ハルとアキ

花町 シュガー

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文化祭編

sideアキ: 次の行事は

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「じゃあ、会議を始める」

新学期始まって早々、生徒会役員は会議のため放課後生徒会室に呼び出された。

「今回の行事は1年で1番大きなものだから、早めに動き始めるぞ」

「「「「はい」」」」

(1番大きな……一体なんだろう)

体育大会も結構でかかったと思うんだけどなぁ。
まぁ、個人的には1番大きな行事は決算期だったけど……


「ーー文化祭だ」


「文化、祭?」

〝文化祭〟とは……
体育大会が全校生徒で体を動かす行事であれば、文化祭は謂わば全校生徒で芸術を楽しむものらしい。

各クラスでそれぞれ1つ展示や出し物をやって、各部活動はそれぞれに何かパフォーマンスをし、そして各委員会や希望するグループ・個人も、何かしらの見世物をする。

「文化祭にはね、2つあるんだよ~!」

「2つ?」

「…ん、2つ、ある……〝本番〟と、〝後夜祭〟…」

「本番と、後夜祭……?」

本番とは、上記で述べたようなことを2日に渡って行うもの。
本番は体育大会のように外部の者を招いて行われるのだそうだ。

そして後夜祭は、本番の1週間後の放課後に行われる。
謂わば本番の打ち上げのようなもの……なのだそうな。

「本番の2日間とかそれまでの個人個人の準備とかがかなりハードだからね~!1週間後の後夜祭でパーっとみんなで打ち上げするのがこの学園の伝統なんだ~!」

「そうなんですね。でも、どうして1週間後……?」

打ち上げなら、本番終わった次の日にでもすればいいのに……

「昔は次の日に行なっていたそうなんですが、当時3年生には文化祭の後すぐに模試があっておりまして……
それで、〝模試が終わった後の方が3年生も心から楽しめるだろう〟という昔の生徒会長の計らいにより後夜祭がずらされ、それが今も残っているんですよ」

「まぁ、今はもうこの学園はその模試を受けていないので、ずらす意味も無くなりましたが」とふふふと副会長さんが説明してくれる。

「そうなんですね!」

「ですが、もうそれを昔のように元へ戻すことは難しいですね」

「? どうしてですか?」

「後夜祭では打ち上げの他にもいろいろな事をするんです。その為にも1週間ほど準備が必要で……」

(成る程………)

要するに、文化祭は2つの行事がまとまってるようなものなんだな。
体育大会の1.5か2倍くらい大変なのか…頑張ろう……

「まぁ、夏休み存分に休んだし、こっからまた正念場だな」

ポンッと頭の上へ、知ってる手の温度が乗ってきた。

「お前は初めてだろうが、今回はお前も参加できる行事だ。生徒会としての準備は勿論だが、文化祭楽しみにしとけよ、ハル」

「っ、はぃ」

フワリと優しく微笑まれて、手が戻っていく。

ヒソヒソ……
「ね、ねぇ~何かかいちょーと小鳥遊くんの距離縮んでない?俺だけ~?」

「…なんか、仲良くなってる…気、する……」

「気ではなくて、事実でしょうねぇ」


「お前ら聞こえてんぞ。ほら、会議に集中しろ」


「「「はーい」」」

会計さんたちの会話に思わず顔が赤くなる。

(うぅぅ、くそ……)

やっぱ、距離感近く見えてんのかなぁ……


自分の気持ちに気付いてから少しだけ自分に素直になってみた結果、前のような気まずさは全くなくなった。

もっとガツンと心に来るかと思ったのに、痛みもそこまで深くはない。

(こんな事なら、もっと早く認めとけば良かったなぁ……)

好きと認める事が出来ずに葛藤してた時の方が、まだ辛かった。

今は…なんというか、こう……〝諦め〟というか……

どんなに俺がどうこうしても、レイヤは〝ハル〟の婚約者で俺のには絶対にならない。


だから、今はせめてーー

さよならが来るその時までは、レイヤの隣にいさせて欲しいと思う。

ずるい考えだけど、その時が来るまでは……どうか密かに想わせて欲しい。


あの花火の日、来年の約束をハルへしてくれたレイヤに
俺は降参の白旗を振った。

レイヤのハルへの想いを疑って、一瞬の気の迷いなんじゃないかと監視していたけど
それは俺の杞憂に終わった。

一瞬の気の迷いであんな大掛かりなことをするはずないと思う。
それに、来年の約束まで……

病弱な上に学園から出れないという壁が立ちはだかっても、レイヤは他の人へ行くのではなくその壁を強く乗り越えてきてくれて

俺は、もう認めるしかなかった。

今のレイヤになら、素直にハルを任せられると思う。
出会った時は最悪だったけどな。

思い出して、会議の中ふふふと小さく笑ってしまう。

(本当、かっこよくなったね、レイヤ)


ーーあぁもう、本当に大好きだ。



(文化祭、頑張ろ)

この前家に帰った時、花火のプレゼントを貰った事や現在のレイヤの変化を包み隠さず全部両親に報告した。

今までで1番嬉しそうな顔をして俺の話を聞いていた2人に、

ーー俺は〝交代の時は近いな〟と感じた。


これが、多分
俺がハルとして関わることができる、最後の行事。


(絶対絶対、成功させよう)

体育大会よりずっと大変な行事らしいけど
でも、絶対絶対やりきって

ーーレイヤの中に〝思い出〟として、ずっとずっと残ってて欲しいと……思う。

その思い出の中にいるのは俺ではなくて〝ハル〟だけど
でも、それでいい。

レイヤが高校を卒業する時、「そういえば2年の文化祭ではこんな事したよな」って振り返って少しでも思い出してくれたら、もう十分だ。


(……っ、文化祭、絶対成功させよ)


胸の奥がキュウっとなって、鼻がツンとする。


いい思い出として、少しでもレイヤの心の中に……残して貰えるように。

俺は一生懸命、会議に集中したーー






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