ハルとアキ

花町 シュガー

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夏休み編

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「か、会長と友だち……って………」

「ハ、ハル…何言ってるか分かってるのか……?」

「ぼ、ぼぼぼくっ、無理です…っ!」

丸雛と矢野元は呆然と、星野はガタガタ半泣きになりながら答えている。

「っ、ははっ、ふっ、クスクスクスッ」

「……おい月森、笑うな」

「すいませっ、はははっ」

そんな中、終始笑顔のポーカーフェイスな月森先輩が我慢できないというように吹き出した。
ハルも目を丸くして凝視している。

「ま、まぁ、あわよくばでいいからっ、ね?
ほらっ、僕お菓子とか色々準備してるんだよねー食べようよー!」

「はい、みんな飲み物は紅茶かコーヒーどっち!?」と強引に現実へ戻し、謎の研修会が始まった。



「先ずはさ、やっぱり自己紹介からだよね?」

「クスッ、そうですねハル様」

月森先輩は親衛隊長らしく、ハルのサポートに着き始める。

(自己紹介って……)

時計回りで順番にとか、合コンかなんかかこれは………?

「はい、じゃぁイロハからどうぞっ」

「あ、ぇ、おれ!? あ…えぇっと……丸雛イロハです。クラスはハルと同じ1年A組です。お菓子づくりが好きです。よ、よろしくお願いします…?」

「…丸雛……あのお菓子のまるひなか」


パコンッ!

「っ、てっ!」


「「「「!?」」」」


(か、会長を叩いた!?)

(ハル…何そんな叩く用の大きな紙準備してるんだ……)

(ハル様っ!?)

「こらー!会長そこは違うでしょう?
まるひなは会社です。今はお菓子づくりの部分に注目すべきです!」

ビシッ!とすかさず注意する。

(あー成る程……内側研修って、こういう事か?)

要するに、会社とか見た目とかそう言った部分は全部取り除いて純粋にその人の性格を知ろうとしてるって事?

会長はむすっとしながらハルを睨んだが、何も言わずそのままスイっと丸雛の方を向いた。

「……丸雛は、何の菓子作んのが好きなんだ」

「ぇっ、ぁ、えぇっと…! わ、和菓子とか洋菓子とか、全般的に……あ、でも自分でレシピ考えるのも好きで!」

「自分で? ほぉ……例えば?」

「ええっと、この前はーー」

少しづつ、しっかりとした会話をし始める丸雛と会長を、ハルは優しく見守っていた。

「ーーへぇ……じゃぁ今度食わせろ」

「ぇ」

「ハルも業務してんだし、差し入れ持って来いよ」

「っ! は、はぃ!」

「ふふふっ、じゃぁ次、カズマね」

「ぁ、あぁ。俺の名前はーー」

そっからは、順番に自己紹介をして、会長がコメントしてそれに答えて会話して…というように流れていった。



「はい、じゃぁ次は佐古くんね。」

みんなの視線が一気に集まる。

「…………佐古だ」

「あぁ」

「挨拶自己紹介は特にねぇ。俺はてめぇに聞きたいことがある」

「……? 何だ」

(さ、佐古くんっ!?)

みんなの焦ったような呟きが聞こえるが、今はフル無視だ。

生徒会室に行くんなら、前々から面向かって会長に聞きたかったことがあった。
ハルには、いくら聞いても「何も無い、解決した」という言葉ばかりが出てくる。

(それは、一方的になんじゃねぇのか?)

ハルはそう思ってても会長は違うのではないかと、ずっと考えていた。

シィ…ンとした緊張感に包まれた中、睨むようにして口を開く。

「お前、ハルには本当にもうあの時みたいな事してねぇだろうな」

「……は? 何のことだ?」

「あぁ? 忘れたとは言わせねぇぞ」

「ぁっ、えぇっと、それはーー」

「ハルは黙ってろ」

(お前からの意見は、もう嫌という程聞いた)

あの日、シャツを破かれて手首に痣つけられてガタガタ震えてたんだぞ。
本当にもう何もねぇのか?

みんなが固唾を呑んで見守る中、じっくり考えた会長が静かに口を開く。

「……あぁ、もしかして体育大会前の事を言っているのか?」

「そうだ」

「そうか。あの後、お前がハルを助けたのか」

「どっかの誰かさんが痛い程やってくれたからなぁ」

あれは、酷かった。
あの時の怯えたハルの顔が浮かんで、ギリっと睨みつける。

「ハルは〝和解したからもう何もねぇ〟ばっかり言いやがるが俺は納得してねぇ。てめぇからの意見を聞かせろ」

ピリッとした空気の中、一度ゆっくりと会長が目を閉じた。

そのまま、またゆっくりと目を開けて真っ直ぐに俺を見る。

「あれは確かに和解して、今はもう何も無い。俺も、ハルにあんな事はもうしないと誓った」

「……本当かよ」

「あぁ、本当だ。だからこの件に関しては信用してくれていい。 寧ろ、あの時ハルを助けてくれた事に感謝する。

ーーありがとう」


「っ、」


綺麗に、会長が頭を下げた。

丸雛たちも、ハルも、月森先輩でさえも、みんながびっくりした表情で会長を見つめている。


(…………っ、くそ)

「……わかった。もういい」

ここまで誠意を見せられて、責める気になれなかった。

(変わったな、こいつ)

ハルと出会ってから俺も変わったが、こいつも着実に変わって来てるのか?

「……ふふふ。佐古くんは、以上でいいかな?」

「あぁ、いい」

「はいっ。それじゃぁ次はタイラだね~!」

「ひぅっ!」

「さぁさぁ!元気な自己紹介していこ~!」

「ハ、ハードルあげないでくださいハルさま~~!!」

「ふふふふっ」

みんながクスクスと笑って、さっきの空気は何処かへ行ってしまった。




そうして全員回りきった頃には、お茶会は始まった頃よりは打ち解けた雰囲気になっていて。

「クスクスッ、会長ももっと内側みてくださいね~」

「はぁ? もう散々見てんだろうが」

「だ・め・で・す。まだまだ甘いですよっ」

「ふふっ、ハル様は厳しいですね」

「月森先輩はどう思います? あ、そう言えば先輩は会長と同じ2年A組ですよね、教室での会長ってどんな感じなんですか?」

「教室でですか?そうですねーー」


ヒソヒソ……

「ね、ねぇ…なんかさ」

「会長……雰囲気変わったな」

「それですよねっ。前はもっと尖ってたというか…何というか凄い我が道を行くお方だったのに……」

「ハルにあんなに怒られてもちゃんと言うこと聞いてらっしゃったね…何か佐古くんの時も頭下げてたし……」

「あれは意外だったな……何があったかは知らないが、会長がここまで変わったのはハルの力なのか?」

「ハル様…すごい……」

「会長、前程怖くないかも」という会話が3人の中で繰り広げられいる。


「なになに? 僕もいーれてっ」

「わぁっ、ハル!」

「ふふふっ、席交代しよー!」

「クスッ、それでは私が龍ヶ崎の隣に行きましょう」

「あ、有難うございますっ」


そこからは、わいわいとみんなで会話して、楽しくお茶と会話を楽しんだ。




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