ハルとアキ

花町 シュガー

文字の大きさ
上 下
273 / 536
準備編

sideハル: 反撃するという〝覚悟〟

しおりを挟む




「ーー以上が、真実です」


話し終えて、呆然とするみんなを見つめる。

(まぁ、当たり前…だよね……)

昨日までここにいて当たり前のように名前を呼んでいた人が、実は全くの別人で、別の名前だったなんてーー


チラリとレイヤを見ると、彼もまた呆然としていて、服の上から心臓のあたりを押さえる。

「……要するに、お前が安心して過ごせる環境と婚約者との関係をうまく整えるために、弟はこの半年間学園に居た、と」

「はい、そうです。
それが整ったので、昨日交代になりました」

「……そう、か…………」

流石は先生と言うべきか、いち早く飲み込み梅谷先生が状況を整理してくれる。

そして、再び問いかけてくれた。

「……おい。そうだとしたら、これはバラしちゃいけねぇんじゃねぇのか? アキ…だって、誰にもバレることなくやり切ってんじゃねえか。

それを、どうしてわざわざお前がバラした。これまでのアキの努力が台無しだぞ?」


「ここから、なんです」


「は?」


僕が、此処にみんなを呼んだ理由。

それはーー



「アキを救う為に、手を貸して欲しいんです」



「は………?」

「おい、どういうことだよ」

「僕は、小鳥遊から…母さんや父さんから、アキを救いたい。助けたいんです」

アキが幸せに笑って過ごすためには、この取り巻く環境を変えなければいけない。


「母親や父親からアキを〝救う〟って……

お前、何言ってんのかわかってんのか………?」


「はい。僕は、


ーーーー〝小鳥遊〟に、反撃したい」




「っ!」



〝アキを幸せにする〟

本当は母さんの原因を突き止めるのが1番だったけれど、どれだけ調べても母さんが飲んでる薬を見ても結局わからなかった。
だから、それならば父さんと母さんに無理やりにでもアキのことを認めさせ、〝小鳥遊の息子はふたりである〟という事を公言してもらい、アキを〝龍ヶ崎レイヤの正式な婚約者〟へとしてほしい。


「僕は、〝弱い〟」


(そう、僕は弱い)

僕1人では、失敗するリスクの方が大きい。
だから、アキの作った人脈を利用させてもらって、少しでもそのリスクを減らしたい。

そして、アキの幸せを確実に掴み取りたい。

「その為にも、早くアキを遠くから連れ戻してーー」

「待て、アキはお前の屋敷にはいないのか?」

「っ、いません…昨日、遠い親戚の元へ引き取られていきました」

「なん、だと……っ、場所は知ってんのか?」

「勿論です」


知らないはずがない。

大切なアキの居場所を、僕が知らないわけがない。
両親の会話や書類から既に特定済みだ。


………でも。


「でも、まだ言えません」


(まだ、言えない)



ポソッ

「…んでだよ………」



「ぇ?  ーーっ!」



グイッ!

「何で、言えねぇんだ!」


「っ、おい、龍ヶ崎やめろ!」


「龍ヶ崎くん!」


ここまでひと言も喋らなかったレイヤに胸ぐらを掴まれ、至近距離から睨まれる。

「俺が、すぐにあいつを迎えに行く!だから場所を教えろ!」

「ぃ、嫌だ!」

「なんでっ、」


「だって、レイヤにはまだ〝覚悟〟が無いからっ!」


「は……? 覚悟…だと…………?」


再び呆然とするレイヤの腕を思いっきり外す。


「そうだ…まだっ、レイヤには覚悟が無い。

だって、〝心が迷ってる〟」


「っ、」


「レイヤだけじゃない。みんな〝迷ってる〟」


僕は、これまでずっとアキを救う為準備してきた。
アキを幸せにしたいと、その一心でここまで耐えて、待ってきた。


「チャンスは、一回だけだと思う」

チャンスは、一回。
これを失敗したら、もうアキは戻っては来ないだろうし、僕もまた屋敷に連れ戻されるだろう。

「だから、もし僕に協力してくれるなら、生半可な気持ちで臨んで欲しくない」

ーー小鳥遊は、強い。

それは、1番近くで見てきた僕が1番知ってる
そんな迷いのある心で、勝てる相手じゃない。

真っ直ぐにレイヤやみんなを見つめながら、ゆっくりと言葉を口にする。

「きっと、これはそんなに直ぐには受け入れられないと思う。けど、早く受け入れてもらえると…嬉しい」

遠くにいるアキが、心配でたまらない。
早く助けにいきたい…抱きしめてあげたい。

その為にも、難しいだろうけど…早く、この状況を理解してもらいたい。

そして、もし良かったら……僕に協力してほしい。


小鳥遊は、龍ヶ崎と並ぶ大企業だ。
それに真っ向から喧嘩を挑もうとしている。

自分の家の事だって、あると思う。
けれど、

それでも、みんなにとってアキと一緒に過ごした半年間がキラキラ輝く思い出になっているのだとしたら

どうか、



「ーーーー僕に、力を貸して下さい」




祈るように、深く頭を下げた。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

同室のイケメンに毎晩オカズにされる件

おみなしづき
BL
 オカズといえば、美味しいご飯のお供でしょ?  それなのに、なんで俺がオカズにされてんだ⁉︎  毎晩って……いやいや、問題はそこじゃない。  段々と調子に乗ってくるあいつをどうにかしたいんです! ※がっつりR18です。予告はありません。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

運命と運命の人【完結】

なこ
BL
ユアンには10歳のときに結ばれた婚約者がいる。政略でも婚約者とは互いに心を通わせ、3日後には婚姻の儀を控えていた。 しかし運命と出会ってしまった婚約者はそれに抗うこともできず、呆然とするユアンを前にその相手と番ってしまう。 傷ついたユアン、運命の番たち、その周りにいる人々の苦悩や再生の物語。 『孕み子』という設定のもとに書かれております。孕み子と呼ばれる男の子たちは、子どもを産むことができる、という、それぐらいの、ゆる~い設定です。 3章ぐらいまでは、文字数が少ないので、さくさく読めるかと思います。 R18シーンありますが、下手くそです。 長い話しになりそうなので、気長にお付き合いいただける方にお楽しみ頂ければと思います(◞‿◟) *R18の回にRつけました。気になる方はお避け下さい。そんなに激しいものではありませんが…

愛欲の炎に抱かれて

藤波蕚
BL
ベータの夫と政略結婚したオメガの理人。しかし夫には昔からの恋人が居て、ほとんど家に帰って来ない。 とある日、夫や理人の父の経営する会社の業界のパーティーに、パートナーとして参加する。そこで出会ったのは、ハーフリムの眼鏡をかけた怜悧な背の高い青年だった ▽追記 2023/09/15 感想にてご指摘頂いたので、登場人物の名前にふりがなをふりました

処理中です...