ハルとアキ

花町 シュガー

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夏休み編

sideアキ: それは、予想もしていなかった事 1

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「もう完璧だな」

「ふふふっ」

ポロロンと綺麗な音が響く、第3音楽室。

教えてもらう予定だった5曲は、もう全部マスターした。

「他の曲も教えてやろうか?」というレイヤからの提案は、丁重にお断りした。
俺としては教えてもらいたかったけど、でもハルはピアノが得意ではないし、入れ替わった時に新しく習った曲が弾けなかったらバレる危険性があるから。

(習うのって、こんなにわくわくするもんなんだな)

初めて、誰かに何かをしっかり教わった。
今まで教えてくれる人なんかハルしかいなかったから。
いい経験できた……本当。

帰ったらハルに報告しよう。






「ーーん、そろそろ時間だな」

「? 何のですか?」

いつもならもう少し互いに弾いてから帰るのに……

まぁ夏休み最終日だから、いろいろやることあんのかな。

今日は夏休み最後の日。
ピアノも、今日で弾き納め。

(楽しかった、な……)

ちょっとだけ…寂しい、かも………

「ほら、何してるハル」

「っ、へ?」

「お前も行くんだぞ。 ほら立て、帰る準備しろ」

「ぇ、え?」

パッと両脇に手を入れられ椅子から立たされて、せっせと急かされる。

そうして2人で音楽室を綺麗にすると、「行くぞ」と手を取られた。

「ぇ、ちょ、レイヤっ? 何処行くんですか……?」

「いいから付いて来い。 ほら、歩け」

前を向いたまま楽しそうな口調で言われて、仕方なくおずおずとついて行った。








繋いだ手から熱が伝わってきて、ぞわぞわと緊張する。
何だかふわふわするような……そんな、いつもの感覚。


「ーーん、着いた」


「え? ここって……」

(森の噴水の場所……?)

何でこんな所に連れてくるんだ?

辺りはもうだんだんと暗くなり始めてて、リィンリィンと夏の虫の鳴く音が聴こえてくる。

「ここに、なにか用ですか?」

「ん? ん、そうだな……」

腕時計を見ながら「後もうちょっと時間あるか」とブツブツ呟いてる顔を、不思議そうに見上げた。

「ハル、ピアノ楽しかったか?」

「はいっ、とても」

「そうか。良かったな」

「ふふふ。教えていただき有難うございました、レイヤ」

「別に、これくらい良い。お前手かかんなかったし飲み込み早かったしな。その内コンクールとか出てみたらどうだ?」

「えっ?」

「〝好きこそ物の上手なれ〟って言うだろ。お前も好きそうに弾いてたし、思い切って一度極めてみたらどうだ?」

「いやっ、え…っと……
確かにピアノを習うことはとても有意義な時間でした。 でも、それは僕がピアノが好きだからではなくて、レイヤに教わるから楽しかったのであって……」

「………お前、自分が何言ってるかわかってんのか?」

「へ?」

「その言い方だと、遠回しに〝俺に教わる事が好き〟っていう言い分になるんだが……」

「? そうですけど」

そのつもりで言ったんだけどなぁと首をかしげると、レイヤにフイッと顔を背けられた。
心なしか顔が赤く、耳も赤い気がする。

(ぇ、何?)

もしかして

「照れてます……?」

「っ、うっせぇよ」

手を繋いでないほうの手で顔を覆っている。

え、ぇ、何これ。
何か、すっごい可愛いんだけど。

「ピアノが好き」じゃなくて「レイヤとの時間が好き」って遠回しに伝えてみただけなのに。

「……レイヤ、ちょっとかがんでください」

「あ? なんでだよ」

「顔見たいんでかがんでください、ほら」

(これは…いつものお返しすべきだな……!)

この場面はからかうべき、うんうん絶対そうだ!

ギュッと目の前の服を握ってグイグイと下に引っ張る。

「ほーら、レーイヤっ」

「っ、てめ、引っ張んな伸びるだろうが」

「レイヤがかがめば済む事でしょう?」

「は? 嫌だっつっんだろ」

「えー? そう言わずにほらほら」

「おいやめろっ」

「あははは!」

赤くなってるレイヤをからかって笑って。

そのままじゃれあって、いろんな話をして。


ーー知らないうちに、辺りは暗くなっていて。



ヒュゥゥゥゥ………



「ん?」

(今、何かあっちから変な音がした?)


レイヤから視線を外して、
振り返って音がした方の空を見上げる。

と、



ドォォッン!




「ーーーーっ、え………?」







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