ハルとアキ

花町 シュガー

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さよなら編

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それからまたわいわい話をして、「失礼いたします」と料理が運ばれてきてーー

「う、わぁ………」

量が少なめで軽い感じの御膳を想像してたのに、出てきたのは目の前に溢れんばかりの綺麗な器やお皿たち。
その一つ一つにちょこちょこっと料理が乗っていて、数品がとても多い。
それなのに、少量に可愛く盛られている為量が少なく食べきれるサイズだ。

(凄い…こういう意味だったんだ……)

「ふふふ。ねっ、可愛いでしょう?」

「はいっ!とても」

「器やお皿がとても綺麗だろう? 和食はこうやって食器類でももてなしてくれるから、見ていて楽しいよねぇ」

「ここのは特にセンスがいいしな」

「そうねぇ。きめ細やかさよねぇ」

(本当、机の上がキラキラ輝いてるように見える…
何時間も見てられそう……)


『凄いっ!僕これ何時間でも見てられそう……』

『それ貰った時俺も言った』

『あ、やっぱり?』

『もー真似しないでくれますかー?』

『えぇっ、しょうがないよー僕たち双子なんだし』

『クスクスッ、そうだなっ』


(ーーっ、)

昨日の会話が突如蘇ってきて、思わずネックレスに触れる。

「さっ!食べちゃいましょっ」

「そうだねっ、いただこうか」

「ほらほらハルくん、お箸持って」

「ぁ、は、はいっ、いただきます」

口に入れた料理は、凄く上品な味がした。





「それにしても、やっと会えたよハルくん…いやぁ長かったなぁ」

「本当よねぇ」

「ぇ?」

食べながら「はぁぁ…」とため息を吐かれる。

「顔合わせでも会えなかったし、体育大会は不参加だと言われるし、夏休みは学園から出ちゃ駄目とのことだったし、文化祭は体調不良だとクラスの子から聞いたし……」

「わ、文化祭までいらっしゃってたんですね!」

「えぇそうよ。1日目は仕事があってね? 私たちは2日目に足を運んだのだけど、ハルくんはいなくて…」

「いやぁ運に身を任せたはいいが、正直ここまで会えないとは思ってなかったよ」

「す、すいません……」

「いやいや!謝ることは無いんだよ。所詮は神のイタズラさ」

「私たちでは計り知れないところの問題なのだから。それに、こうして今会えているからいいのよ。ね?」

「ふふっ、はい」


カサリ…

『龍ヶ崎様』


「ん? なんだろう」

「私がまいります。どうぞそのままで」

スッと月森さんが立ち上がって、軽く障子を開けた。

「社長。今この料亭に、絹川(キヌカワ)様と的羽(マトバ)様がいらっしゃったと」

「わぁ凄いタイミングだね。絹川と的羽か。ふむ……

ーーレイヤ」

「ん? なんだ」

「ちょっと絹川と的羽へ挨拶に行っておいで。次にレイヤが出席する会議は、彼らとのものなんだ」

「そうなのか?」

「そう、まさかここで一緒になるなんてね。これも縁だ。事前に挨拶をしていた方が当日も気が楽だろう」

「元々2人ともレイヤにかなり興味を持っていたからね。いい機会だ」と日本酒が入った徳利(とっくり)とお猪口(おちょこ)を2つずつ頼んで、レイヤに持たせた。

「おい、俺高校生だぞ」

「お酌するくらいは大丈夫だよ。それにここの料亭だしね。さっ、いってらっしゃい」

「気をつけてねレイヤ」

「……ハルのこと、とって食ったりすんなよ」

「っ、あははは!大丈夫、何もしないよ」

「本当だろうな… ハル、なんかされたら大声出せよ。すぐ駆けつけっから」

「クスクスッ、大丈夫ですよレイヤ」


カラリと出て行くのを見送って、改めて料理に向き合った。


「もう、ごめんなさいね。うちの子凄く束縛しちゃってないかしら…」

「いやぁ、まさかレイヤがあぁなるとはなぁ。きつくないかい?言いづらかったら私たちに言うんだよ?」

「いえっ、本当に大丈夫です!学園ではそんなにないんですよ?」

学年も違うし、イロハたちと登下校しても怒んないし、お昼だって基本別々で、時々一緒に食べるくらいだし……

「僕自身が外に慣れていないので、きっと好きにさせてくれてるんだと思います。 

レイヤは、凄く優しい人です」


いつも見守ってくれて、守ってくれる。


「ーーそう、か。 そうか……うんうん」


一瞬びっくりしたように目を見開かれて、それから嬉しいというように目の前の顔がほころんだ。

「ふふ、レイヤを任せて正解だったわ。

ーーーーねぇ、〝貴方〟」


「? なんでしょうか」


「私たちが学園に到着する前、どうしてあんなところに立ち尽くしてたのかしら?」


「っ、え………?」


「レイヤが駆け寄って訳を聞こうとしていたようだけど、その時の貴方の顔、真っ青だったわ」

「もしかして、レイヤには言えないことなんじゃないのかい…?」

「そ、れは……っ」

(鋭い………)

もしかして、あんなにタイミングよく声をかけてくれたのって、俺を思ってのことだったのか……?

「私たちにも、言えないことかしら…?」

静かに、優しく問いかけられる。

「そのまま抱え込むのもいいが、辛くはないかい?
あんなに途方も無いように立ち尽くして……本当、消えてしまいそうだったよ」

「っ、」

ギュッと、思わずネックレスを握った

(……言っても、いいの…かな………?)

ハルとの喧嘩なんて初めての事で、考えても考えても1人じゃ到底答えは出なそうにない。

(相談しても…いいの、かな……っ)

レイヤに言ったら話途中にボロが出そうで怖いけど、初めて会った人たちに言うのなら、大丈夫なのかな…

(でも…もし、バレちゃったら……)

でも、俺はーー


『アキっ』


(~~~~っ、ハル……)


「…そんなに、辛そうな顔をしないでおくれ」

「お屋敷であったことなのかしら。お屋敷にいるお母様やお父様には言えなくても、ここにいる〝第2のお母さんとお父さん〟には、話してくれないかしら」

(第2の、お母さんとお父さん…?)

下へ向けていた目を正面に向けると、そこには暖かい笑顔を顔を浮かべて俺を見つめてる人たちがいた。

「ーーっ、」

「ふふ、やっと目が合ったわ」

「本当だよ。そんなに涙を浮かべて……」

「まったく…今までよく頑張ったわね」

「もうここにレイヤはいないから、バレることはないわよ」と安心させるように微笑まれて。


「………っ、」


ポロリと、涙が零れ落ちた。


「そう。ゆっくりでいいのよ」

「レイヤには徳利とお猪口を持たせたからね。暫くは帰ってこないさ」

(あれって…俺の、ため……だったの………?)

もう、どこまでがこの両親の考えなのかまるで分からない。


………でも、

俺にはもう、縋るものが……無くて………



「………っ、け、んかを…して、しまったんです……」



驚くほどすんなりと、言葉が漏れた。







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