ハルとアキ

花町 シュガー

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文化祭編

sideアキ: 感情の在り方 1

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「ハル、ちょっと外行く。明日の朝には戻っから」

「はぁーい、いってらっしゃいっ」

玄関まで佐古を見送って、パタンと閉まったドア。

(文化祭来てくれたからお礼言いに行ってくるって……すごくない?)

どんだけ真面目なんだよあいつ……
でも、外の友だちも佐古のこういう部分が好きで一緒にいるんだろうなぁ。

(好き…好き……か)

伝えないといけない、その2文字の言葉。
たった2文字なのに口に出すのを躊躇してしまっていて……

「はぁぁぁ……弱いなぁ俺」

せめて、一緒に文化祭回れたなら良かった。
それだったら「最後に思い出ができたから」って自分を納得させられるのに……

(もっと強くなんなきゃいけない、のに…な……)


ーーコンコンッ


「ん?」

凄く控えめな、静かなノック音。

『こ、こんばんわっ、ハルまだ起きてる?』

「イロハ……?」

もうすぐ消灯時間になるのに、一体どうしたんだろ……


カチャッ

「こんばんはイロハっ、どうしたの?」

「ハルっ。起きてたんだね、良かった」

いつもの元気な声のボリューム落として、えへへと笑っている。

「窓から佐古くんが外行っちゃうの見えて、ハル今1人なのかなって。カズマもね、今日は寝るの早くてもう寝ちゃったんだー」

「そうなんだっ」

「うんうん。

ーーだからね、ハルをデートに誘いに来たっ」

「へっ? デー…ト?」

「おれと、ちょっとだけ一緒に散歩しよ?」

「散歩……?」

「今日は月明かりが凄く綺麗なんだっ、だから行こう? ほらほら、なんか羽織って来てハル、急いで」

「ぇ、え? ぁ、はいっ」

急かされるまま、部屋にあるカーディガンを取りに行った。








「やっぱ夜は冷えるねぇ」

「そうだねっ、もう季節も秋だからかなぁ」

「ハル寒くない? 大丈夫っ?」

「クスッ、大丈夫だよ、有難うイロハ。イロハは平気?」

「もっちろん!こんなのへっちゃら!!」

そっと2人で寮を抜け出して、イロハに連れて行かれるまま話しながらゆっくり歩く。

(どこに、向かってるんだろう?)

でも、この道は知ってる。

多分…この先にはーー


「はいっ、とーちゃくー!」


「……森の中の噴水?」


イロハたちと出会った11個目の噴水の場所。

パタパタパタ…とイロハが噴水へ駆けて行って、その淵の砂をサッと落とした。

「ほらハルっ、ここ座って?」

「ぁ、う、うんっ」

言われた通り、イロハの隣にストンっと腰を下ろす。

(何か、ここ来るの久しぶりだなぁ……)

最後に来たのはいつだっけ?


ーーあぁ、そう。


(レイヤから、花火のプレゼントを貰った時だ)

あれから直ぐに新学期が始まって、文化祭準備に追われて来れてなかったんだった。

あの日も、何も告げられずにここまで歩かされたよな。
わけもわからず連れて来られ、他愛のない話をしてて、そしたら大きな音と一緒に大輪の花火が上がって……

思わず、暗い夜空を見上げる。

(凄く、綺麗だったなぁ……)

初めての花火は本当に綺麗で。
でも、何より嬉しかったのは…それがレイヤからのサプライズだったという事。

(あの花火は〝ハル〟に向けてのものだってちゃんと分かってるけど…でもちょっとだけ、俺も心の隅に置かせて貰っちゃだめかな……?)

あの出来事を、〝思い出〟として

心の真ん中じゃなくていいから、隅っこの方にだけーー


「………っ」


(だめだっ)


俺、本当涙もろくなった。
レイヤとのこと考えるだけで、涙が出てくる。

隣にいるイロハに見られたくなくて、上に向けていた顔を下に向ける。

と、


「ーーねぇ、ハル」


「っ、どうしたのイロハ?」


ポツリと、静かに発せられた声。
いつもの元気な声じゃなく、ただただ落ち着いた…凛としてる静かな声。


「〝ぼく〟ね、カズマのことが好きなんだ」






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