ハルとアキ

花町 シュガー

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文化祭編

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抱きつかれてた身体が離れていき、向き合うように顔を見られる。

「ハル、熱下がってから元気ないよね」

「ぇ、」

「元気ないというより…落ち込んでるというか……
文化祭、あんなに楽しみにしてたもんね……会長とも回れなくて残念だったよね」

「っ!」

(なんで、わかるの……?)

「クスクスッ。おれも同じ立場だったら、カズマと回れなくて落ち込んでたと思う」

ぎゅぅっと、次はイロハが俺の両手を握ってくれた。


「ハルは、会長のこと……どう思ってるの?」


「………っ、ぁの」


優しく問いかけられて、言葉に詰まる。

心臓がキュゥゥっとなって、涙が出そうになって。

「ハル、大丈夫っ。ゆっくりでいいよ? 
ここにはおれしかいないから、言ってもいいんだよ?」

優しく 優しく、イロハに言われて。



「ーーっ、すきっ、なの……っ」



涙と一緒に、ポロッと溜め込んでた言葉が漏れた。


「正確にいつからなのかは、わからない…けど…すき、で…っ、胸が、苦しい……っ」

〝ハル〟としてじゃなく、〝俺〟の本音。

自分の大切な部分を話してくれたイロハの前で、嘘なんて吐けなかった。

「胸が、苦しいの……?」

「ん、くるし…っ、苦しくて、痛ぃ……っ」

「うん、そっか。今までよく耐えたね。辛かったね」

ぎゅぅっともう一回小さな体に包まれて、背中をよしよし撫でられて。

「ふ、ぅえぇぇ…っ、ひっ、ふぇぇ……」

今までせき止めていたものがフワッと無くなって、涙が溢れて止まらなくなった。

「どうして、胸が苦しいんだろう?」

「言ったら……終わっ、ちゃ…からっ」

「終わっちゃう? 何が?」

「ヒック…今の、関係、がっ」

「今の関係?」

優しく問われてコクッと頷く。


言ったら……

〝俺〟が〝ハル〟として「好き」と言っちゃったら……


ーーレイヤは、ハルのものになる。


それが正しい事だって、ちゃんとわかってる。

そうする為に俺がここに居るってことも、わかってる。

頭では理解してるつもり………なのに


(言いたく、なぃ……っ)


言ったら自分がどうにかなってしまいそうで
でも、言わなきゃ…いけなくて……

苦しくて 苦しくて、ーー痛い。


震えながら泣く俺を、イロハはただただ静かに抱きしめてくれた。

そして、ふふふと笑った。

「ねぇハル」

「……んっ?」

「ハルは今の関係が終わるって言ったけど、それは違うと思うよ」

「っ、ぇ?」

「会長と秘書、先輩と後輩、婚約者…2人の間には、これまでいろんな関係があったよね。
そのどの関係も、終わることは無いんだよ」

そっと体を離されて、目線を合わせられる。

「確かに、想いを伝えることによって会長との今の距離感には終わりが来ると思う。

ーーでも、それはきっと、何か〝新しい関係〟になる為の一歩ってことだから」


「新しい、関係……?」


「そう、新しい関係」

ニコリ、とイロハが笑った。

「新しい関係は、きっときっとハルにとって…かけがえのない大切なものになると思うんだ」

それは、毎日がふわふわとしてとても楽しくて
いろんな事がたくさん起こって、いっぱい笑えて
どんなに辛い事があっても…隣を見れば、支えてくれる大切な人がいて

きっと、この先ずぅっとずっと……幸せな

ーーそんな関係の、世界。


「変わるのは、誰だって怖いよ。もしかしたら思い描いてた関係にはなれないかもしれない。
……でもね、ハル。会長のこと信じてみない?会長はハルの〝婚約者〟っていうのもあるけど…おれ、そんなの関係なくハルのこと凄く大切にしてるなぁって思うんだぁ」

「ぇ、大切…に……?」

「うん!宿題会の時も文化祭の準備でも、おれが見かける会長はハルのこと凄く優しい目で見守ってたよ。
きっと、おれが見てない場所でもそうなんじゃないかなっ?」

「ぁ…………」


(嗚呼、そうだ……)


たくさんの日々を一緒に過ごした、生徒会室の中でも
体育大会の後、メダルをくれた時も
決算時に、グラウンドを駆け巡って気分が悪くなった時も
雷の日、怖くて怖くてどうしようもなかったのを支えてくれた時も
夏休みでの宿題会やピアノの練習や、あの花火の時も
文化祭の準備や、変質者のトラブルの時だって

ーーいつだって、レイヤは俺を見守ってくれていた。

あの優しい体温と、力強い腕と、暖かい笑顔で
いつもいつも…俺を支えてくれて、幸せにしてくれた。


そんなレイヤに、俺は今まで何か返して来ただろうか?


(…っ、俺、もらってばっかじゃんか………)


「ねぇ、ハル。 
ハルは、会長から想いを伝えてもらった?」

「っ、ぅん。伝えて、もらったっ」

ありったけのとろけるような優しい笑顔で、『好きだ』と何度も伝えてもらった。

「ふふっ。それだったら、会長はきっと待ってるよ。

ーーハルの気持ちを」


「ーーーーっ、ぅん、そ、だね」


俺は、レイヤにたくさんの〝初めて〟を…たくさんのかけがえのない事を、教えてもらった。

だから、今度は俺が、レイヤに返す番。


レイヤが……彼が、心の底から喜ぶことはなんだろう?


(そんなの、簡単だ)


レイヤは、〝ハルからの想い〟を、待っている。

もうずっと、ずぅっと……待っている。


(ははっ、俺バカだなぁ)

いつもいつも自分の事ばっか考えて、ほんと恥ずかしい。


俺は、レイヤに幸せになってほしい。

そんなレイヤが、心から望んでいるものは?


ーーハルからの〝想い〟だ。


それは、本来の俺の目的である〝ハルの幸せ〟にも繋がる。

(嗚呼、こんなに簡単な事だったんだ)

ストン、と自分の中に答えが落ちてきた。


(でも)



でも〝俺〟は ーーーー




『後夜祭では、誰か1人にだけ嘘ついていいんだよね?』

『あぁ。そういうルールだな』

『面白いよねぇ』


(ーーっ、そうだ)


「ねぇ、イロハ」

「ん?」

「あのね、手伝ってほしい事があるんだ」

涙を拭いて、覚悟を決めて真っ直ぐにイロハを見つめると


「っ、ぅん! もちろん!何でも手伝うよ!」


嬉しそうに頷いて、再びぎゅぅっと抱きしめてくれた。





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