
(俺は、こいつじゃなきゃ駄目だ)
抱きしめた時、その目に見つめられた時、アキがつくる表情ひとつひとつに、俺の体や心が喜んでいる。
一生、もう離したくない。
離れるなんて…もう無理だ。
ーーだから、俺はこいつの〝未来〟を、もらいに行く。
ギュッと繋いでいる手に力を入れると、同じくよく知った体温が握り返してくれて。
(あぁ、大丈夫だ。絶対)
こいつが隣にいるだけで、力が湧いてくる。
そうして強く頷きながら
共に歩いて、屋上を後にしたーー
0
お気に入りに追加
352
あなたにおすすめの小説
同室のイケメンに毎晩オカズにされる件
おみなしづき
BL
オカズといえば、美味しいご飯のお供でしょ?
それなのに、なんで俺がオカズにされてんだ⁉︎
毎晩って……いやいや、問題はそこじゃない。
段々と調子に乗ってくるあいつをどうにかしたいんです!
※がっつりR18です。予告はありません。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
運命と運命の人【完結】
なこ
BL
ユアンには10歳のときに結ばれた婚約者がいる。政略でも婚約者とは互いに心を通わせ、3日後には婚姻の儀を控えていた。
しかし運命と出会ってしまった婚約者はそれに抗うこともできず、呆然とするユアンを前にその相手と番ってしまう。
傷ついたユアン、運命の番たち、その周りにいる人々の苦悩や再生の物語。
『孕み子』という設定のもとに書かれております。孕み子と呼ばれる男の子たちは、子どもを産むことができる、という、それぐらいの、ゆる~い設定です。
3章ぐらいまでは、文字数が少ないので、さくさく読めるかと思います。
R18シーンありますが、下手くそです。
長い話しになりそうなので、気長にお付き合いいただける方にお楽しみ頂ければと思います(◞‿◟)
*R18の回にRつけました。気になる方はお避け下さい。そんなに激しいものではありませんが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる