ハルとアキ

花町 シュガー

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準備編

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小鳥遊社長とよく似た瞳の色。
奥様と一緒のサラサラとした髪。
そして、2人の子どもとそっくりの……齢3歳程の容姿と声。

(どういう、事だ)

まるで意味がわからない。
眼の前で〝?〟を浮かべてるこの子は、先程会場にいた2人の子どもなのか…?

(……いや、違うな)

着ている服が、違う。

それならば、この子は一体何者だ?

サァッと背筋が冷える。
普通、他人でもこんなに似るなんて事…有り得ない。
それでは、小鳥遊夫妻たちと血が繋がっている?

(馬鹿な。小鳥遊の息子はひとりだと、公言されている)


それならば、この子は、一体……?



先に動き出したのは、トウコだった。

『こんばんは。ここで何をしているのかしら?』

綺麗なドレスが汚れることを厭わず、ゆっくりと地面に腰を下ろす。

『あのねぇ、おえかきしてるの!』

『おえかき? あら、本当ね!とても上手だわ。あなたも見てみて』

『っ、あぁ。……おや、本当だねぇ、とても上手だ』

『わぁっ、やったー!』

パァっと明るくなる幼い顔。

本当は、暗くて何が描かれてあるのかまるでわからない。思わず咄嗟に吐いた嘘だ。
だが、こんな暗がりの中ひとりで遊んでいるこの子が嬉しそうに笑ってくれたことに、ただ安心した。

トウコの隣に腰を下ろすと、その子から見えない角度できゅぅっと手を握られた。
その手は微かに震えていて…安心させるようにぎゅっと強く包み込む。

『ねぇ、これは何を描いてたんだい?』

『えぇっとねぇ…これはおとーさま!これはおかーさまで、これはハルで、これはぼくなの!!』

『あ!つきもりさんかくのわすれたー!』とその子はまた石を掴んで懸命に地面に絵を描き始めた。

『〝家族〟の絵を、描いているのかい?』

『うんっ、そうだよ!』

〝家族〟

(やはり、この子は小鳥遊社長とは家族関係にある)

お父様やお母様と呼んでいたのは、小鳥遊夫妻の事だ。

『ねぇ、どうしてこんな場所でひとりで遊んでいるのかしら。
その絵が描き終わってからでいいわ。私たちと一緒に、お母様たちのところへ戻りましょう?』

優しくそう伝えると、途端にピタリと石が止まった。

『もどっちゃ、だめなの』

『え?』

『きょうは、おやしきにそとのひとがいっぱいくるから…ハルも、いそがしいから。だから、ひとりであそんでるの』

そこまで言って、ハッと大きく目を見開かれた。

『おじさんたち、そとのひと!?』

『っ、』

『ぁ…どうしよ……、みつかっちゃ、だめなのに…っ』

カタカタと震え出して目に涙を浮かべ始めたその子を、私から手を離したトウコがぎゅうっと思い切り抱きしめた。

『大丈夫よ!おばさんたちね、内緒話が得意なのっ。だから絶対誰にも言わないわ』

『……ほんと?』

『えぇ本当よ。なんなら指切りしましょっか。ほら、小指出して?』

『!! うんっ!』

安心したように再び笑い出すその子を見てホッと安堵する。


〝見つかっちゃ、いけない〟


(今の言葉で、大体のことは予想がついた)

恐らく、小鳥遊の子は2人だ……それも双子。
ここまで似ているのだ、双子以外にありえない。

だが、何故かこの子の存在は隠されてており、表向きは〝ひとり息子である〟と公言されている。

(何故だ?)

昔ながらの双子特有の不思議な風習?
いや、小鳥遊にその様なものは無いはずだ。

それでは、この子を隠すことに…一体何のメリットがある……?


『ねぇ』

『ん? どうしたんだい?』『なにかしら?』

『ハル…だいじょうぶだった?』

『『え…?』』

屋敷がある方を見ながら、その子は心配そうに顔を歪めた。

『きのうね、おねつがあったの。でもきょうのぱーてぃーにはさんかしないといけなくて……いま、がんばってるの』

『熱が…』

『うんっ。ほんとはぼくもいっしょにいてあげたかったんだけど……でも、できないから…っ』

再び目に涙を浮かべる子の頭を、トウコが優しく撫でる。

『あのねっ、ハルにあったらね、むりしないでって…きつかったらベッドいきなよってぼくがいってたって、いって?』

『えぇ、分かったわ』

『ハルくんは頑張り屋さんなんだね、私たちが言っておこう』

『!! ありがとうっ!』

こんな暗い庭の奥の、忘れ去られたような古い噴水の陰に隠れてひとりで遊んでいるこの子は、『自分より兄弟の方が心配だ』と言う。

それに、胸が酷く締め付けられてどうしようもない。


『………ねぇ』

『? なぁに?』


『君は、一体 ーーーー』



ガサガサッ



ビクッ

『っ!』

『…誰か、来るようだね』

『ぁ、かくれなくちゃ……っ』

『っ、待って!』

気を取られている隙に、パッと離れていかれてしまった。

『ぼくにあったこと、ないしょにしててっ。ねっ、ゆびきり!』

『ぁ、ちょっーー』

『トウコっ』

『あなた!手を離して』

『無理だ、君が行ってしまったらあの子の立場が無くなってしまう』

『っ、でも……』

パタパタパタ…と走って行った方向を見ると、もうそこにあの子は居なくて。

『…多分、屋敷の者が私たちを探しているんだよ。だから戻ろう、トウコ。ここを離れるんだ』

『ーーっ、わかったわ……』


そうして上手いこと噴水の場所を離れて、屋敷の廊下で召使いにわざと出会い、会場へ戻った。



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