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文化祭編
sideアキ: 視線を、追う
しおりを挟む「ーー以上で、第2回実行委員会会議を終了いたします。皆さん、お疲れ様でした」
第2回の打ち合わせも無事終わり、副会長さんと一緒にホッと息を吐いた。
昨日俺が倒れたことを学園のみんなは既に知っていて(流石の情報網というか、とにかくこういう話は回るのが凄く早い…この学園あるあるなのか?)
今日会議で使う教室に入った途端、実行委員のみんなにとても心配された。
「本当にもう何もないからっ。大丈夫だよ、有難う~」
クラスのみんなにも「初めての文化祭だし、気を張りすぎちゃった」と話すと納得してもらえた。
(ハル、この学園にもう溶け込んでるなぁ)
〝ハルに何かあった時、みんなが惜しみなく手を差し伸べてくれるような…そんな環境にする事〟
この事項は、もう達成出来そうな勢いだ。
良かった……
後はレイヤと、ーー新たに出てきた変質者の件。
(早く、何とかしないと……)
「小鳥遊くん、黒板写し終わりましたか?」
「はいっ。待っていただき有難うございます、副会長さん」
「いいんですよ。昨日倒れたと聞きましたからね。今日は一緒に生徒会室へ帰りましょうか」
「有難うございますっ」
話しながら教室を出ると、第1回目の時に向けられたような強い視線を感じて、思わずバッと勢いよく見られた方向へ目を向ける。
「小鳥遊くん? どうされましたか?」
(いつもだったら、ここで怯えて逃げてる……)
でもーー
「……副会長さん、先に戻っててくれませんか?」
「え? 何故です?」
「ちょっと自分のクラスに忘れ物しちゃったの思い出しました。取りに行ってから生徒会室へ向かいますので……」
「あら、そうなのですか。それは仕方ないですね」
「すみません」
「いいえ。ノートは私が持っていきますので、生徒会室でお待ちしておりますね。今日の反省会をしましょう」
「はいっ」
(ごめんなさい、副会長さん)
嘘をついてしまった事を心の中で謝りながら、俺は視線が向けられていた方向へと小走りで歩いた。
「っ、寒いな……」
季節はもう夏から秋に変わろうとしていて、校舎の中でも薄着だと少し肌寒い。
(まぁ、文化祭だし〝芸術の秋〟ってか?)
そんな事を考えながら、視線の人物……恐らく不審者を追っていく。
ここ最近ずっとずっと悩みまくって、食事も喉を通らなくて、寝れなくて…遂には倒れてしまって……
そんな事があってから貰った写真。
その写真は、レイヤの顔だけを黒いマジックで塗りつぶしたものばかりだった。
それを見て、俺は恐怖を通り越して〝怒り〟を感じた。
(っ、この野郎が……舐めるなよ)
俺だけだったら、まだいい。
でも、レイヤの顔をこんなにも悪質に塗りつぶした写真が送られた。
その事実が、どうしようもなく ーー許せない。
人間、一周まわったらこうなるもんなのかなぁ。
あれだけ悩んでたのに、今は恐怖よりも怒りの方が強くて。
俺以外にまでこんな事しやがって。
これは、全力で不審者を追ってガツンと叩きのめすのみ。
(しっかし、奴はどこに連れて行こうとしてるんだ……?)
視線を見失ったと思った途端また視線を浴びせられて、まるで誘導されているかの様な感覚。
まぁ、乗ってやるけど……
しっかし本当この学園広すぎ。どこまで行くんだよ…ったく……
ずんずんと学園の奥まで進んで行く。
ふと気がつくと、下校中の生徒たちとすれ違う事もなくなっていた。
(この辺りは、あんまり使われていないのか?)
こんなとこまで連れ出すなんて、本当悪質野郎だな。
これは、流石に顔を拝まないと帰れない。
ギラッと貰った視線に〝次の角を曲がれ〟と言われた。
(言われなくても曲がってやるよ)
もう、奴まで近いんだろう。
無意識にカタカタ震えだした手を自分でぎゅっと握りながら、早足で歩く足を緩めて……指示された曲がり角をゆっくりと曲がっていく。
とーー
「ーーーーハル様」
ビクッ
「っ、ぇ………?」
突然ガシッと肩を掴まれる。
びっくりして振り返ると、何故か月森先輩が立っていた。
「月森、先輩…? どうして此処に……?」
「ハル様こそ、こんな場所で何をしておられるのです?」
「ぇ、いえ…その………っ」
パッと曲がり角の向こうへ目を向けるが、もうそこに不審者はいないのか何の視線も感じない。
(あいつ…逃げたか……)
「ハル様?」
「ぁ、はいっ!」
「……はぁぁ…全く貴方は………
こんなところまで来て、一体何をされているのですかと聞いているのですが?」
ガシッと肩を壁に押し付けられて、よそ見しないように顔の隣に手を置かれて。
…これは、謂わゆる〝壁ドン〟の体制になって逃げられない様前から先輩に覗き込まれる。
「えぇっと…ま、前々からこの場所が気になってて、どんな処なのかなぁって思い切って探検を……っ」
「へぇ………〝探検〟ですか……」
じぃ…と真っ直ぐに見られて、つい視線が彷徨ってしまう。
「……」
「……っ」
「………」
「……ぁ、ぁの……っ」
「…………はぁ。
まぁ、今回はそういう事にしておいてあげましょう」
スッと先輩の手が離れて行って、そっと息を吐いた。
「ほら、生徒会室へ帰るのでしょう? お送りいたしますよ」
「ぁ、有難うございますっ」
「しょうがありませんね」と苦笑するように微笑む先輩にホッと肩の力を抜きながら、生徒会室への道のりを戻っていった。
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