ハルとアキ

花町 シュガー

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さよなら編

sideアキ: さよなら 1

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バタン!!


「あぁ、帰ったか」

「アキ」

「父さん、母さんっ! ハルはーー」


「制服を脱ぎなさい、アキ」



「ーーーーぇ?」



屋敷の扉を開けると玄関には両親が待ち構えていて、俺を玄関で待つくらい事態は深刻なのだろうと瞬時に理解した。

なのに、

「ぇ、母…さん……? 一体何を………」

「聞こえなかったのアキ? 〝制服を脱ぎなさい〟と言ったの」

「っ、な、んで……」

「何で? そんなの決まってるじゃない。貴方のものではないからよ」

「ーーっ、」


ドクリと、心臓が嫌な音をたてる。


「…ねぇ、父さん。ハルは……」

「ハル?ハルがどうしたのか?」

「ぇ………?」


(ハルでは、ない?)


ハルで呼び出されたんじゃ、ない?
ってことは、ハルは元気なのか?

(いや、自分の目で確かめたい)

酷いことを、言ってしまった。
まだあんな顔をしてないか、まだ悲しんでないか…不安で。


(〝仲直り〟が、したい……っ)


もう、こんな思いするのはたくさんだ………


「ぁの、俺ハルのところへーー」

「そんな時間はないわ」

「………ぇ? どう、いう……」

「外に車を待たせているの。だから、貴方は早く制服を脱いで〝準備〟をしなさい」

「じゅん、び……?」

「そう。


ーーーーこの家から出て行く〝準備〟を」




「…………ぇ?」




日本語の意味が、理解できない。

息がうまく吸えなくて、世界の音が一気に遮断される。

それなのに、両親の声だけは…よく聞こえて……

「だってそうでしょう? この先レイヤ君が屋敷に遊びにきた時、ハルと同じ顔の子がいたらきっとびっくりするわ?」

「うちの遠い親戚が、アキのことを引き取ってくれると言っていてね。だから、その家まで送り届けてくれる車を待たせてあるんだ」

「さぁ、早く準備なさい」と何でもないことのように言い放つ2人を、呆然と見つめる。

「……アキ?」


(俺、は……)


あぁ、俺は何者なんだろう?

何で、俺はこの屋敷にいるの?

何で、こんな事になってるんだっけ?

(俺は………)



〝俺〟はーー







ーーーーチャリッ




「っ、」


不意に聞こえた、ネックレスのチェーンが揺れる音。


(そうだ、俺はーー)


世界の音が一気に戻ってきて

服の上から、それを痛いくらいぎゅぅぅっと握りしめる。


(俺は…俺には、

まだ、やる事がある)



「ーー母さん、父さん」


「…何かしら、アキ」「……?どうしたんだい?」



「俺を、ハルのところへ、行かせてください」



真っ直ぐに、2人を見つめる。


(まだ…まだだ)

このままじゃ、行けない。
ハルと喧嘩したまま終わるなんか、そんなのは駄目だ。

(俺が行く事が……もう、決まっているのなら)

もう、覆せないのならば。


「ほんの、少しの時間で…いいんですっ」


1分でも、30秒でもいい。

ハルの顔をみて、「ごめんね」と謝って、仲直りしてから…去りたい。

だから、

だからせめてーー



「お願いしますっ!父さん、母さnーー」




パシンッ!




「ーーーーもうやめてっ!!」








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