ハルとアキ

花町 シュガー

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準備編

sideタイラ: 僕の気持ちは

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『タイラっ』

〝ハル様〟は、ハル様じゃ……なかった。



ベッドの中に潜って、考える。

今日、初めて本物のハル様に会った。
今までいたのはハル様の弟だったのだと、教えてくれた。

(弟……)

今まで、僕たちが違う名前で呼ぶのをどう思っていたのだろうか。

自分を偽って、必死に学園で生活して……


ポツリ

「〝アキ〟…様……」


本物の名前を呼ぶと、トクリと胸が跳ねた。



僕がハル様の親衛隊に入ったのは、食堂での強いお姿を見たからだ。
会長相手に一歩も譲らず細い体で真正面からぶつかっていくハル様に、純粋に惹かれた。

それから、隊長である月森先輩に副隊長任命のお話をもらい副隊長になって。

(初めてお話しした時は、びっくりしたなぁ……)

『親衛隊を掛け持ちOKにしてください』と言われ、先輩と一緒に凄く驚いたのを今でも覚えてる。

(今考えると、きっとあれは本物のハル様の為だったんだな……)

入れ替わったハル様に多くの味方ができるように
ハル様に今後何かがあっても、学園の生徒みんなが助けてくれるように

その為に、他の親衛隊の子たちも仲間に入れて接したんだと思う。

(そこまで考えて、動かれてたのか……)


「僕は、何も気づけなかったな………」


ただただ楽しそうに笑ってるハル様を支えたい一心だった。
でも、それはハル様でなくアキ様で。

(アキ様は、何を思って……笑っていたのだろう?)

胸がきゅぅっと切なくなって、布団の中で体を丸くする。


僕の家は、中流階級くらいに値すると思う。
丸雛や矢野元、勿論小鳥遊や龍ヶ崎とは比べられない程に小さい。

そんな僕が、小鳥遊に挑むなんて……


ポソッ

「無理、だよ……」


無理だ。
家が潰れてしまう。

母さんや父さん、それに弟たちまでいる。
万が一失敗して路頭に迷わせたくはない。

(でもっ、)

アキ様がこれまで築き上げてきたものを壊すという巨大なリスクを犯してまで話をしてくれた、ハル様を

ーー支えたいと思っている、自分がいる。


生徒会室でのあのハル様は、まるで食堂でのアキ様のようだった。

勇敢で真っ直ぐで、それでいて人のために精一杯で、本当にお優しい。

ハル様は、アキ様を小鳥遊の息子として両親に認めさせる為、動かれている。

これまで公言されて来なかった、アキ様のこと。
ハル様はアキ様の為に、そしてアキ様はハル様の為にこれまで頑張っていた。

(あぁ、本当によく似てらっしゃる)


「…………いいの、かな……」


心から支えたいと、協力したいとは思っている。
でも、家の事を考えると100%サポートする事は…きっと無理だ。

(こんな曖昧な答えで……いいのかなっ)

『みんなの心に〝迷い〟がある』とハル様は仰っていた。
『迷いは失敗の元になるから、先ずはその迷いを消してからこれからの話をしたい』と。

(本当、その通りだ)

どうしてあの双子は、こんなにも真っ直ぐなんだろう。
人を惹きつける力をたくさん持ってる気がする。

(……明日、朝起きたら言いに行こう)


〝家族を守りたい。でも、ハル様アキ様の事も出来る限りサポートしたい〟


これが、僕の気持ち。
曖昧ではあるけど、迷いはない……でも。

(もしハル様に「駄目」って言われたら、その時は大人しく今回の件から身を引こう…)

頭の中でシミュレーションしながら、緊張して眠りについた。








「………うんっ、そっかぁ」

「曖昧な答えでっ、ごめんなさい……
でもどうしても家の事を考えると、この答えしか出てこなくてーー」


「ありがとうタイラっ、これからよろしくね」


「………ぇ、」


「こんな答えていいんですか?」とハル様の顔を見ると、優しく微笑んでいた。

「僕〝100パーセント協力してほしい〟なんてひとことも言ってないよ。家の事があるしね、その答えは当たり前だと思う。
あのね、50%でも25%でもいいんだ。出来る限りで構わない。

〝協力したい〟っていうその心が、僕は充分嬉しいんだよ?」

「ふふふ」と笑いながら頭を撫でてくれる。

「無茶なお願いごとしちゃってごめんね。いっぱい考えてくれてありがとうタイラ。
これから、出来る限りでいいから手伝ってくれると嬉しいな」


「~~~~っ、はぃ、ハル様!」


ボロッと大粒の涙がこぼれ落ちた。

迷いはないけど曖昧な回答。
〝出来る限り〟なんていう、怒られてもしょうがない答え。

それなのに、「それで良いんだよ」と許してくださるハル様は本当に大きい方だと思った。

(僕は、弱いなぁ……っ)

いつか、いつかハル様のように…アキ様のように、大きくなりたい。

今、頭を撫でてくださってる温度がもうひとつ増えてくださるように
帰って、来られるように……精一杯のサポートをしようと

そう、心に誓ったーー







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