ハルとアキ

花町 シュガー

文字の大きさ
上 下
296 / 536
リクエスト番外編 1

その5: 雷の話

しおりを挟む


---------------------------------------------------------
◯リクエスト
雷が鳴ってレイヤが部屋を訪ねてくるシチュエーションで
---------------------------------------------------------
※文化祭編の後夜祭後(ハルとレイヤの想いが通じ合った後らへん)の時間線です。



【side 佐古】



カッ!

ドォォンッ!!


「うぉぉ…すげえ音だな」

(今のはぜってー近くに落ちたわ)

真夜中の寮の部屋。
雷の音がやばすぎて目覚めてしまった。
確かに下校中パラパラ雨は降ってたが、まさかそれがこうなるとは……

自室のドアを開けてリビングに向かう。
暗がりの中、カーテンの向こうは嵐のように雨と雷が鳴り打ち付けていてとにかくうるさい。

冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り、口を付けながら相部屋のドアを見つめた。

あいつは起きてこねぇのか?
こんだけうるせぇのによく目が覚めねぇな、おい。
ま、逆にいいことかもしれねぇな。

あーあ、俺も疲れたしもうひと眠りすっかな。

クワァ…と欠伸をしながら、自室のドアを開けようと手をかける。

ーーと、


コンコンッ


「は?」


扉を外からノックされるような音が聞こえた。

(今、真夜中…だよな)

寮の消灯時間はとっくの昔に過ぎてる。
窓の外がうっせぇし、それと聞き間違えたか……?


コンコンッ!


(いや、ちげぇな)

今度は強めに叩かれて、思わず眉を寄せた。

「こんな時間に誰なんだよ、一体……」

丸雛と矢野元?いや、あいつらはこの嵐の中2人で大人しくしてんだろ。
星野か?怖くなって尋ねてきたとか?
いや、確か同室者がいい奴っつってたしな。
そいつがどうにかしてそうだ。

となると、一体誰だ………?

(ま、開けてみっか)

今起きてるのが俺で良かった。
もしあいつが開けて不審者だった場合、溜まったもんじゃない。

カチャリと内側の鍵を回して薄く扉を開ける…と、それにガッ!と勢いよく手を入れられ思いっきりドアを開かれた。

「っ………て、は?」


「佐古か」


(会長…だと?)

こんな真夜中に、どうして龍ヶ崎レイヤが部屋の前に突っ立っている?

「悪いな、上がるぞ」

「は? って、おい」

呆然とする俺の隣をすり抜けて、あっという間に靴を脱ぎ部屋へ入っていく。
乱暴に鍵を閉め奴の後を追いかけると、ハルの部屋の前に立っていた。

「あいつはこの中か?」

「…あぁ、そうだ。このうるせぇ中起きてねぇぞ」

「そうか、分かった」

「多分寝てるはずだから静かにしとけよ」と言う前に、会長は思いっきり強くドアを開けやがった。


ガチャッ!!


「はっ!? てめっ」


「ハル。ハルいるか?」


部屋に入るこいつの後を追うと、こんもり丸く盛り上がった布団があった。

「ハル」

会長の手が盛り上がった部分を撫でると、びくりとそれが大きく震える。

「なぁ、顔…見せれるか?」

そろりそろりと動き始めるも、大きな雷の音でビクッとまた動きを止めてしまった。

「大丈夫、大丈夫だ。俺は此処にいる」

もぞもぞと会長の手が布団の中に入っていった。

(手を、握ってんのか…?)

やがてようやく出てきたその顔は、涙でぐちゃぐちゃになっていて。

「レ、ヤ……っ」

「あぁ、俺だ。ひとりでよく耐えてたな」

よしよしと、奴が空いてる方の手でその涙を拭った。


(ハル、雷が苦手だったのか…)

それも相当。
なんかトラウマでも抱えてそうなレベルで。
それでこいつが尋ねて来たのか。

成る程、納得がいった。


「ん、ちゃんとネックレスの玉握ってたんだな」

胸元をぎゅぅぅっと握っているハルに、会長が柔らかく話しかける。

コクンッ!と大きく頷いた頭を「偉かったな」とそっと撫でてやっていた。

「ほら、もう俺が来たから手を離せ。次は俺のこと掴んどけ」

「っ、レイヤ…」

「ん。ハル、おいで」

ガバッと抱きついて来たハルを優しく包み込んで、「佐古」と名前を呼ばれる。

「今日はこのまま此処に泊まるから、そのつもりでな」

「……好きにしろ」

カタカタと小さく震えるハルを抱え込んだまま布団に入っていく会長を見届けて、静かにそのドアを閉めてやった。


(気づかなかったな)

奴が来てくれて、正直良かったのだろう。

自室に戻りベッドへ潜る。

明日は、いい天気だといいな。
この嵐は、夜のうちにどっかへ行ってくれないだろうか?

ってか明日の朝メシどーすんだ。
あいつ来てるし、あいつの分も作んのか?

謎だ………だが。

(多分あいつら起きてこねぇだろうし、作り置きだけして先学校行っとくか)

無いよりましだろ。
文句言うんじゃねぇぞ、会長。

明日の朝は何を作ろうかと考えながら、ゆっくりと目を閉じたーー





fin.








「わぁ!佐古くんが朝ご飯用意してくれてる!!」

「俺の分もあんのかよ、すげぇな。しかもバランスいいしおかずの品数も多いし彩りも…」

「炊飯器が2つ!? ぁ、こっちのご飯は柔らかい…お粥用なのかな…これって、もしかして僕の為……?」

「どんだけマメなんだあいつは………」

愛する恋人が同室者に胃袋を掴まれないかと、ただただ心配になってしまうレイヤでした。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

同室のイケメンに毎晩オカズにされる件

おみなしづき
BL
 オカズといえば、美味しいご飯のお供でしょ?  それなのに、なんで俺がオカズにされてんだ⁉︎  毎晩って……いやいや、問題はそこじゃない。  段々と調子に乗ってくるあいつをどうにかしたいんです! ※がっつりR18です。予告はありません。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

開発されに通院中

浅上秀
BL
医者×サラリーマン 体の不調を訴えて病院を訪れたサラリーマンの近藤猛。 そこで医者の真壁健太に患部を触られ感じてしまう。 さらなる快楽を求めて通院する近藤は日に日に真壁に調教されていく…。 開発し開発される二人の変化する関係の行く末はいかに? 本編完結 番外編あり … 連載 BL なお作者には専門知識等はございません。全てフィクションです。 ※入院編に関して。 大腸検査は消化器科ですがフィクション上のご都合主義ということで大目に見ながらご覧ください。 …………

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

処理中です...