ハルとアキ

花町 シュガー

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文化祭編

sideアキ: 想いを、伝える 1

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マントの中から出て来たのは、ーー白。


「白い…魔女……だと?」

「はいっ、そうです」



『ハルっ。ハルの仮装、天使なんてどうっ!? 絶対似合うよ!』

『天使!? 嫌だよっ、僕どっちかというと悪魔だし……』

『えぇぇ!? ハルのどこが悪魔なのさー!』

『あはは……』

『もー…うぅーん、それじゃぁ他の仮装かぁ……』と懸命にネットで調べてくれるイロハを、申し訳なく見つめる。

(俺は天使なんかじゃない、悪魔だよ)

だって〝俺〟がいる所為で、レイヤはまだ本物のハルに会えていないのだから。

俺は、2人の邪魔をする悪魔だ。

『でもなぁ…せっかく想いを伝えに行くんだから、やっぱり衣装は白色の方が……っ、あ!これは!?』

パッとイロハに見せられたのは白い魔女が載っている画面。

『へぇぇ…魔女って黒色と白色があったんだ、知らなかった』

『みたいだねぇ。何々…えぇーっと……黒い魔女は悪い事をするけど、白い魔女は優しくてーー』

〝黒い魔女〟は、物語によく出る悪役のような魔女たちの事を指す。
彼女たちは常に:嘘をついたり|悪い事をしたりして、王子様やお姫様たちを困らせている。

逆に〝白い魔女〟は:嘘をつかない|良い魔女のことを指すそうだ。
シンデレラにカボチャの馬車や綺麗なドレスを作ってあげたり、オーロラ姫の誕生日会で姫に良い魔法をかけてあげたりと、姫や王子の手助けをする役で物語に登場している。

『……っていう違いがあるみたい。ハル、これはどうっ?』

『ーーぅん。これが良い』

『ぇ、ほんと!?』

『うんっ、これがいいなぁ……
でも白い魔女の衣装なんてあるのかな…凄く珍しそう……もう時間もないし……』

『月森先輩にも聞いてみよっ!』

『っ、ぅん!』


そうして、あちこち調べまわって何とか手に入れた衣装。

真っ白い純白のローブをワンピースの様に着て、中には白シャツと膝上の白いズボンを履いている。
ローブには透明の糸で細かい模様が繊細に描かれていて、その糸が月明かりに照らされてキラキラと光っていて、それが凄く綺麗で……

背負っていた、ローブと同じ白い色の綺麗な刺繍が施されたとんがり帽子を頭に被りながら「どうですか?」と聞く。

「あぁ…綺麗だ………
そうか、この仮装の為に部屋の電気を消せって書いたのか……」

「ふふっ、正解です」

暗い部屋の方が、白いローブがもっと白く見える。
更に月明かりで糸が綺麗に光っていて、それらがこの衣装の持っている力を最大限に引き出している様に感じた。

「だが、どうして白い魔女なんだ……? 普通なら黒だろうに、珍しい衣装だな」


「ーー今日だけ、白い魔女の様に…なりたいから」


「は?」

意味がわからないという表情のレイヤにニコリと笑いかけて、ふわりとレイヤから離れ窓にくっつく様に近づく。

そして、窓の外を眺めながらポツリと漏らした。


「ねぇ、レイヤ。

これまで、出会ってからいろんなことがありましたね」


「? ……あぁ、そうだな」


初めての出会いは、最悪だった。

入学式の新入生歓迎の挨拶で、俺様野郎が我が物顔で壇上でマイクを持ち言いたい放題やっていて。
あれがハルの婚約者なのかと本当に頭が痛くなった。

「初めて話したのは、食堂だったな」

「クスッ、そうでしたね」

「俺に挨拶もなしに何やってんだ」とかいう事をいいながらやって来て、そこで初めて話をした。

「あの時は正直驚いたな。俺の手を叩いて逃げた奴は初めてだった」

「ふふふっ、あれはレイヤが悪いんですよ?」

「わーってるよ……お前はいつも真っ直ぐに俺にぶつかって来たな」

そう、真っ向からの宣戦布告。
「互いの内側を知ってから婚約の件は考えよう」と言い放って、レイヤや周りの生徒たちを驚かせた。

「あれから、本当に色々ありましたね……」

「そうだな。会って早々俺にシャンデリアの掃除をやらせたよな、お前」

「あははっ、そういえばそうでしたね」

生徒会に入り業務をしない3人を何とか連れ戻して、体育大会を無事成功させ、トラブルはあったが決算報告書の締め切りにも間に合わせて。

「夏休みのピアノも花火も、本当に有難うございました」

「喜んでくれてるなら、別にいい」

クスリと優しく笑う声が聞こえた。

「文化祭は、すまなかったな」

「いいえ、あれは僕の不注意でもあります。それに、今こうして後夜祭に参加できてるから……

もう、いいんです」


ーー嗚呼、本当にいろいろなことがあったな。


静かに目を閉じて、心の中を見る。



『ねぇ、後夜祭の嘘って、誰にでも吐いていいの?』

『どうなんだろう……その辺って確か指定無かったよね?』

『あぁ、特に無いな』


(それならば)

俺は、レイヤにもうたくさんの嘘を吐いてきた。
数え切れないほど……いっぱい。

そしてそれは俺自身にだって、そうだ。
もう、たくさんたくさん自分の中の想いを否定して、押し潰して押し潰してここまでやって来た。

(もう、限界なんだ)


ーーだから、いい加減に:辞めよう|と思う。



「ねぇ、レイヤ」


覚悟を決めてゆっくりと目を開け、窓からレイヤの方へと体を向けた。

「? 何だ……?」

「あのね、

今日は、貴方に伝えたいことがあって来たんです」


〝後夜祭では、1人にだけ嘘をついていい〟


俺は…もうレイヤにも俺自身にも、嘘をつきたくない。

だからーー


(ごめんね、〝ハル〟)



ーーーー俺は、〝ハル〟に嘘をつく。






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