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文化祭編
sideアキ: ぐらぐら、揺れる
しおりを挟む「ーーであるから、ここの答えはこの公式を使っていく。この法則はー……」
いつも通りの授業中。
でも、俺のノートは変わらず真っ白だ。
結局、考えても考えても……もう犯人が誰なのか全くわからなかった。
手紙の数は30を超え、もうすぐ40に届きそうな状態。
1000枚近くある写真の中に何かヒントがありそうな気がするけど、気持ち悪くてどうしても見る気になれない……
特に、あの衣装合わせの時のもの。
あの場面の写真には、これまでで1番の恐怖を感じた。
俺が空き教室で制服を脱いでいる写真。
素肌の上に着物が掛けられる写真。
着付けをされながら、楽しそうに笑っている写真。
髪の毛を弄られて、くすぐったそうに目を閉じている写真。
出来上がって鏡を見て驚いている写真。
ーーそして、ドアップの……上半身の素肌のみが写っている写真。
もう、ただただ純粋に〝気持ち悪い〟しか出てこなくて。
あのピンポイントな写真を貰ってから、俺の恐怖心は一気に跳ね上がった。
もう学校へ行くのが怖いくらいで、部屋から出たくないと必死に心が叫んでる。
それでも、周りのみんなに心配かけまいと一生懸命笑って過ごしている…けど……
(正直、も、無理………っ)
心が冷え切って、息が詰まる。
授業なんて、一体いつから聞いてないっけ?
あぁ本当、誰かに教えてもらわないと相当やばいなぁ。
(なぁ、誰なんだよ)
なんの目的でこんな事やってんの?
〝俺〟だから良かったものの、これがハルだったら一大事だよ、まじで。
ねぇ、気づかねぇの?
見えてんだろ俺が困ってんの。
ーーもう、辞めてくれよ。本当に。
ぐらぐら、ぐらぐら。
今日はやけに視界が揺れる。
(頭が、ぼーっとする……)
答えが出ない犯人探しに、毎日のように貰う大量の写真に、時々浴びせられる嫌な視線に。
知らず知らずのうちに、体は限界を迎えていたーー
「小鳥遊。教科書のこの問題の答えを読むんだ。」
「っ、はい」
ズイッと椅子を後ろにずらして、教科書を手にしながら立ち上がった
ーーつもりだった。
(あ、れ?)
立ち上がろうと踏みしめた床の中に、何故か足が沈んでいく感覚。
そのままどんどん体が床に吸い込まれていってしまって、床との距離が、だんだんと……近くなってきてーー
バサバサバサッ、ガシャンッ!!
「っ、ハル!?」
「小鳥遊くん!?」
「お、おいっ!」
焦ったようなみんなの声が、遠くに聞こえる。
(あ、やばい……起きなきゃ………)
心配させまいと倒れてしまった体を必死に起き上がらせようとするけど、全然力が入らない。
「ーーハル」
ふわりと、知ってる体温が優しく抱き起こしてくれた。
「っ……ぁ、さ…こ……く………」
「大丈夫だから、喋んな」
そのまま、体がゆっくりと浮かび上がるような感覚。
「ハルっ! ハル!!」
「イロハ落ち着けっ」
「だってハルが!」
「保健室連れてくから。お前らはここにいろ」
「っ、でも!」
「ちゃんと俺が連れてくから。 な?」
「ーーっ、わか、た……」
「頼んだ、佐古」
「おう」
(イロハ、カズマ、ごめん………)
心配かけて、ごめん。
謝りたいけど、もうそれすらできないくらい……体が重い。
「運んでやっから、少し寝てろハル。大丈夫だから」
頭上から、優しい声が降ってくる。
同じくらいに優しい体温に包まれて、揺らさないよう歩いてくれる振動を感じながら
ーー思い浮かべるのは、たった1人だけ。
『ハル』
(レイ、ヤ……)
嗚呼、今どうしようもなく
ーーーー貴方に、会いたい。
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